「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・67
「文子」
「なあに範ちゃん?」
夕暮れの紅恵高校の教室。
「青春だなあ」
「は?」
「青春だなあ、文子」
範子は窓の外を見ながら続けた。
「どうしたのよ範ちゃん。そりゃあわたしたちは高校生だから、青春真っ盛りといえなくもないけど、それがなにか……」
「青春だよなっ!」
範子は振り返り、文子の目をしっかりと見据えた。
その目の中にはただならぬ炎のようなものが認められた。
文子は気おされた。
「はい。……青春、です」
「そうだろうそうだろう、文子!」
範子は、がっはっは、と笑った。そのいつもの範子とは思えぬ笑いかたに、文子はただならぬものを感じた。
「範ちゃん?」
「文子! お前の青春は燃えているか!」
「わっ」
「文子、青春というものは燃えなくてはならない。燃えて、燃えて、燃え尽きるまで燃えて、そこからさらに不死鳥のごとく甦るのだ。いいか、文子……」
なにもいえずに口をぱくぱくさせている文子の前で、範子は叫んだ。
「それが、青春なんだ!」
「範ちゃん? 範ちゃん、まさか……」
不安にさいなまれる文子の前で、範子はその懸念を裏付ける、あのセリフを口走った。
「さあ、文子! 夕陽に向かって走ろうじゃないか!」
「範ちゃん……範ちゃん、あれね。あれにかかったのね。六〇年代青春ドラマ病に!」
その病気の恐ろしさは文子もよく知るところであった。ひとたびこれにかかると、周囲の人間に無理やりスポーツをさせたり、意味もなく走ったり、わけもなく殴ったりするのである。
いったいどこから感染したのだろうか。たぶん、家にあるとかいう膨大なテレビ番組コレクションの中から、「青春とはなんだ」でも見たか、それとも青い三角定規の「太陽がくれた季節」でも聴いたのか?
いずれにしろこの病気は早急に治さなければ命にかかわる。本人の命にはかかわらないかもしれないが、周囲の人間の命にかかわる。
なにか縛るものは……。
文子はきょろきょろと周囲を見回した。
掃除用具入れに、洗濯ロープがしまわれているのが目に入った。
文子は机から立ち上がると、猛然とロープを取ってきて、返す刀で範子を無理やり椅子に縛り付けた。
「範ちゃん、がまんして……」
文子は、机の中から、あまりのつまらなさに読みかけでやめた本を取り出した。
範子は相変わらず、ラグビーだとか練習だとかいう単語を口走っている。
文子は心を鬼にした。
「『……あたし、薗風みみる。ごくフツーの、高校2年生☆。魔法のペット・ぽるんぽるんと、空に浮かんだ学校、私立雲のうえ学園に通ってまーすっ☆。クラスメートの男子はみんなイケメンぞろいなの♪。毎日がとーってもステキ……』」
「ぐあああああーっ! なんて軟弱なーっ! ぎゃあああーっ!」
文子が手にした本を読み上げるたび、範子は身をよじって苦しがった。
文子はどんどん読み進めていった。
「ねえ、文子?」
すっかり暗くなった帰り道で、範子は文子にこうささやいた。
「ショック療法で正気に戻ったのはいいけれど、まだちょっと頭ががんがんするわ」
「そうだね、範ちゃん……」
文子もげっそりしていた。
「わたしも、昔の青春ドラマ成分を、注入したほうがいいみたい……」
「なあに範ちゃん?」
夕暮れの紅恵高校の教室。
「青春だなあ」
「は?」
「青春だなあ、文子」
範子は窓の外を見ながら続けた。
「どうしたのよ範ちゃん。そりゃあわたしたちは高校生だから、青春真っ盛りといえなくもないけど、それがなにか……」
「青春だよなっ!」
範子は振り返り、文子の目をしっかりと見据えた。
その目の中にはただならぬ炎のようなものが認められた。
文子は気おされた。
「はい。……青春、です」
