「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・42
「来るわよ」
「来る?」
「わかるでしょう」
範子はいらいらとした調子でいった。
文子には、わかった。百二十パーセントくらい、よくわかった。
「わかってるけど、範ちゃん」
文子は周囲を見回した。
真っ暗な、夜の教室である。そして外にはだだっ広い砂漠が。
「確かに、わたしたちがいるのは放課後の教室には間違いないけれど、だからといって、『はやぶさ』が帰ってくるのを見るためだけに、こんなオーストラリアの砂漠で、寒さに震えながら教室にいることもないんじゃないかと思うんだけど」
「おじけづいたの? 文子」
「おじけづいたとかそういう問題じゃないと思うよ、範ちゃん。普通、理性的に考えれば、まず、わたしたちのやることは、屋上へ行って火を焚くなりなんなりして、救助を待ってここを出ることだと思うよ」
範子は文子の言葉に心を動かされた様子はまったくなかった。
「なにがあっても、わたしたちは、『はやぶさ』を待つわよ」
「そこまでこだわらなくても」
「わたしはッ! どんな困難な状況下におかれてもッ! それをことごとく跳ね返して、予定を三年もオーバーする苦しい旅を見事に乗り越えてきた『はやぶさ』の偉業に涙するッ!」
「その、荒木飛呂彦先生みたいなしゃべりかた、やめたほうがいいよ。アマチュアの作家が使うのは、今となっては単に読みにくくてうざったいだけだから」
「しゃべりかたなんてどうでもいいのよ。わたしたちは、SFファンの端くれとして、その場にいるだけでも光栄なんだから。文子、今、何時?」
「えーとね、待って……? わたしの時計で午後九時四十五分だよ」
「ということは、えーと、新聞記事によると、再突入が日本時間で午後十時五十一分だから、まだ時間はあるわね。文子、窓から空を見て。なにか見える?」
「一面の星空ばかりだよ。日本とはだいぶ違うね」
「そりゃあそうよ。ここは南半球だもの。南十字星とか、見える?」
「簡単にいうけど、わたし、南半球なんか来たことないから、南十字星がどこに見えるのかすらわからないよ。そもそも、こんな真っ暗な中で、どっちが南かを判断する方法すら思いつかないよ。範ちゃん、磁石ある?」
「こんなこともあろうかと思って、コンパスを持ってきたわ。もちろん、円を描く道具じゃないほうよ」
「準備がいいね、範ちゃん。もしかしたら、この事態、わかっていたの?」
「わかっていたわけじゃないわ。でも、SFファンだった作者が、こんなSF的に記念すべき状況下において、『はやぶさ』がらみのことをやってこないはずはないでしょう? だから用意しておいたのよ」
「さすがだなあ、範ちゃん。でも、知っていたんだったら、わたしに先に知らせてほしかったよ、そしたら家でニコ動見ているのに」
「ニコ動なんかじゃだめよ。わたしたちは、落ちてくるカプセルを、ぜひともこの目で見なくちゃならないのよ。そのためには……」
「あっ、範ちゃん、あそこに、道標があるよ。双眼鏡ある?」
「スターライトスコープがあるわ、望遠レンズつきの」
「ほんとに、変なところにお金をかけるね、範ちゃん。でも、この暗闇でもめちゃくちゃ明るく見ることができる道具を使えば……ええと、なになに。『グレートサンデー砂漠』だって」
「グレートサンデー砂漠! オーストラリアの砂漠には違いないけれど、カプセルが落ちるウーメラ地区は……千キロ以上先じゃない!」
「どうするの、範ちゃん?」
「文子」
「なあに?」
「屋上へ行って火を焚きましょう。SOSを送らないと、こんな秘境で、わたしたち死んじゃうわよお!」
いまだ二人が生きて帰れたかについての情報はない。
「来る?」
「わかるでしょう」
範子はいらいらとした調子でいった。
文子には、わかった。百二十パーセントくらい、よくわかった。
「わかってるけど、範ちゃん」
文子は周囲を見回した。
真っ暗な、夜の教室である。そして外にはだだっ広い砂漠が。
「確かに、わたしたちがいるのは放課後の教室には間違いないけれど、だからといって、『はやぶさ』が帰ってくるのを見るためだけに、こんなオーストラリアの砂漠で、寒さに震えながら教室にいることもないんじゃないかと思うんだけど」
「おじけづいたの? 文子」
