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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 2-1

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     消防と警察の合同チームが、火災原因の特定に向かった。家は平均的な木造家屋で、きれいに灰になっていた。よそに飛び火しなかったのは神の恩寵だ、と、(キリスト教徒だった)鑑識官のひとりは語った。あまりに激しい焼け方から、放火が疑われた。火災が起こったときは昼間で、両親は留守にしていた。家に残っていたのは、風邪をこじらせて寝ていた祖母と、三歳になったばかりの息子だけだった。マッチのたぐいは、その息子に手が届かない場所に、棒だけを保管していたと両親は語った。外箱は、着火に使うひとつだけを残して処分しており、子供だけを置いて外へ出るときは、そのひとつを持って行く、というのである。ガス台からの引火も考えにくかった。現場の検証から、元栓は完全に締まっていたことが明らかになったからである。

    とある元警察官の手記「K町警察署備忘録」より

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    第二章 カメラは血を浴びて

     男はベッドに横たわっていた。毛布が身体を覆っている。季節は夏の真っ盛りだが、男は毛布を払おうともしなかった。
    「昏睡状態?」
     わたしは見ればわかることを口に出して訊いた。髪の毛をぐしゃぐしゃにして、疲れ果てた眼をした老婆、山木うめは、力なくうなずいた。
    「はい。一昨日から、こうなんです」
    「病院へは?」
    「連れて行っていません」
     わたしはこっそりとため息をついた。
    「まずは病院へ連れて行くべきでしたね。どんな病気かもわからない。それに、この様子だと水も食事も与えていないようだ。少なくとも栄養剤の点滴くらいはしないと」
    「病院なんて」
     山木うめは吐き捨てるようにいった。
    「あんなところに連れて行ったら、健康な人間でも病気にさせられてしまいます」
     イヴァン・イリイチのようなことをいう婆さんである。
    「それでも、重湯くらい与えなければ、この暑さに、息子さん……雄平さん、でしたね? の身体は、参ってしまいます」
    「重湯はなんとか飲ませました。先生、本当に病院に連れて行くべきでしたでしょうか?」
    「いえ、責める気はありません。ところで、雄平さんは、なにか最近、変わったことをしていらっしゃいませんでしたか?」
    「いいえ。まったく」
     山木うめは首を横に振った。
    「うちは質屋ですから、物をお預かりしてお金をお貸しする、いつもどおりの仕事があるだけです」
    「最後に扱った質草は?」
    「首飾り……です」
     それか?
    「質草が雄平さんの昏睡の原因になった可能性があります。そのネックレスも含めて、ここしばらくの間に取り扱った質草のうち、まだ店にあるものは、隔離しておいたほうがいいでしょう。さて」
     わたしは、山木雄平の横たわるベッドの、すぐ脇に置いてあった椅子に腰かけた。
    「夢に入るとしましょう」
     精神を集中する。
     青い六角形を思い描いた。頭の中で六十度回転させ、色を緑に変える。さらに六十度回転させ、こんどは黄色だ。六十度……オレンジ……六十度……赤……紫……再び青……。
     回転のスピードをだんだんと上げていく。緑……黄……オレンジ……赤……紫……。
     回転と色の変貌の結果、白い円のイメージが脳裏いっぱいに広がる。
     そのとき、わたしは山木雄平の心の中に入っていた。
     一秒も、もたなかった。
     目を開けた。山木うめが、不審そうな顔をしてこちらを見ていた。
    「あの……先生?」
    「だめでした」
    「え?」
     わたしは頭を振ると立ち上がった。
    「山木雄平さんは夢を見ていない。それどころか、心自体が、その肉体のうちには存在しない」
     山木うめは混乱しているようだった。
    「先生、どういう……」
    「今の彼の身体は、完全なぬけがらです。わたしにはどうすることもできない」
     自分の弱さを白状しなければならないのはいつだって辛い。それも相手がわたしに対し分不相応な期待をしているときは。

     結局、わたしは山木うめからやれインチキだの、泥棒だのと、情け深い言葉をかけられて山木家を後にした。
     それにしても、首をひねらざるを得ない。
     山木雄平の内面に入ったはいいものの、そこには本当になにも存在しなかったのだ。
     精神の残滓すら、そこにはなかった。
     精神と肉体の分離とは、デカルト式二元論の証左だろうか? わたしにはよくわからなかった。
     いちおう首飾りを借り受けてきたので、信頼できる霊媒師か教会か寺院へ持って行かなければなるまい。問題は、わたしが信頼できる霊媒師も教会も寺院も知らない、ということだろう。
     どうしたものか。
    「桐野メンタルヘルス」に帰り着いてから、わたしは森村探偵事務所に電話をかけた。
    『……はい。森村探偵事務所です』
    「桐野ですが」
    『桐野様ですか。この前はありがとうございました』
     先月、森村探偵事務所に頼まれて、通り魔に襲われかけた被害者の深層意識に潜り込み、どうしても思い出せなかった犯人の顔を拾い上げて来るという仕事をしたのだ。それがもとでわたしはその被害者の夢魔と殴りあう破目に陥ったが、それを語るのは今回の趣旨ではない。
    『現在、北村は手が離せませんが……』
    「いや、そういうことじゃないんだ。ちょっと教えてほしいことがあって」
    『なんでしょう?』
    「ものの穢れを祓ってくれる、信頼できる霊能者とか教会とかそれに類したものをなにか知らないか」
     十秒間、沈黙が続いた。
     わたしがなにかいおうとしたとき、相手はがちゃんと電話を切りやがった。
     発信音のみの残る受話器をしばらく眺めた後、フックに戻した。向こうさんの気持ちは痛いほどわかった。
     しかたがない。効果のほどはわからないが、高幡不動尊あたりで妥協するか……。
     わたしは、請求書に「お布施代」と書き込む自分を想像し、なんとも情けない気分になった。

