「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・50
「とうとう来たわよ」
「範ちゃん、なにが?」
いつもの紅恵高校の放課後の教室で、文子はいつも以上に真剣な表情の範子に聞き返した。
範子は、当たり前のように答えた。
「もちろん、このショートショートシリーズの第五十話よ」
「五十話……」
「そうよ。いちおう、今のところ作者は全百話を予定しているから、ちょうどこれでわたしたちは半分の地点にたどりついたことになるのよ」
「がんばったよね、範ちゃん」
「そう。わたしたちはがんばった。けれどね、作者はそんなわたしたちにひどいことをしていたのよ!」
「ひどいことって……これまでのドタバタのこと?」
「違うわ」
範子は拳を握り締めた。
「作者は……作者は、自分のPCが『のりちゃん』と打っても『範ちゃん』と一発変換しないことに苛立ったせいか、とんでもないことを……」
「とんでもないこと?」
「いつもわたしを『範ちゃん』と書くときには、必ず『はんちゃん』と打って変換しているのよ!」
「ええっ!」
文子は愕然とした。
「それじゃ、いつもわたしは範ちゃんのこと、『はんちゃん』って呼んでいたの!」
「そうなのよ。わたしはラーメン屋のメニューに出てくる、半分盛りのチャーハンなんかじゃないのに!」
「で、でも……そんなこと、辞書に単語を覚えさせればすむことじゃ……」
「作者は、それさえも面倒くさがったのよ!」
範子はぎりぎりと歯を噛み締めた。
「もしかしたら、わたしは、作者の頭の中では、『のりこ』ではなくて、『はんこ』かもしれないわ。『宇奈月はんこ』……なんて屈辱的なの! 親からもらった名前は、『のりこ』なのに!」
「元気を出してよ、範ちゃん……きっと作者も、登場人物が不満を述べたらその不満を解消してくれるよ」
「文子、その『範ちゃん』も、『はんちゃん』変換よ」
範子の指摘に、押し黙ってしまう文子だった。
「しかしね、文子、あの作者の裏切り行為は、これだけではなかったのよ」
「これだけではない?」
「文子、あなた、名前は『あやこ』よね?」
「そうだよ、範ちゃん」
「作者が、いったいなんてファイル名にして、このシリーズを保存しているかわかる?」
「え?」
「作者はね……」
範子は好ましくない絶対の秘密を初めて明かす人間のような、苦痛に満ちた表情で発音した。
「『範文子』というファイル名にして保存しているのよ!」
「範文子……ええーっ!」
「そうよ、文子。範文子よ。どう見たって、『はんぶんこ』としか読めないでしょう!」
「そ、それじゃ、それじゃ、わたしは、『あやこ』じゃなくて『ぶんこ』だったの!」
衝撃的な事実に、文子は打ちのめされた。
「ぶんこ……わたしが、ぶんこ……」
「作者が、口を指で左右に大きく広げて『しもかわぶんこ』と発音している光景がまざまざと脳裏に浮かぶわ……」
「どういうこと、範ちゃん?」
「やってみればわかるわよ」
文子はやってみた。発音の後、文子は教室の机に泣き崩れた。
「ひどい……ひどいよ、範ちゃん。わたし、もう、胸を張って学校に通えない……」
「そりゃあたしかに、日本は広くて歴史も長いから、『範子』と書いて『はんこ』と読ませる人や『文子』と書いて『ぶんこ』と読ませる人もたくさんいるだろうけれど、わたしたちは、きちんと理由があって『のりこ』『あやこ』という名前がつけられたんだから、それを愚弄するような、ひどい真似はやってほしくないのよ」
「そうだよね、範ちゃん」
「わたしたちは、断固要求します。作者は、辞書に『のりちゃん』を登録しなさい。そして、ファイル名を書き換えて、『範子と文子の三十分一本勝負』としなさい。さもなくば、わたしたちは徹底的なストライキに打って出ます」
「労働運動みたいだね、範ちゃん!」
「まさしく労働運動よ。さあ、文子も歌うのよ!」
ふたりは肩を組んで『インターナショナル』を歌った。
しかし、資本家のような立場にいる、作者もいろいろとつらいのだよとほほほ。
読者置いてきっぱなし……。
「範ちゃん、なにが?」
いつもの紅恵高校の放課後の教室で、文子はいつも以上に真剣な表情の範子に聞き返した。
範子は、当たり前のように答えた。
「もちろん、このショートショートシリーズの第五十話よ」
「五十話……」
「そうよ。いちおう、今のところ作者は全百話を予定しているから、ちょうどこれでわたしたちは半分の地点にたどりついたことになるのよ」
「がんばったよね、範ちゃん」
