「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・69
「黒ひげ」
「え?」
範子のいつもながらの妙な発言には慣れていたが、それでもいきなりいわれると聞き返さずにはいられない。文子は首をひねりながら答えた。
「範ちゃん、なに、その黒ひげって? あのコメディアン?」
「……文子、それはチャップリンよ」
「……ごめん、範ちゃん、ツッコんだところでなんだけど、わたしが思い描いていたのは髭男爵の山田ルイ53世さんだったんだよ」
「あ、ごめん、その人知らない」
「……………………」
「……………………」
妙な沈黙が落ちてしまう二人であった。
「それで、そのチャップリンがどうかしたの、範ちゃん?」
「チャップリンじゃないわよ。ほら、あれ知らない? 樽に短剣刺すやつ」
「ああ、あれ。『黒ひげ危機一髪ゲーム』」
文子は合点したようになんどもうなずいた。
ここで知らない人のために説明しておくと、「黒ひげ危機一髪ゲーム」とは、黒いひげをした海賊の入った樽に何本も短剣を刺していき、中に仕込まれたスイッチを入れて黒ひげを飛び出させた人が負け、あるいは勝ち、という、パーティーの余興には最適なゲームである。
「それがどうしたの?」
「買っちゃったのよ」
「あれを? 範ちゃんが? うーんどうだろう。買った人から話を聞いたんだけど、あれはパーティーで盛り上がるから面白いタイプのゲームであって、家で一人であれに短剣を刺しているときほど虚しいものはないってことだったけどなあ」
「そうよ。だから、文子と一緒に試しにやってみようと思ったわけよ」
「なるほど。いいよ。範ちゃんの家って行くと楽しいもんね」
「家でやるんじゃないわ。この学校でやろうと思ってるんだけど」
「範ちゃん、あのゲーム、学校へ持ってきたの? でも、範ちゃん、いつもの鞄のほかには、なにも持ってきてないよね」
不審そうな顔をする文子に、範子は笑った。
「文子、まだ持ってきてないわよ。さすがにね。特注品だから」
「特注品……?」
文子は妙な予感がした。
「ほら、耳を澄ませて、文子! 文子にも聞こえるでしょう?」
なにがだろうか。範子にいわれるがままに、文子は耳を澄ませた。
聞こえる。どこか遠くに、これは……ヘリコプター?
「文子、空を見てみなさい」
範子にいわれるまでもなく、文子は窓から身を乗り出すと空を見た。
ヘリが四機ほど編隊を組んで進んでくる。そしてその下のネットには、巨大な網の中に、これまで見たこともないような巨大な人形が吊るされていたのだった。
「もしかして……これって、怪獣の身体?」
違った。黒ひげ危機一髪ゲーム以外のなにものでもなかった。文子はヘリが校庭に着陸してその荷物を下ろし、再び飛び去っていくのをそ教室から眺めていた。
「こんなでかいもの、よく作ったね」
うん、と範子は答えた。
「これであの穴を刺してね。わかるでしょ?」
そういって手渡したのは、普通の小さなサイズのゲームで使うのと同様のプラスチックの剣だった。
「範ちゃん……穴って、いくつあるの?」
「数えてみたけど2千万個くらいあるはずよ。それがどうか?」
「範ちゃん……刺している間に日が暮れて一ヶ月くらいすぐに経っちゃうよ。誰よ、こんなの考えたの?」
範子はなにげなく答えた。
「文子……それもいわない約束よ」
もう眠い。三十分というのに四十分も過ぎている。オチない。
「え?」
範子のいつもながらの妙な発言には慣れていたが、それでもいきなりいわれると聞き返さずにはいられない。文子は首をひねりながら答えた。
「範ちゃん、なに、その黒ひげって? あのコメディアン?」
「……文子、それはチャップリンよ」
「……ごめん、範ちゃん、ツッコんだところでなんだけど、わたしが思い描いていたのは髭男爵の山田ルイ53世さんだったんだよ」
「あ、ごめん、その人知らない」
「……………………」
「……………………」
妙な沈黙が落ちてしまう二人であった。
「それで、そのチャップリンがどうかしたの、範ちゃん?」
「チャップリンじゃないわよ。ほら、あれ知らない? 樽に短剣刺すやつ」
「ああ、あれ。『黒ひげ危機一髪ゲーム』」
