「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・52
「ああ……あ。さんごく……」
放課後の教室。どこか夢見がちな目をしていた範子に、文子は後ろの席から声をかけた。
「三国がどうかしたの、範ちゃん?」
「いや、ね」
範子は振り向いた。
「昨日、徹夜して、三国志ものの漫画を読んだんだけど」
「うん」
「それで思ったのよ、三国一の美女に生まれたらいいだろうなあって」
「?」
文子は首をひねった。
「範ちゃん、範ちゃん、それって、つながり的におかしくない? 普通、三国志を読んだんだったら、三国志の中に出てくる美女になれたら、って思うのが普通じゃないの?」
「文子」
範子は苦笑いした。
「この小説は、三十分で書き終えなければならないのよ。三国志に出てくる美女のほとんどは、一発変換されないような漢字を使っているのよ。三国志を代表する美女を語るのに、いちいち『呂布を誘惑して主君を討たしめた美女』なんて書くのは、めんどくさい上に、彼女にとっての侮辱だわ。それとも、文子、あなた、あの字書けるの?」
「……書けないですごめんなさい」
文子は頭を下げた。
「それならいいんだけど。……あああ、わたしも三国一の美女と呼ばれたいなあ。三国一の美少女でもいいけどさあ」
「範ちゃんだったら、それなりの素質があるんじゃないかなあ? なんたって、きれいでかっこいいもん。行動的なのは、今の世の中での美人の必要条件だもんね」
「文子?」
「なあに、範ちゃん?」
「あなた、心の中で、『でもわたしほどではないけどね』って、思ったでしょ?」
文子はぶるんぶるんと大きく首を振った。
「そ、そんなことないよ、範ちゃん。ないったら」
「どもるところがまた怪しいわ。まったく、肩がこりそうな……」
範子は文子の胸元を見た。
「だから、肩なんてこってないってば。もう、範ちゃん、そんな目で見るのはやめてよ」
……まさか、範ちゃんって、自分の容姿に対して、なにかコンプレックスでも持っているのかなあ。こんなに素敵なのになあ。わからないもんだなあ、と思う文子であった。
「そういえば範ちゃん、三国一の三国って、どことどことどこなんだろう?」
「知らないわ」
「そんなあっさり!」
「いいこと文子」
範子は噛んで含めるようにいった。
「今、作者の部屋にある本棚には『広辞苑』があるから、引こうと思えば一発で引けるけど、残り時間はあと十四分しかないの。貴重な時間をロスするのは惜しいのよ。ルシェルシェー?」
「ルシェルシェー。……って、ルシェルシェー、って、なんなんだろう?」
「だいたい今みたいなときにいう言葉らしいわよ」
「英語って、奥が深いね」
「これはフランス語らしいけど」
「範ちゃん?」
「なあに、文子?」
「思うんだけどさ、わからないことについて、知ったかぶりすることもないと思うよ。誰もそんなことしたって感心なんかしないんだから」
「…………」
「範ちゃん」
「なに?」
「後、何分?」
「十分ちょっとというところよ」
「時間をロスしたね」
「そうね」
「じゃ、本題に戻って。範ちゃんは、どんな三国だったらいいなあと思う?」
「そうだね……まず、日本でしょ」
「自分の国だから当然だね。三国一の美女なんていわれて、となりのお姉さんに負けたりしたら恥ずかしいもんね」
「そして……フランスかなあ」
「範ちゃん、あんなところがいいの? だってあそこって、もとはといえば属州ガリアでしょう?」
「いきなり古いところにいったわね……」
「やっぱり、文明国じゃないと。だから、残り二国は」
「?」
「エジプトとシュメールだよね」
「なんじゃあその通好みのシチュエーションはあ!」
「え……文明国」
「それは数千年前の話じゃない!」
「じゃあ、もっと範囲を狭めて」
「うんうん」
「三時間目の国語の授業で一番美人」
「あんたとはやっとれんわ! ええかげんにしなさい!」
と、やったとたんに、範子と文子の顔には沈んだ色が。
「こんなオチで……いいの?」
「いいのよ、文子、作者がまともなストーリーを考えるまで、名もなく貧しく美しく、わたしたちは生きるのよ……」
放課後の教室。どこか夢見がちな目をしていた範子に、文子は後ろの席から声をかけた。
「三国がどうかしたの、範ちゃん?」
「いや、ね」
範子は振り向いた。
「昨日、徹夜して、三国志ものの漫画を読んだんだけど」