「おじけづいたとかそういう問題じゃないと思うよ、範ちゃん。普通、理性的に考えれば、まず、わたしたちのやることは、屋上へ行って火を焚くなりなんなりして、救助を待ってここを出ることだと思うよ」
範子は文子の言葉に心を動かされた様子はまったくなかった。
「なにがあっても、わたしたちは、『はやぶさ』を待つわよ」
「そこまでこだわらなくても」
「わたしはッ! どんな困難な状況下におかれてもッ! それをことごとく跳ね返して、予定を三年もオーバーする苦しい旅を見事に乗り越えてきた『はやぶさ』の偉業に涙するッ!」
「その、荒木飛呂彦先生みたいなしゃべりかた、やめたほうがいいよ。アマチュアの作家が使うのは、今となっては単に読みにくくてうざったいだけだから」
「しゃべりかたなんてどうでもいいのよ。わたしたちは、SFファンの端くれとして、その場にいるだけでも光栄なんだから。文子、今、何時?」
「えーとね、待って……? わたしの時計で午後九時四十五分だよ」
「ということは、えーと、新聞記事によると、再突入が日本時間で午後十時五十一分だから、まだ時間はあるわね。文子、窓から空を見て。なにか見える?」
「一面の星空ばかりだよ。日本とはだいぶ違うね」
「そりゃあそうよ。ここは南半球だもの。南十字星とか、見える?」
「簡単にいうけど、わたし、南半球なんか来たことないから、南十字星がどこに見えるのかすらわからないよ。そもそも、こんな真っ暗な中で、どっちが南かを判断する方法すら思いつかないよ。範ちゃん、磁石ある?」
「こんなこともあろうかと思って、コンパスを持ってきたわ。もちろん、円を描く道具じゃないほうよ」
「準備がいいね、範ちゃん。もしかしたら、この事態、わかっていたの?」
「わかっていたわけじゃないわ。でも、SFファンだった作者が、こんなSF的に記念すべき状況下において、『はやぶさ』がらみのことをやってこないはずはないでしょう? だから用意しておいたのよ」
「さすがだなあ、範ちゃん。でも、知っていたんだったら、わたしに先に知らせてほしかったよ、そしたら家でニコ動見ているのに」
「ニコ動なんかじゃだめよ。わたしたちは、落ちてくるカプセルを、ぜひともこの目で見なくちゃならないのよ。そのためには……」
「あっ、範ちゃん、あそこに、道標があるよ。双眼鏡ある?」
「スターライトスコープがあるわ、望遠レンズつきの」
「ほんとに、変なところにお金をかけるね、範ちゃん。でも、この暗闇でもめちゃくちゃ明るく見ることができる道具を使えば……ええと、なになに。『グレートサンデー砂漠』だって」
「グレートサンデー砂漠! オーストラリアの砂漠には違いないけれど、カプセルが落ちるウーメラ地区は……千キロ以上先じゃない!」
「どうするの、範ちゃん?」
「文子」
「なあに?」
「屋上へ行って火を焚きましょう。SOSを送らないと、こんな秘境で、わたしたち死んじゃうわよお!」
いまだ二人が生きて帰れたかについての情報はない。
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Re: ネミエルさん
政権与党というものは文句をいわれて叩かれるために存在します。
大衆が諸手を挙げて政権与党を支持しているほうがある意味危険であることは、小泉政権を見ていればよくわかるとおり……。
小泉だったら、「はやぶさ」の帰還を利用して、たちまちのうちに政治ショーを作り上げ、自らの人気を不動のものにしていたでしょうねえ。そう考えると、3年前に帰ってこなかったのはよかったかもしれませんねはやぶさ。
大衆が諸手を挙げて政権与党を支持しているほうがある意味危険であることは、小泉政権を見ていればよくわかるとおり……。
小泉だったら、「はやぶさ」の帰還を利用して、たちまちのうちに政治ショーを作り上げ、自らの人気を不動のものにしていたでしょうねえ。そう考えると、3年前に帰ってこなかったのはよかったかもしれませんねはやぶさ。
Re: 佐槻勇斗さん
はやぶさが地球に帰ってくるとき、どんな歌で迎えるかのおしゃべりをこないだmixiでやりました。
友人はオリビア・ニュートン・ジョンの「HAVE YOU NEVER BEEN MELLOW」、別にコメントした人は八神純子の「Mr.ブルー ~私の地球~」だとか、いろいろな意見が出てきて面白かったです。みんな名曲だったし。
