「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・68
「忘れてたわ……」
範子はがっくりと肩を落としていた。
「どうしたの? 範ちゃん」
文子は心配そうに声をかけた。とはいえ、この程度で心配していたら範子と友人関係を築き続けることは不可能である。長いつきあいで、どんなことをいわれても正気を失わないだけのたくましい精神を文子は養っていた。
「忘れてたって、なにを? 宿題の範囲なら、覚えているから教えてあげられるよ。それとも……」
「そんなんじゃないわ」
範子は、心底口惜しそうにいった。
「国民的イベントの、七夕を忘れていたのよ! まったくもう、なんて不覚。ワールドカップのタコなんかにかかずらわっている場合じゃなかったわ」
「なんだそんなことか」
文子は、うすうす予想はついていたものの、やっぱり外れていた宝くじの番号を調べたときのような表情で答えた。
「いいじゃない、範ちゃん。今日は見送っても。仙台の七夕みたいに、旧暦にやればいいと思うな。それに、そっちのほうが織姫と彦星は出会えるチャンスが多くなると思うよ」
「そういう問題じゃないのよ」
範子は果てしなくがっかりしていた。
「世間様の話題から、ズレてしまったことに……」
「そんなこといったら、わたしたちの話なんてみんなズレていると思うんだけど、違うかな、範ちゃん」
「それはいわない約束よ、文子」
「いってもしかたがないもんね」
「それにしても……短冊に願い事を書かなかったのは痛恨のミスだわ」
「願い事って……範ちゃん、あんなの信じているの?」
「信じているというより、心理学的影響のほうを信じている、かな」
「どういうこと?」
「要するに、七夕の短冊って、あれよ。正月に一年の抱負を書くようなもの。短冊に願いを書くことにより、おのれの内なる願望というか努力目標を明確化させ、固体化させる。それにより人間は……」
文子は頭を抱えた。偏頭痛を覚えたのである。
「範ちゃん、もういいよ。自分でもわかっていないことを口走るのは、わたしたちのよくないくせだよ」
「それもそうね。で、文子は、なにかお願いをしたの?」
「したことはしたよ、範ちゃん」
「教えてくれる?」
「……いいよ。『世界人類が平和でありますように』」
「……それだけ?」
「ほかになにを望めばいいの、範ちゃん?」
「いや、お願いの内容はもっともで非の打ち所もないんだけど、そのお願いの文句、どこかの団体が、それこそ日本中に看板を立てていなかったかしら」
「そういう、人間の思想信条にかかわることはNGだよ、範ちゃん」
「生きにくい時代になったわね……」
「範ちゃんは、どんなお願いしたの?」
「え? ……あの。……その。わたし、やってないわ」
「範ちゃん、嘘をつくのが下手だよ。嘘をつくと右目の下がぴくぴくするよ」
「ほ、ほんと?」
範子は右目の下を押さえた。
「嘘だよ。だけど、範ちゃんが嘘をついていることはよくわかった。で、どんなことお願いしたの?」
「たいしたことじゃないわ」
「気になるなあ」
「じゃ、耳貸して」
範子は文子の耳に、なにやらこそこそとささやいた。
なにか赤いものが文子の顔を染めていった。
「……………………」
「……………………」
「範ちゃん……」
「なあに?」
「NG!」
文子は顔を覆ってひとこと、そういった。
範子はほっと安堵の吐息を一息ついた。
この程度でこうなら、ほんとうのことを話していたら絶交されるところだった……。
範子はがっくりと肩を落としていた。
「どうしたの? 範ちゃん」
文子は心配そうに声をかけた。とはいえ、この程度で心配していたら範子と友人関係を築き続けることは不可能である。長いつきあいで、どんなことをいわれても正気を失わないだけのたくましい精神を文子は養っていた。
「忘れてたって、なにを? 宿題の範囲なら、覚えているから教えてあげられるよ。それとも……」
「そんなんじゃないわ」