「そう。わたしたちはがんばった。けれどね、作者はそんなわたしたちにひどいことをしていたのよ!」
「ひどいことって……これまでのドタバタのこと?」
「違うわ」
範子は拳を握り締めた。
「作者は……作者は、自分のPCが『のりちゃん』と打っても『範ちゃん』と一発変換しないことに苛立ったせいか、とんでもないことを……」
「とんでもないこと?」
「いつもわたしを『範ちゃん』と書くときには、必ず『はんちゃん』と打って変換しているのよ!」
「ええっ!」
文子は愕然とした。
「それじゃ、いつもわたしは範ちゃんのこと、『はんちゃん』って呼んでいたの!」
「そうなのよ。わたしはラーメン屋のメニューに出てくる、半分盛りのチャーハンなんかじゃないのに!」
「で、でも……そんなこと、辞書に単語を覚えさせればすむことじゃ……」
「作者は、それさえも面倒くさがったのよ!」
範子はぎりぎりと歯を噛み締めた。
「もしかしたら、わたしは、作者の頭の中では、『のりこ』ではなくて、『はんこ』かもしれないわ。『宇奈月はんこ』……なんて屈辱的なの! 親からもらった名前は、『のりこ』なのに!」
「元気を出してよ、範ちゃん……きっと作者も、登場人物が不満を述べたらその不満を解消してくれるよ」
「文子、その『範ちゃん』も、『はんちゃん』変換よ」
範子の指摘に、押し黙ってしまう文子だった。
「しかしね、文子、あの作者の裏切り行為は、これだけではなかったのよ」
「これだけではない?」
「文子、あなた、名前は『あやこ』よね?」
「そうだよ、範ちゃん」
「作者が、いったいなんてファイル名にして、このシリーズを保存しているかわかる?」
「え?」
「作者はね……」
範子は好ましくない絶対の秘密を初めて明かす人間のような、苦痛に満ちた表情で発音した。
「『範文子』というファイル名にして保存しているのよ!」
「範文子……ええーっ!」
「そうよ、文子。範文子よ。どう見たって、『はんぶんこ』としか読めないでしょう!」
「そ、それじゃ、それじゃ、わたしは、『あやこ』じゃなくて『ぶんこ』だったの!」
衝撃的な事実に、文子は打ちのめされた。
「ぶんこ……わたしが、ぶんこ……」
「作者が、口を指で左右に大きく広げて『しもかわぶんこ』と発音している光景がまざまざと脳裏に浮かぶわ……」
「どういうこと、範ちゃん?」
「やってみればわかるわよ」
文子はやってみた。発音の後、文子は教室の机に泣き崩れた。
「ひどい……ひどいよ、範ちゃん。わたし、もう、胸を張って学校に通えない……」
「そりゃあたしかに、日本は広くて歴史も長いから、『範子』と書いて『はんこ』と読ませる人や『文子』と書いて『ぶんこ』と読ませる人もたくさんいるだろうけれど、わたしたちは、きちんと理由があって『のりこ』『あやこ』という名前がつけられたんだから、それを愚弄するような、ひどい真似はやってほしくないのよ」
「そうだよね、範ちゃん」
「わたしたちは、断固要求します。作者は、辞書に『のりちゃん』を登録しなさい。そして、ファイル名を書き換えて、『範子と文子の三十分一本勝負』としなさい。さもなくば、わたしたちは徹底的なストライキに打って出ます」
「労働運動みたいだね、範ちゃん!」
「まさしく労働運動よ。さあ、文子も歌うのよ!」
ふたりは肩を組んで『インターナショナル』を歌った。
しかし、資本家のような立場にいる、作者もいろいろとつらいのだよとほほほ。
読者置いてきっぱなし……。
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~ Comment ~
NoTitle
> 貨幣の発明以来の資本主義システムからは逃れられないのだなあ、と遠い目を……。
だって、単純バカの方が楽しいんだもん♪
だって、単純バカの方が楽しいんだもん♪
- #17932 ひゃく
- URL
- 2016.10/10 17:53
- ▲EntryTop
Re: ひゃくさん
インターナショナルを共産党への抵抗歌として歌うんだから世の中も変わったものだなあ、と、天安門事件のころ思いました。
今はどこもかしこも拝金主義に転んで、結局何をしたとしても、貨幣の発明以来の資本主義システムからは逃れられないのだなあ、と遠い目を……。
今はどこもかしこも拝金主義に転んで、結局何をしたとしても、貨幣の発明以来の資本主義システムからは逃れられないのだなあ、と遠い目を……。
NoTitle
> 親からもらった名前は、『のりこ』なのに!