「そうだろうそうだろう、文子!」
範子は、がっはっは、と笑った。そのいつもの範子とは思えぬ笑いかたに、文子はただならぬものを感じた。
「範ちゃん?」
「文子! お前の青春は燃えているか!」
「わっ」
「文子、青春というものは燃えなくてはならない。燃えて、燃えて、燃え尽きるまで燃えて、そこからさらに不死鳥のごとく甦るのだ。いいか、文子……」
なにもいえずに口をぱくぱくさせている文子の前で、範子は叫んだ。
「それが、青春なんだ!」
「範ちゃん? 範ちゃん、まさか……」
不安にさいなまれる文子の前で、範子はその懸念を裏付ける、あのセリフを口走った。
「さあ、文子! 夕陽に向かって走ろうじゃないか!」
「範ちゃん……範ちゃん、あれね。あれにかかったのね。六〇年代青春ドラマ病に!」
その病気の恐ろしさは文子もよく知るところであった。ひとたびこれにかかると、周囲の人間に無理やりスポーツをさせたり、意味もなく走ったり、わけもなく殴ったりするのである。
いったいどこから感染したのだろうか。たぶん、家にあるとかいう膨大なテレビ番組コレクションの中から、「青春とはなんだ」でも見たか、それとも青い三角定規の「太陽がくれた季節」でも聴いたのか?
いずれにしろこの病気は早急に治さなければ命にかかわる。本人の命にはかかわらないかもしれないが、周囲の人間の命にかかわる。
なにか縛るものは……。
文子はきょろきょろと周囲を見回した。
掃除用具入れに、洗濯ロープがしまわれているのが目に入った。
文子は机から立ち上がると、猛然とロープを取ってきて、返す刀で範子を無理やり椅子に縛り付けた。
「範ちゃん、がまんして……」
文子は、机の中から、あまりのつまらなさに読みかけでやめた本を取り出した。
範子は相変わらず、ラグビーだとか練習だとかいう単語を口走っている。
文子は心を鬼にした。
「『……あたし、薗風みみる。ごくフツーの、高校2年生☆。魔法のペット・ぽるんぽるんと、空に浮かんだ学校、私立雲のうえ学園に通ってまーすっ☆。クラスメートの男子はみんなイケメンぞろいなの♪。毎日がとーってもステキ……』」
「ぐあああああーっ! なんて軟弱なーっ! ぎゃあああーっ!」
文子が手にした本を読み上げるたび、範子は身をよじって苦しがった。
文子はどんどん読み進めていった。
「ねえ、文子?」
すっかり暗くなった帰り道で、範子は文子にこうささやいた。
「ショック療法で正気に戻ったのはいいけれど、まだちょっと頭ががんがんするわ」
「そうだね、範ちゃん……」
文子もげっそりしていた。
「わたしも、昔の青春ドラマ成分を、注入したほうがいいみたい……」
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Re: 蘭さん
あっ、「思えぬ」が抜けていた(汗)
すみませんでした。訂正します。
森田健作氏が剣道二段だったというのはどうもフェイクらしいですね~(笑)。
じゃあ、相互リンクとブロともお願いしますね~。どんどん友達が増えて、リンク巡回がたいへん(^^)
すみませんでした。訂正します。
森田健作氏が剣道二段だったというのはどうもフェイクらしいですね~(笑)。
じゃあ、相互リンクとブロともお願いしますね~。どんどん友達が増えて、リンク巡回がたいへん(^^)
作中作、一体何をやろうとした。
大体の青春ドラマはスクールウォーズが元ネタじゃないかと適当な事言ってみる。
最近はたまにありますがなかなかうまくいきませんね。青春ドラマ。
「ルーキーズ」大ヒットしましたが、色々とやり過ぎた結果はくさい賞。
今期の「タンブリング」はたまにBLに走り。
学園モノが数字取れなくなってます。
とある記者曰く、今のニーズは「適度にシリアス」だそうで。
