「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・66
「タコよ」
「タコ?」
放課後の紅恵高校の教室。いつものことであるが、範子と文子は帰るでもなくウダウダしていた。
「……酢ダコは好きだよ」
「誰が酢ダコの話をしているのよ」
「じゃあ、タコ焼き? 今は季節じゃないよ」
「夏のタコ焼きもいけるわよ。あまり食べたことはないけど……って、違うわよ。わたしがいっているのは、このタコのほう!」
範子はファイルからインターネットのニュース記事のハードコピーを取り出して机に置いた。
文子は読んだ。
「えーと、なになに。南ドイツの水族館にいる、タコのパウル君が、ワールドカップの予想をぴたりぴたりと的中させ、大評判に?」
「どう、すごいでしょう、文子」
「すごいでしょうっていわれても、こんなタコ、どうするの? ドイツの試合は終わっちゃったから、今から見に行っても、きっと面白くないよ」
「面白い面白くないの問題じゃないわ。すぐにドイツへ飛んで、細胞をひとかけもらってきて、バイオテクノロジーを使いクローン複製して、『占いタコ:パウル君ファミリー』として売り出せば、大儲け間違いなしよ!」
「範ちゃん……相変わらずバカな……狂気じみた……たわごと……独創的なことを考えるね」
「バカでもたわごとでもなんでもいいわよ」
範子はちょっと傷ついたらしかった。
「でもさ、範ちゃんって、財閥のお嬢様なんでしょう? だったらなんとかできるんじゃないの?」
「なんともならないわよ」
範子は苦笑いした。
「基本的なグループの運営方針については、家族会議が全部決めてしまうし、ただでさえ今は経営拡大のときとはいえないし。合理化の嵐は国内海外を含めて荒れ狂っているし」
「難しいものだね、範ちゃん」
「こんな、イグノーベル賞みたいな研究をできたのは、せいぜい十年くらい前までね」
「そういうものなんだろうね。商売もしなくちゃいけないしね」
文子はちょっと淋しかった。範子の夢のような物語が、現実になるとしたら、それはとても、範子の心にとってよいことではないかと思えたからだ。
「残念だったね、範ちゃん」
「でもね」
範子は声を潜めた。
「このことを兄貴に話したら、興味を示してくれたのよ」
「じゃあ!」
範子はかぶりを振った。
「……違うわ。発想は面白いけれど、商売のやり方が間違っている、って」
「どういうこと?」
首をひねる文子に、範子は説明した。
「ほんものの商売人は、水族館と交渉し、あの水槽にもう一匹のタコを入れてもらうよう考えるべきだ、って。生まれた子供のタコをことごとく回収し、あちこちの好事家や水族館に売れば、そっちのほうが丸儲けだろうってさ」
「ああ」
「まったく、商人の家なんかに生まれるもんじゃないわ。こういう話ばかり聞かされるんだから」
「範ちゃん」
文子はいった。
「範ちゃんは、今の範ちゃんでいいと思うよ。だって、そんなに抜け目がなかったら……」
わたしを、友達にしてくれなかったかもしれないじゃない。文子は声に出さず、心の中でつぶやいた。
「タコ?」
放課後の紅恵高校の教室。いつものことであるが、範子と文子は帰るでもなくウダウダしていた。
「……酢ダコは好きだよ」
「誰が酢ダコの話をしているのよ」
「じゃあ、タコ焼き? 今は季節じゃないよ」
「夏のタコ焼きもいけるわよ。あまり食べたことはないけど……って、違うわよ。わたしがいっているのは、このタコのほう!」
範子はファイルからインターネットのニュース記事のハードコピーを取り出して机に置いた。
文子は読んだ。
「えーと、なになに。南ドイツの水族館にいる、タコのパウル君が、ワールドカップの予想をぴたりぴたりと的中させ、大評判に?」
「どう、すごいでしょう、文子」
「すごいでしょうっていわれても、こんなタコ、どうするの? ドイツの試合は終わっちゃったから、今から見に行っても、きっと面白くないよ」
「面白い面白くないの問題じゃないわ。すぐにドイツへ飛んで、細胞をひとかけもらってきて、バイオテクノロジーを使いクローン複製して、『占いタコ:パウル君ファミリー』として売り出せば、大儲け間違いなしよ!」
「範ちゃん……相変わらずバカな……狂気じみた……たわごと……独創的なことを考えるね」
「バカでもたわごとでもなんでもいいわよ」
範子はちょっと傷ついたらしかった。
「でもさ、範ちゃんって、財閥のお嬢様なんでしょう? だったらなんとかできるんじゃないの?」
「なんともならないわよ」
範子は苦笑いした。
「基本的なグループの運営方針については、家族会議が全部決めてしまうし、ただでさえ今は経営拡大のときとはいえないし。合理化の嵐は国内海外を含めて荒れ狂っているし」
「難しいものだね、範ちゃん」
「こんな、イグノーベル賞みたいな研究をできたのは、せいぜい十年くらい前までね」
「そういうものなんだろうね。商売もしなくちゃいけないしね」
文子はちょっと淋しかった。範子の夢のような物語が、現実になるとしたら、それはとても、範子の心にとってよいことではないかと思えたからだ。
「残念だったね、範ちゃん」
「でもね」
範子は声を潜めた。
「このことを兄貴に話したら、興味を示してくれたのよ」
「じゃあ!」
範子はかぶりを振った。
「……違うわ。発想は面白いけれど、商売のやり方が間違っている、って」
「どういうこと?」
首をひねる文子に、範子は説明した。
「ほんものの商売人は、水族館と交渉し、あの水槽にもう一匹のタコを入れてもらうよう考えるべきだ、って。生まれた子供のタコをことごとく回収し、あちこちの好事家や水族館に売れば、そっちのほうが丸儲けだろうってさ」
「ああ」
「まったく、商人の家なんかに生まれるもんじゃないわ。こういう話ばかり聞かされるんだから」
「範ちゃん」
文子はいった。
「範ちゃんは、今の範ちゃんでいいと思うよ。だって、そんなに抜け目がなかったら……」
わたしを、友達にしてくれなかったかもしれないじゃない。文子は声に出さず、心の中でつぶやいた。
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パウルくんてまだ無事なんですか??
ドイツが負けたら丸焼きどうこうと言われておりましたが……;;
ちょっぴり心配しております(^^;)
ドイツが負けたら丸焼きどうこうと言われておりましたが……;;
ちょっぴり心配しております(^^;)
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Re: 佐槻勇斗さん
あのタコを見ていると予言者なんてなるもんじゃないなあと思いますね。
とにかく無事を祈りましょう。