範子は、心底口惜しそうにいった。
「国民的イベントの、七夕を忘れていたのよ! まったくもう、なんて不覚。ワールドカップのタコなんかにかかずらわっている場合じゃなかったわ」
「なんだそんなことか」
文子は、うすうす予想はついていたものの、やっぱり外れていた宝くじの番号を調べたときのような表情で答えた。
「いいじゃない、範ちゃん。今日は見送っても。仙台の七夕みたいに、旧暦にやればいいと思うな。それに、そっちのほうが織姫と彦星は出会えるチャンスが多くなると思うよ」
「そういう問題じゃないのよ」
範子は果てしなくがっかりしていた。
「世間様の話題から、ズレてしまったことに……」
「そんなこといったら、わたしたちの話なんてみんなズレていると思うんだけど、違うかな、範ちゃん」
「それはいわない約束よ、文子」
「いってもしかたがないもんね」
「それにしても……短冊に願い事を書かなかったのは痛恨のミスだわ」
「願い事って……範ちゃん、あんなの信じているの?」
「信じているというより、心理学的影響のほうを信じている、かな」
「どういうこと?」
「要するに、七夕の短冊って、あれよ。正月に一年の抱負を書くようなもの。短冊に願いを書くことにより、おのれの内なる願望というか努力目標を明確化させ、固体化させる。それにより人間は……」
文子は頭を抱えた。偏頭痛を覚えたのである。
「範ちゃん、もういいよ。自分でもわかっていないことを口走るのは、わたしたちのよくないくせだよ」
「それもそうね。で、文子は、なにかお願いをしたの?」
「したことはしたよ、範ちゃん」
「教えてくれる?」
「……いいよ。『世界人類が平和でありますように』」
「……それだけ?」
「ほかになにを望めばいいの、範ちゃん?」
「いや、お願いの内容はもっともで非の打ち所もないんだけど、そのお願いの文句、どこかの団体が、それこそ日本中に看板を立てていなかったかしら」
「そういう、人間の思想信条にかかわることはNGだよ、範ちゃん」
「生きにくい時代になったわね……」
「範ちゃんは、どんなお願いしたの?」
「え? ……あの。……その。わたし、やってないわ」
「範ちゃん、嘘をつくのが下手だよ。嘘をつくと右目の下がぴくぴくするよ」
「ほ、ほんと?」
範子は右目の下を押さえた。
「嘘だよ。だけど、範ちゃんが嘘をついていることはよくわかった。で、どんなことお願いしたの?」
「たいしたことじゃないわ」
「気になるなあ」
「じゃ、耳貸して」
範子は文子の耳に、なにやらこそこそとささやいた。
なにか赤いものが文子の顔を染めていった。
「……………………」
「……………………」
「範ちゃん……」
「なあに?」
「NG!」
文子は顔を覆ってひとこと、そういった。
範子はほっと安堵の吐息を一息ついた。
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Re: 蘭さん
七夕は、わたしもなにもしなかったので、来月にまわすことにしました(笑)。
でも来月はたぶんもっと暑いんだよなあ。忘れそうだなあ。
範子ちゃんの本当のお願いを詳述するのは作者の筆に余ります(ほんとか?)
でも来月はたぶんもっと暑いんだよなあ。忘れそうだなあ。
範子ちゃんの本当のお願いを詳述するのは作者の筆に余ります(ほんとか?)
こんばんは。
七夕ですか~。
まだ打撲前だったな…(´ー`)トオイメ…
満天の星空を、家族で見に行きました♪ 素晴らしかったですよ!
で。
範子の本当のお願いは何だったんですか?
気になります(^-^;
まだ打撲前だったな…(´ー`)トオイメ…
満天の星空を、家族で見に行きました♪ 素晴らしかったですよ!
で。
範子の本当のお願いは何だったんですか?
気になります(^-^;
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Re: ネミエルさん
たぶん違うぞ。(そうか?)