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    「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
    範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)

    範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・51

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    「いいわね」
     範子は真剣な表情で短くいった。
    「もちろんいいよ、範ちゃん。いいに決まってるよ。だって、ただのラー油でしょう?」
     文子は半ば呆れた調子で答えた。
     それもそうだった。ふたりの前にあるのは、普通の弁当の白いご飯と、お茶の五百ミリペットボトル、それとひと瓶の、このごろはやっている『食べるラー油』というやつだった。
    「ただのラー油じゃないわ。よく見てみなさい。ラベルに、『ちょっと辛いようですごく辛い、実はものすごく辛い、冷やご飯もホットに食べられるラー油』と書いてある」
    「そんなの、激辛ファン向けの、ただの宣伝文句でしょう? そんな誇大広告にその気になっていちゃ、今どきのスーパーで買い物なんかできないよ、範ちゃん」
    「それならそれでいいんだけど、これを作った開発室は、これまでにもいろいろと問題作を作り続けてきたところらしくて……」
    「そんなことどうでもいいよ。範ちゃんにいわれてお昼を抜いたから、わたし、おなかぺこぺこだよ。早く食べようよ」
    「こうして人がいない、放課後に食べるのも、余計な犠牲者を出さないようにするためなんだけど……。大丈夫みたいね。開けるわよ」
     範子は力を込めて蓋を開けた。中には、ラー油の海に漬かるようにして、フライしたにんにくや、唐辛子、その他スパイスが山と入っている。油と、こういった具材を混ぜてご飯にかけて食べるというのがおいしい食べかた……だそうなのだが。
     範子は、難しい顔で瓶の中にスプーンを突っ込み、よくかき混ぜてひとさじすくい、ご飯の上にかけた。文子は、興味津々といった顔つきで同様にする。
    「いいわね。ここまできたら一蓮托生よ」
    「もちろんいいよ、範ちゃん」
     ふたりはたっぷりの冷やご飯と、ひとさじのラー油をかき混ぜて、おそるおそる口に運んだ。
    「!」
    「!」
     脳髄を一撃する食感。
     辛い!
     ふたりの手が期せずしてお茶のペットボトルに伸びた。
    「範ちゃん、これ、辛いよ! 辛すぎるよ! 冷やご飯が朝鮮料理のテグタンクッパ以上の存在に思えるよ!」
    「ご、ごめん、文子。まさかこれまでとは。とりあえず、お茶を飲んで……」
     ふたりはキャップを開けるのももどかしく、中のお茶を喉に流し込んだ。
    「!」
    「!」
     範子は、ぶっ、と、口にしたお茶を吐き出した。
    「な、なによこれ、墨汁の味だわ!」
    「そんなことはないよ。確かに変な味だけど……これは……えーとこれは、ドクターペッパーの味だよ」
    「なにいってるのよ。ちょっと貸してごらんなさいよ。んぐ……やっぱり墨汁の味よ」
    「あ、そんなこといって。ちょっとそっちを……うん。やっぱりドクターペッパーだよ」
     範子は、信じられないとでもいうようにお茶とラー油と文子の間に視線を往復させた。
    「まあいいわ。わたし、後で水を買ってくる」
    「それがいいよ。じゃ、もうひと口、ご飯を……うわ、ご飯がチョコレートの味がするよ」
    「そんなことはないでしょう。わたしも、まだ白いところを……ちょっとこれ、なによ、くさやのひものの味がするわ」
    「範ちゃん、これって……」
     ふたりは顔を見合わせた。
    「これは、ひとつの可能性しか考えられないわ。わたしたちの味覚神経が、このラー油の辛い成分によって破壊されて、一時的に味覚がおかしくなっているのよ」
    「そんなあ」
     文子はペットボトルのお茶をひと口飲んだ。
    「あ、また、味が変わった。なんだろう。とっても甘い、いい味がする」
     ここで文子が感じていた味は、ハンガリーの有名な超甘口の貴腐ワイン、『トカイ・アスー・エッセンシア』、ハーフボトル二万円から、であったのだが、文子のような貧乏人にそのような高級酒の知識があるわけがない。
    「…………」
     仏頂面で範子もお茶を飲んだ。青汁の味がした。範子は、そのあまりの味に、箸の持ち手を口にくわえた。
    「…………?」
     なんということであろうか、その箸はべっこう飴の味がしたのである。
     そうなったら展開は決まっていた。
     ふたりは、そこらへんにあるものを、なんでもかんでも舌に乗せ始めた……。

     翌日、教室に範子の姿はなかった。
     彼女が、「金魚のえさ」を極上の美味と思い込んで食べてしまい、おなかを壊したことを知っている人間は、文子を含めきわめて少ない。
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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくさん

    世の中には「省略しそぎ落とした方がいい要素」というのもありまして(笑)

    NoTitle

    > 『ちょっと辛いようですごく辛い、実はものすごく辛い、冷やご飯もホットに食べられるラー油』

    あ、そのコピー、ちょっといいかも!
    もしかしてブリッツ氏、コピーライターのセンスある?(笑)

    ていうか、お話に戻りますけど、この場合、空気や、あと自分の口の中も味がしちゃうんじゃないかと…(笑) ←いらぬツッコミ

    Re: LandMさん

    ぶっちゃけた話、辛味というのは「やけど」といっしょだそうでありますな。

    新連載、楽しみにしております。細部をどう詰めてくるのかどきどきして待ちます。

    よく考えたらあの男、小さな「王国」の家臣だったはずですが、それがどういう運命のいたずらで「帝国」の家臣になったのかも読ませてくれるのでしょうね……というのは重箱の隅か(^^;)

    NoTitle

    そういえば、辛い物というのは刺激を与えるものであって、辛味というのは存在…しないのかするのか…あまり知らないですけど、そういうのを聞いたことがありますね。辛味を食べると、舌が刺激されて麻痺するんですよね。味覚というのは不思議なものですよね。

    来月から新連載するということで、暖簾を変えさえていただきました。次回作ではポール・ブリッツ様のキャラクターも登場するということで名前を掲載させていただいてますのでよろしくお願いします。
    登場は中盤で、少ししかないですが、楽しみにお待ちくださいませ。

    Re: トゥデイさん

    うーん、「食べるラー油」、あちこちのメーカーがそれこそ雨後のタケノコのように出しているから、苦情はこないだろうと踏んだんですが……やっぱり特定メーカーのものを思わせるようなものはだめか(汗)

    ミラクル・フルーツとかいう果物(?)があって、それをなめると、酸っぱいものが甘く感じられるそうであります。化学成分が舌の味覚を感知するところに入り込み、酸っぱさを感じなくさせるそうですが、不思議なものですねえ。

    ホッツェンプロッツ大好き。もちろんクラバートも(^^)

    テレビ放送だったらメーカーから苦情来てますね。
    食べると次に食べる物の味が変わる物、現実にも結構ありますよね。悪い例だと粗悪な歯磨き粉とか。
    ドイツの児童書に出てきた「生クリームの味がするカボチャ」を思い出しました。
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