     いくら、タウンページの記載欄が「病院」ではなく、「各種療法」にあるとはいえ、わたしの診療所「桐野メンタルヘルス」にはぽつぽつとながらも客が来る。宣伝文句が「睡眠障害、悪夢対処」なので、本当に、ぽつぽつと、ではあるが。
     悪夢に対処すると喧伝しているが、どうやって行うのか?
     夢に入るのだ。
     人間にできるわけがないと思うかもしれない。だが、ある程度の素質がある人間なら、特殊な訓練を積むことによって、夢に入ることが可能なのだ。
     そうした、夢に入れる人間を、ナイトメア・ハンターと呼ぶ。
     ハンターというからには狩る相手がいなければならない。狩る相手、というより、もっと直截に、敵だ。
     敵は夢魔。精神世界に現れる、悪意を持ったエネルギー体だ。やつらは人間の精神が大好物で、悪夢となってやってきては、心をずたずたに食い散らかして去っていく。心を食われた人間を待つのは、重度の精神病になって廃人になる運命だけだ。
     夢魔を倒すには、精神力を武器や道具の形に結晶させ、それによりダメージを与えることが必要だ。普通の人間も夢の中で我知らずやっている。だが、ナイトメア・ハンターは、それを意図的に行うことができるのだ。わたしはその作業を、「物象化」と呼んでいた。
     これらの特殊能力が、いつ身についたのかは、実はわたしも詳しくはわからない。夢の中で覚えたような、そうでないような……。記憶操作がなされているのかもしれないが、わたしはそういったことを詮索しないことにしていた。それでも、どうせなら互助会名簿くらいくれてもバチは当たらないのではないかとよく思う。
     残念ながら、夢の中に、テレビカメラを持って潜るわけにもいかない。それができたら、わたしの診療所も押すな押すなの繁盛なのだが。患者に口で説明してわかってもらわなければならないため、よほど口がうまくないと商売は成り立たなかった。わたしのパトロンである大野龍臣という男の(この男も、非常な金持ちの権力者だという以外は正体がまったくつかめない)援助がなければ、とっくの昔につぶれていてもおかしくはない。
     この暮らしがいつまで続くかは知らないが、その間にできることをやるのみだ。わたしは狩人というよりは治療者のタイプなのだから。
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    ~ Comment ~

    Re: blackoutさん

    よくある話です(^_^)

    先は長いので、じっくり楽しんでくださいね!

    んん~?
    おかしい…

    読み終わったはずのナイトメア・ハンターの掟に第2章が存在している…w

    どうやらポール・ブリッツさんのおっしゃっていた通りの状況となってしまっていました(汗)

    2章以降をすっ飛ばしてましたw

    気を取り直して読みますw

    その前に自分の小説をさっさと書けよ
    って感じですがw

    Re: 有村司さん

    すまないなんてことはありません。単にわたしがおっちょこちょいの大バカだっただけですから気にしないでください(^^)

    このシリーズ、妙に世知辛いのであります。ハードボイルドを気取っておりますので(^^;)

    いつ完結するかもわかりませんが……。

    この第二章は自分でも気に入っています(^^)

    大変だ…

    明日が待てずに拝読しにきました2-1

    大野老人の援助がなければ維持できない…大変ですね…(ため息)精神が存在しない肉体!?
    桐野さんも色々手さぐりなんですね。

    ところで…1のラストにコメントをしたのですが…何かお気に障ることでも書きましたでしょうか?
    でしたら、本当にすみません…。

    >佐槻勇斗さん

    仕事が来なくちゃ話にならないので(爆)。
    でも相変わらず桐野くんはビンボーですけど(^^;)

    はじめの手記の意味が明らかになるのはエピローグを待たなくてはなりません。いちおうこれ、長編ですので……。

    こんばんは。

    桐野さん仕事ちゃんと来たじゃないですか!
    と思いきや、まさか雄平さん夢を見ていないなんて……(^ω^;)
    事実を言っているのだけれど、インチキ呼ばわりされる。うーん、辛いですなぁ。。

    もちろん関係があるから書かれているのでしょうけれど、はじめの手記と雄平さんはどういったつながりがあるんでしょうか。気になります。
    また来ます♪
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