文子は合点したようになんどもうなずいた。
ここで知らない人のために説明しておくと、「黒ひげ危機一髪ゲーム」とは、黒いひげをした海賊の入った樽に何本も短剣を刺していき、中に仕込まれたスイッチを入れて黒ひげを飛び出させた人が負け、あるいは勝ち、という、パーティーの余興には最適なゲームである。
「それがどうしたの?」
「買っちゃったのよ」
「あれを? 範ちゃんが? うーんどうだろう。買った人から話を聞いたんだけど、あれはパーティーで盛り上がるから面白いタイプのゲームであって、家で一人であれに短剣を刺しているときほど虚しいものはないってことだったけどなあ」
「そうよ。だから、文子と一緒に試しにやってみようと思ったわけよ」
「なるほど。いいよ。範ちゃんの家って行くと楽しいもんね」
「家でやるんじゃないわ。この学校でやろうと思ってるんだけど」
「範ちゃん、あのゲーム、学校へ持ってきたの? でも、範ちゃん、いつもの鞄のほかには、なにも持ってきてないよね」
不審そうな顔をする文子に、範子は笑った。
「文子、まだ持ってきてないわよ。さすがにね。特注品だから」
「特注品……?」
文子は妙な予感がした。
「ほら、耳を澄ませて、文子! 文子にも聞こえるでしょう?」
なにがだろうか。範子にいわれるがままに、文子は耳を澄ませた。
聞こえる。どこか遠くに、これは……ヘリコプター?
「文子、空を見てみなさい」
範子にいわれるまでもなく、文子は窓から身を乗り出すと空を見た。
ヘリが四機ほど編隊を組んで進んでくる。そしてその下のネットには、巨大な網の中に、これまで見たこともないような巨大な人形が吊るされていたのだった。
「もしかして……これって、怪獣の身体?」
違った。黒ひげ危機一髪ゲーム以外のなにものでもなかった。文子はヘリが校庭に着陸してその荷物を下ろし、再び飛び去っていくのをそ教室から眺めていた。
「こんなでかいもの、よく作ったね」
うん、と範子は答えた。
「これであの穴を刺してね。わかるでしょ?」
そういって手渡したのは、普通の小さなサイズのゲームで使うのと同様のプラスチックの剣だった。
「範ちゃん……穴って、いくつあるの?」
「数えてみたけど2千万個くらいあるはずよ。それがどうか?」
「範ちゃん……刺している間に日が暮れて一ヶ月くらいすぐに経っちゃうよ。誰よ、こんなの考えたの?」
範子はなにげなく答えた。
「文子……それもいわない約束よ」
もう眠い。三十分というのに四十分も過ぎている。オチない。
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Re: ネミエルさん
ふふふきみはいってはいかんことを(笑)。
はいそのとおりであります(^^;)
はいそのとおりであります(^^;)
Re: 佐槻勇斗さん
ナイフが黒ひげに届かないのにどうして飛び出すのか、というシステムはないしょであります(笑)
睡眠時間がめちゃくちゃになりつつあるのでちょっと生活を修正しようと思いますうむむ。
睡眠時間がめちゃくちゃになりつつあるのでちょっと生活を修正しようと思いますうむむ。
私も剣も巨大かと思った。
その発想はなかったです。お見事。
あれですね。マス数が多いルービックキューブみたいなイライラがあると思います。でもちょっとやってみたい。
その発想はなかったです。お見事。
あれですね。マス数が多いルービックキューブみたいなイライラがあると思います。でもちょっとやってみたい。
- #1587 トゥデイ
- URL
- 2010.07/12 23:53
- ▲EntryTop
NoTitle
樽は特大でもナイフは通常サイズなんですね途方もない……σ(^ω^;)
毎日更新いつもおつかれさまですっっっゝ
毎日更新いつもおつかれさまですっっっゝ
- #1585 佐槻勇斗
- URL
- 2010.07/12 22:06
- ▲EntryTop
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Re: トゥデイさん
しかし、「クイズドレミファドン」を見るとこのおもちゃがほしくなるんだよなあ。懐かしいなあ。