わたし? わたしはもちろん、ダ・カーポの「地球へ…」ですよ(^^)
http://www.youtube.com/watch?v=1pLcpcvc4c0
お聴きになられたことがなかったらぜひ一度(^^)
友人はオリビア・ニュートン・ジョンの「HAVE YOU NEVER BEEN MELLOW」、別にコメントした人は八神純子の「Mr.ブルー ~私の地球~」だとか、いろいろな意見が出てきて面白かったです。みんな名曲だったし。
わたし? わたしはもちろん、ダ・カーポの「地球へ…」ですよ(^^)
http://www.youtube.com/watch?v=1pLcpcvc4c0
お聴きになられたことがなかったらぜひ一度(^^)
Re: トゥデイさん
楳図かずお先生の「漂流教室」は、いま思い出してもおっかない恐怖SF漫画でしたな。いちばん怖かったのはクリーチャーよりも隣人だったというところに身の毛がよだちました。
今回の小説はそれを思い出して書きました。
今回の小説はそれを思い出して書きました。
NoTitle
はやぶさお疲れ様。
そしてお帰りなさい。
燃え尽きる時のはやぶさは本当に火の鳥みたいでした。
7年間もよくがんばってきたな。
人間にしてみれば
両手両足骨折、大量内出血、記憶喪失 とひどいことになっていてもなおがんばったはやぶさ。
クソ民主はさっさとJAXAに予算を当てるべき
中国とかに1兆強とか中国の水に4兆とかあててる場合じゃ
ねぇだろうが、カス民主
やっぱり腐ってやがるな、民主は
とっととやめろ
そしてお帰りなさい。
燃え尽きる時のはやぶさは本当に火の鳥みたいでした。
7年間もよくがんばってきたな。
人間にしてみれば
両手両足骨折、大量内出血、記憶喪失 とひどいことになっていてもなおがんばったはやぶさ。
クソ民主はさっさとJAXAに予算を当てるべき
中国とかに1兆強とか中国の水に4兆とかあててる場合じゃ
ねぇだろうが、カス民主
やっぱり腐ってやがるな、民主は
とっととやめろ
- #1443 ねみ
- URL
- 2010.06/15 00:19
- ▲EntryTop
NoTitle
はやぶさが燃え尽きる映像は感動ものでしたね~(^ω^)
流れ星のようになる
と聞いておりましたがそれよりずっと綺麗で激しかったですww
流れ星のようになる
と聞いておりましたがそれよりずっと綺麗で激しかったですww
- #1442 佐槻勇斗
- URL
- 2010.06/14 23:06
- ▲EntryTop
Re: ぴゆうさん
オーストラリアなんかに行けるカネがないので、わたしはネットに釘づけになっていました。
和歌山大の予算と来たらもう雀の涙だったらしくて……。
音声が途切れる途切れる(泣)。
それでもその瞬間は見ることができました。
よかったであります。
NASAの映像も見たかったけど……これから行くか。
和歌山大の予算と来たらもう雀の涙だったらしくて……。
音声が途切れる途切れる(泣)。
それでもその瞬間は見ることができました。
よかったであります。
NASAの映像も見たかったけど……これから行くか。
NoTitle
行ったんかい?
キャハハハ
ポールのお熱もわかるというもの。
範子達も大変、緑になったり妊娠したり・・・
映像で見たけどキレイだったぁ。
ちょっとした天文ショーでした。
日本の技術力よ。
スンバらシーー
行方不明を探す努力と意地に乾杯である。
お疲れさまでした。
しかし、NASAと比べてセッマーーー
もっと予算をかけなよ
キャハハハ

ポールのお熱もわかるというもの。
範子達も大変、緑になったり妊娠したり・・・
映像で見たけどキレイだったぁ。
ちょっとした天文ショーでした。
日本の技術力よ。
スンバらシーー
行方不明を探す努力と意地に乾杯である。
お疲れさまでした。
しかし、NASAと比べてセッマーーー
もっと予算をかけなよ

- #1439 ぴゆう
- URL
- 2010.06/14 13:57
- ▲EntryTop
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Re: ひゃくさん
宇宙ステーションが維持されているのも、ソビエト連邦とソユーズロケットが維持してきた、人間の汗と血で舗装された航路によるものだからなあ。