故に夏クールは捜査モノが5、6本あります…
大体の青春ドラマはスクールウォーズが元ネタじゃないかと適当な事言ってみる。
最近はたまにありますがなかなかうまくいきませんね。青春ドラマ。
「ルーキーズ」大ヒットしましたが、色々とやり過ぎた結果はくさい賞。
今期の「タンブリング」はたまにBLに走り。
学園モノが数字取れなくなってます。
とある記者曰く、今のニーズは「適度にシリアス」だそうで。
故に夏クールは捜査モノが5、6本あります…
- #1578 トゥデイ
- URL
- 2010.07/11 00:26
- ▲EntryTop
こんばんは^^
ご無沙汰です、ポールさん
暑苦しい青春ドラマですね~~~(爆)。
私の若い頃も、こんなドラマが流行ってましたよ。
まだ子供だったので私の記憶の中では定かな物ではないのですが、今の千葉知事の森田健作や桜木健一なんかも、こういったタイプのドラマの主人公だったんですよね、確か。
「柔道一直線」とか・・・・?? あれ?違ったかな?
さっき、のくにぴゆうさんにお聞きしたのですが、「ブロとも申請」にいらしてくれたんだそうですね~!
ありがとうございます
よろしかったら、相互リンク・ブロとも、どちらもお願い出来ますか?
リンク、持ち帰らせて下さいネ
お願いします
あっそうそう、今回の文中で一つ引っ掛かった部分が。
>「そのいつもの範子とは笑いかたに」
何か表現が一部分抜けてる??

暑苦しい青春ドラマですね~~~(爆)。
私の若い頃も、こんなドラマが流行ってましたよ。
まだ子供だったので私の記憶の中では定かな物ではないのですが、今の千葉知事の森田健作や桜木健一なんかも、こういったタイプのドラマの主人公だったんですよね、確か。
「柔道一直線」とか・・・・?? あれ?違ったかな?
さっき、のくにぴゆうさんにお聞きしたのですが、「ブロとも申請」にいらしてくれたんだそうですね~!
ありがとうございます

よろしかったら、相互リンク・ブロとも、どちらもお願い出来ますか?
リンク、持ち帰らせて下さいネ


あっそうそう、今回の文中で一つ引っ掛かった部分が。
>「そのいつもの範子とは笑いかたに」
何か表現が一部分抜けてる??
NoTitle
調べてもわからなかったのですが、いわゆる青春ドラマで最初に「夕日に向かって走った」映像作品はなんなのでしょう?
……謎です。
……謎です。
NoTitle
青春と言えば、確かに夕日に向かって走れですね。昨今のドラマではやらない・・・というか、やるとギャグにしか見えない風潮がありますからね。しかし、そこまでの影響力というのは恐るべしですね。
今でも青春と言えば夕日に向かって・・・ですからね。
今でも青春と言えば夕日に向かって・・・ですからね。
もちろん
文中出てくる「小説(?)」は、昔書きかけて10行でめげたものを改作したものです。
こういった話に含むところがあるわけではありません。
……はいアリバイづくりです(笑)
こういった話に含むところがあるわけではありません。
……はいアリバイづくりです(笑)
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Re: トゥデイさん
もしかしたらそれがこのシリーズを書く原動力になっているのかもしれませんが(笑)
最近の普通のドラマはほとんど見ていませんねえ。しかも高校生が主人公のやつは、「ケータイ捜査官7」が最後かなあ。あれもぎりぎりだけど。
推理ドラマとか刑事ドラマは、イギリスのやつのほうが数倍見ていて面白いので、日本のやつは見る気がしない、という……「フロスト警部」最高じゃあ。でもアメリカの最近のやつは嫌い。最近のハリウッド映画が嫌いなせいかもしれません。