「うん」
「それで思ったのよ、三国一の美女に生まれたらいいだろうなあって」
「?」
文子は首をひねった。
「範ちゃん、範ちゃん、それって、つながり的におかしくない? 普通、三国志を読んだんだったら、三国志の中に出てくる美女になれたら、って思うのが普通じゃないの?」
「文子」
範子は苦笑いした。
「この小説は、三十分で書き終えなければならないのよ。三国志に出てくる美女のほとんどは、一発変換されないような漢字を使っているのよ。三国志を代表する美女を語るのに、いちいち『呂布を誘惑して主君を討たしめた美女』なんて書くのは、めんどくさい上に、彼女にとっての侮辱だわ。それとも、文子、あなた、あの字書けるの?」
「……書けないですごめんなさい」
文子は頭を下げた。
「それならいいんだけど。……あああ、わたしも三国一の美女と呼ばれたいなあ。三国一の美少女でもいいけどさあ」
「範ちゃんだったら、それなりの素質があるんじゃないかなあ? なんたって、きれいでかっこいいもん。行動的なのは、今の世の中での美人の必要条件だもんね」
「文子?」
「なあに、範ちゃん?」
「あなた、心の中で、『でもわたしほどではないけどね』って、思ったでしょ?」
文子はぶるんぶるんと大きく首を振った。
「そ、そんなことないよ、範ちゃん。ないったら」
「どもるところがまた怪しいわ。まったく、肩がこりそうな……」
範子は文子の胸元を見た。
「だから、肩なんてこってないってば。もう、範ちゃん、そんな目で見るのはやめてよ」
……まさか、範ちゃんって、自分の容姿に対して、なにかコンプレックスでも持っているのかなあ。こんなに素敵なのになあ。わからないもんだなあ、と思う文子であった。
「そういえば範ちゃん、三国一の三国って、どことどことどこなんだろう?」
「知らないわ」
「そんなあっさり!」
「いいこと文子」
範子は噛んで含めるようにいった。
「今、作者の部屋にある本棚には『広辞苑』があるから、引こうと思えば一発で引けるけど、残り時間はあと十四分しかないの。貴重な時間をロスするのは惜しいのよ。ルシェルシェー?」
「ルシェルシェー。……って、ルシェルシェー、って、なんなんだろう?」
「だいたい今みたいなときにいう言葉らしいわよ」
「英語って、奥が深いね」
「これはフランス語らしいけど」
「範ちゃん?」
「なあに、文子?」
「思うんだけどさ、わからないことについて、知ったかぶりすることもないと思うよ。誰もそんなことしたって感心なんかしないんだから」
「…………」
「範ちゃん」
「なに?」
「後、何分?」
「十分ちょっとというところよ」
「時間をロスしたね」
「そうね」
「じゃ、本題に戻って。範ちゃんは、どんな三国だったらいいなあと思う?」
「そうだね……まず、日本でしょ」
「自分の国だから当然だね。三国一の美女なんていわれて、となりのお姉さんに負けたりしたら恥ずかしいもんね」
「そして……フランスかなあ」
「範ちゃん、あんなところがいいの? だってあそこって、もとはといえば属州ガリアでしょう?」
「いきなり古いところにいったわね……」
「やっぱり、文明国じゃないと。だから、残り二国は」
「?」
「エジプトとシュメールだよね」
「なんじゃあその通好みのシチュエーションはあ!」
「え……文明国」
「それは数千年前の話じゃない!」
「じゃあ、もっと範囲を狭めて」
「うんうん」
「三時間目の国語の授業で一番美人」
「あんたとはやっとれんわ! ええかげんにしなさい!」
と、やったとたんに、範子と文子の顔には沈んだ色が。
「こんなオチで……いいの?」
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Re: ネミエルさん
ドイツもそうらしいですね。ビールとソーセージでぶくぶくに太るそうであります。もっとも、そうしたおばはんのほうが向こうの人にとっては「たくましくて頼りになる」ように見えるのかもしれません。わからんけど。
Re: ぴゆうさん
中国にしろ西洋にしろ日本にしろ、「古典」というものは、胸に残る逸話の宝庫ですよねえ。
だから面白く読まれてきたわけですが。
だから面白く読まれてきたわけですが。
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Re: ひゃくさん