違うと思う。作者からもらった名前だと思う。
というか、名前をもらったというより、名前だけの存在なんじゃない?(笑)
> まさしく労働運動よ
確かに(笑)
> ふたりは肩を組んで『インターナショナル』を歌った。
うん?
なんか、ちょっと違うような!?
あ、でも、「インターナショナル」って、天安門事件の時の学生運動で歌う前に、その前があったってこと?
あー、なんだろ?その辺はわからない。
って見てみたら、なんだ、そうだったんだ。
社会主義・共産主義の歌だったんだ。
勉強しちゃいました。
違うと思う。作者からもらった名前だと思う。
というか、名前をもらったというより、名前だけの存在なんじゃない?(笑)
> まさしく労働運動よ
確かに(笑)
> ふたりは肩を組んで『インターナショナル』を歌った。
うん?
なんか、ちょっと違うような!?
あ、でも、「インターナショナル」って、天安門事件の時の学生運動で歌う前に、その前があったってこと?
あー、なんだろ?その辺はわからない。
って見てみたら、なんだ、そうだったんだ。
社会主義・共産主義の歌だったんだ。
勉強しちゃいました。
- #17901 ひゃく
- URL
- 2016.10/02 18:31
- ▲EntryTop
Re: トゥデイさん
もうネタがないのであります(^^;)
あと半分、毎日がんばりますので、どうか応援とぽちをよろしくお願いします(^^)
桐野俊明くんも、実は変換でちょっと出にくかったりするのはご愛嬌……。
あと半分、毎日がんばりますので、どうか応援とぽちをよろしくお願いします(^^)
桐野俊明くんも、実は変換でちょっと出にくかったりするのはご愛嬌……。
遅ればせながら、50回おめでとうございます。22日は来れませんでした。
私は紹介でのひらがな表記見るまで「ふみこ」だと思ってました。まさかここでネタにしてくるとは。
私はもう人物の名前は変換で出やすい名前にします。大西智宏とか。
しかし範文子…略称「一本勝負」でよくね?
私は紹介でのひらがな表記見るまで「ふみこ」だと思ってました。まさかここでネタにしてくるとは。
私はもう人物の名前は変換で出やすい名前にします。大西智宏とか。
しかし範文子…略称「一本勝負」でよくね?
- #1494 トゥデイ
- URL
- 2010.06/24 00:23
- ▲EntryTop
Re: れもんさん
何度となく「あやこ」と書いたのに(^^;)
たしか紹介記事でもふりがなをふっていたよなわたし(^^;)
登録ってめんどくさいですよねえ。
とくに、普通は使わない、画数の多い漢字を入力するのがたいへんでたいへんで。
でもそういった言葉に限って使いたくなる。稀覯本とか宿痾とか。業ですなあ(^^;)
「範子と文子の三十分一本勝負」で保存すると、見にくいですからねえファイルを開けたとき。
たしか紹介記事でもふりがなをふっていたよなわたし(^^;)
登録ってめんどくさいですよねえ。
とくに、普通は使わない、画数の多い漢字を入力するのがたいへんでたいへんで。
でもそういった言葉に限って使いたくなる。稀覯本とか宿痾とか。業ですなあ(^^;)
「範子と文子の三十分一本勝負」で保存すると、見にくいですからねえファイルを開けたとき。
NoTitle
五十話、おめでとうございます★
って・・・・・す、すいません・・文子の事を私はもろ「ぶんこ」と読んでいたのですが・・・;;;わああごめんなさい><じ、自重・・。「あやこ」なのですね!
私も結構そういうのありますvでも、登録するのはなんか嫌なんです・・・(え
というか、わざわざ登録しないで、自分の打ちたい字が出て来てくれるとなんか嬉しい(何 出てこない時は、何回もうちます!
・・・なら、登録しましょうですけど(苦笑)
範文子に大爆笑しました((
って・・・・・す、すいません・・文子の事を私はもろ「ぶんこ」と読んでいたのですが・・・;;;わああごめんなさい><じ、自重・・。「あやこ」なのですね!
私も結構そういうのありますvでも、登録するのはなんか嫌なんです・・・(え
というか、わざわざ登録しないで、自分の打ちたい字が出て来てくれるとなんか嬉しい(何 出てこない時は、何回もうちます!
・・・なら、登録しましょうですけど(苦笑)
範文子に大爆笑しました((
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Re: ひゃくさん
ex:囲碁のルール