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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 2-2

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    第二章 カメラは血を浴びて(承前)

     山木雄平のケースから、ふた月が経った。イラクでの戦争はひと段落ついたが、それでも死人だけは増え続け、政府自民党は、よせばいいのに有事三法なんかを可決して、国民を肉挽き機にかける競争にいつでも参加できるよう準備を整えていた。その間、うちに来た患者は六名。中で、夢魔に襲われていたのは四名だけだった。
     ひとりから百万も請求してやれれば、この診療所もおおグロになるのだが、今のままではまったくもって流行らない医者である。
     その夜も、わたしは来ない患者を待ちつつ、受付で精神医学の専門誌を読んでいた。数少ない、今だにわたしを友人と思ってくれている医者から借りたのである。この本、海外から通販するしかないので、まともに買うと高価いのだ。
     扉が開く音がした。
     セールスマンか? わたしは顔を上げた。三十代くらいの男が立っている。目は落ち着かずにそこらじゅうをきょろきょろと眺め回していた。
    「はい?」
    「あ、あの、ここで、悪魔祓いをしてくれるというのは本当ですか?」
     悪魔祓い? なんだそれは。
    「とりあえず、中にお入りください」
     わたしは診察室を指し示した。
     診察室で向かい合うと、男は梶原悟と名乗った。
    「それで、先生、悪魔祓いにはどのくらいの時間がかかるものなのですか?」
    「悪魔祓い、ですか? ……わたしは司祭ではないので、悪魔祓いは専門外なのですが」
     とのわたしの答えに、梶原悟は落胆を隠さなかった。
    「でも、確かに、ぼくは、先生が、夢に出てきた悪魔を祓ってくれたという人を知っているんですけれど」
     あれを悪魔祓いと呼べるならば、だが。
    「わたしにできるのは、悪夢となって現れる、『夢魔』と呼ばれているエネルギー生命体を追い払うことくらいですよ。正真正銘の悪魔と戦ったことはありません」
    「そうですか……」
    「それでも、お悩みならばなにかの力になれるかもしれません。なんなら、お話ししてはいただけませんか?」
     梶原悟は一瞬、ためらったが、やがて話し始めた。
    「悪魔が憑いているのは、ぼくの彼女なんです」
    「彼女?」
    「はい。坂元真由子といいます」
     話によると、坂元真由子は二十八歳。三十の梶原悟とは、H大学で同窓だったらしい。二歳違うのは、坂元真由子が早生まれのうえ、梶原悟が一年浪人したからだそうだ。その後は二人ともそれぞれ違う会社でサラリーマンとOLになったが、交際は続いていた。
     異変が起こったのは一週間前。
    「その日、ぼくは仕事が終わった後で真由子のマンションへ遊びに行きました。真由子の顔を見るほかにも、借りていた映画のディスクを返す必要があったからです」
     それ以外にも用があったのではないか、とは訊かなかった。わたしもそれほど無粋ではない。
    「部屋を訪れたぼくは、インターホンを鳴らしました。だが、返事がありません。不審に思いました。なぜなら、換気口と窓からは、明かりが漏れていたからです」
     確かにそれは気になる。
    「なにが起こったのか? 手を、ドアノブに回していました。ひねると、扉は、静かに開きました。唾を飲み込みました。留守中に入ったら、坂元真由子に嫌われてしまうかもしれません。しかし、中で、もしも病気やなにかで倒れていたら……。
    『おじゃまします』
     ぼくはおっかなびっくり、部屋の中に入っていきました」
     わたしは黙って聞いていた。
    「家の中は電気がこうこうとつけられていました。奥の部屋から、CDと思われる音楽が聞こえてきます。やや、安心しました。
    『まゆ、いるんだろう?』
     扉を開けて、中を覗き込みました。真由子は、いました。
    『まゆ……』
     いいかけた、声が凍りつきました。坂元真由子は、テーブルに突っ伏しています。その顔は苦悶に歪んでいるではありませんか。テーブルの上に、奇妙な怪物の置物が置かれていました。それはぼくをにらんでいるように見えました」
     それが悪魔だというわけか。
    「あれ以来、真由子は目を覚まさなくなってしまったのです」
    「なるほど」
     わたしは安心させるようにうなずいた。
    「その、怪物の像がどんなものであるかわかりますか?」
    「はい」
     梶原悟はブリーフケースから写真を取り出した。
    「本物は?」
    「もらってこようかとも思いましたが、写真に撮るだけにしました。変に取り扱うと、更なる犠牲者が出るかもしれません。それに、真由子の部屋から無断で持ち出すのは、泥棒みたいでいやですし、だいいち、今は真由子の部屋には、お母さんの手により鍵がかけられていて入れませんし」
    「もっともです。写真をよく見せてください」
     確かに、奇妙な怪物だった。
    「先生、これが真由子に取り憑いたのに違いありません」
     どういえばいいか迷った。
    「梶原さん、これ、悪魔なんかじゃありませんよ」
    「えっ?」
    「これは、なんて名前かは忘れましたが、古代のシュメール地方に伝わる、架空の聖なる動物の像です。昔のバビロニア王国の遺跡には、たくさん彫られています。坂元さんも、どこかでみやげ物として手に入れられたのでしょう。それに、これ、見にくいですけど、ここに『メイド・イン・チャイナ』って書いてあるし」
    「そうなんですか?」
     梶原悟は呆然としたようにいった。そういうことで呆然とされてもわたしが困る。
    「しかし、お話ですと、確かに夢魔が憑いている可能性があります。いいでしょう。わたしにもなにかできるかもしれません。お訪ねしましょう。いつがいいですか?」
     梶原悟は勢い込んでいった。
    「今日、今すぐはだめですか?」
     わたしは気づかれないようにこっそりと時計を見た。七時を回っていた。気づかれないようにこっそりとため息をついた。時間は遅い、話は怪しげ、本来ならば頼まれても行きたくないところだ。だが、わたしの仕事に怪しさはつきものであるし、なにより、形だけでも収入が欲しかった。
     結局、わたしはうなずいた。
    「いいですよ」
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    これから事件はごろんごろん転がりますので、どうかお楽しみに。

    好きなんですよくだらないギャグ。ハードボイルドな男がやるというのがまた(笑)。

    こう、なんというか…

    時事ネタから→事件→ギャグ→事件…と緩急のつけかたが落語のようです。

    上手いですねえ…(唸)

    それにしても、一連の事件気になります…!!

    >佐槻勇斗さん

    しょーもないギャグ大好きなもので……(^^;)

    桐野くんはがんばるのですがはてさて(^^;)

    メイドインチャイナに不覚にもちょっと噴いてしまいましたww

    坂元真由子に憑いた(?)夢魔とは一体!?
    桐野先生が早く夢に入っていくところが読みたくてしょうがないですww
    先生がんばれ!( ´∀`)/
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