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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 2-3

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    第二章 カメラは血を浴びて(承前)

     その病院、福嶋病院は、まるでわたしを拒否でもしているかのように見えた。こちらが心の中で構えているだけなのかもしれないが。
    「先生についての噂を聞いたとき、すぐに、この人だ! と思ったんですよ」
     車を停めて、梶原悟はいった。
    「先生に一刻も早く診ていただくことができるように、病院に無理をいって夜間の面会を認めてもらったんです。本当なら、明るいうちに来たかったんですけど、ぼくは、今日はどうしてもはずせない仕事があって……」
    「わかります」
     短く答えた。
     実際、個人病院としてはいい線をいっていたように思う。この点に関しては坂元家の選択は正しかったといえよう。
     もしかしたら、わたしもこういう病院で仕事をしていたかもしれなかった。今となっては考えてもしかたのないことだが。
    「福嶋病院ですか」
     開けてあった裏口をくぐった。
    「おじゃまします」
     そのまま受付に向かう。電灯がついていた。そこには、二人の人間がいた。
     ひとりは、わたしの知らない顔の女性だった。看護師らしい。
     問題は、もうひとりの、わたしが知っている顔だった。
    「桐野俊明!」
    「福嶋清親……」
     目と目がぶつかった。そこには、わたしにとって好意的なものはなにも感じられなかった。
    「悪魔祓い師というのはお前か」その医師、福嶋清親はわたしを指さしてそういった。「堕ちたものだな、桐野」
    「今のわたしはナイトメア・ハンターだ、福嶋。悪魔祓いはやっていないが、夢については、精神科よりもある意味多くのことを知っている」
     福嶋清親はわたしを嘲笑った。
    「知っている? そりゃ知っているだろうさ。デタラメなことをまくしたてて、なにも知らない善良な市民からカネを巻き上げる手段はな」
    「わたしはそんなことは……」
    「してるさ」
     梶原悟はおろおろしていた。
    「あの……先生、お知り合いでしたか……?」
     わたしがなにかいう前に、福嶋清親ははっきりとした声でいった。
    「この男は、桐野俊明といいましてね。大学では、わたしと同期だったんですよ」
    「……」
    「頭のいい男で、あのころは精神科医を目指していたはずなんですがね。まさかその技術を悪用してペテン師に成り果てるとは! ……はは、はは、はは……」
    「笑うのはそこらへんにして患者を見せてください」
     わたしは内心を押し殺していった。
    「見てなんになる」
    「できることをやります」
    「福嶋先生……」
    「こんなイカサマ師のたわごとなんか聞くべきではないのは明々白々だが、梶原さんがそうおっしゃるのなら仕方がない。でもね、あらかじめいっておきますがね、きっとこいつはなにか理由をつけて、失敗するでしょうね。嘘つきの詐欺師って、そういうものですからね」
     えらいいわれようだが、わたしは反論しなかった。
    「見せていただけるんですかいただけないんですか」
    「梶原さん?」
    「ぼくからもお願いします、先生」
    「いいでしょう」
     福嶋清親は、かけていたパイプ椅子から立ち上がった。
    「林君、ここをお願いする。わたしたちは二階の患者のところへ行く」
     わたしは、不審そうにこちらを見ている、林、とかいう女性看護師に軽く会釈すると、二人の後について階段を上った。
     二階に上がっても、きちんと細かいところまで掃除が行き届いていた。福嶋清親は昔からそういうやつだった。真面目。善良。神経質。革命を知らなかった革命家タイプである。
     坂元真由子は、四人部屋の窓際に寝かされていた。
     輸液のかわりに経口で栄養剤を与えているらしく、点滴の設備はなかった。
    「彼女ですか」
     梶原悟はうなずいた。
    「坂元さんはレム睡眠状態になっている。脳波を測定してみたらそういう結果が出た。だが、起こそうとする努力は全て失敗している。桐野、お前になにかできたらおれはカルテを食ってやる」
     福嶋清親はそういってわたしをにらんだ。
    「夢に入ります」
     わたしは静かに告げた。
    「お願いします」
    「できるものか」
     梶原悟と福嶋清親は同時にいった。
     プレッシャーを感じる。
     横たわる坂元真由子のかたわらに歩き、椅子に腰を下ろした。
     精神を集中する。回転する六角形を頭に思い浮かべ、夢に……。
     入ろうとした。
     できなかった。
    「なにをしてる? 夢に入るんじゃなかったのか?」
     福嶋清親がねちねちといった。
     わたしはもう一度、精神を統一して、夢の中に入ろうとした。
     簡単な仕事のはずだ。
     できなかった。
     患者の精神と同調した感覚はあるのだが、夢の世界に一秒間も入っていることができないのだ。
    「どうした、桐野? 認めちまえよ。わたしは梶原さんを詐欺にかけようとしておりましたってな」
    「桐野先生!」
     梶原悟が悲鳴のような声を上げた。わたしは、そちらに向き直って尋ねた。
    「梶原さん」
     さて、どういって納得してもらったものか。
    「坂元さんは、最近、なにか質流れ品を入手してはいませんでしたか」
    「え? それがなんの」
    「よく似たケースを知っているんです」

     わたしは梶原悟の運転する車で、坂元真由子の実家へと向かっていた。
    「真由子はあまり質流れ品といったものは買いません」
     だが、最近になって大きな買い物をした。
    「質屋で売っていた、中古のライカです」
    「ライカ? ……カメラの?」
    「はい。そのライカです」
     古いライカは高価な代物であるということしか、わたしは知らなかった。
    「そのライカはどうしました?」
    「兄にプレゼントするんだ、といってました。とんでもない掘り出し物だ、といって。たしか真由子が倒れる二日前に、部屋で荷造りしていたのを覚えています」
    「お兄さんは」
    「今日にも海外から帰ってくるはずだ、と」
    「海外?」
    「お兄さんは戦場カメラマンなんですよ」
    「お兄さんにはこのことは」
    「伝えようと思いましたが、できませんでした。アフリカのどこかにいるらしいことまではわかったのですが……」
     くそ。
    「しかし、桐野先生、そのカメラがなにか?」
     わたしは山木雄平の事例について、簡単に話した。
    「山木……山木とおっしゃいましたか、先生?」
     梶原悟がごくりとつばを飲んだ。
    「忘れていましたが、真由子の部屋のゴミ箱から、山木質店の領収証が……」
     つながった。
    「早く車を飛ばしてください。それと、携帯電話かPHSは持っていますね? 走りながらでいいから連絡をお願いします」
     わたしは梶原悟をせきたてた。

     坂元真由子の実家までは、かなりの距離があった。東京都内ではないのだから当然だ。たどり着いたときには、時刻はすでに十時を回っていた。
     家には明かりが点っていた。
    「お兄さんの……ええと?」
    「開次さんです」
    「そう、その坂元開次さんはまだお帰りではないんですね?」
    「そのはずです」
     間に合ったか。
     わたしたちは車を降り、玄関へ向かうとインターホンを押した。
    「……はい?」
     年老いた女性の声。
    「梶原です。夜分遅く失礼します!」
    「……今、行きます」
     しばし待つと、扉の鍵をがちゃりと外す音が聞こえた。
     梶原悟は扉を開けた。
     わたしたちの目の前に、雲つくような大男が立っていた。
    「坂元開次はおれだが」
     確かに、間違いはなかった。
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    ~ Comment ~

    >神田夏美さん

    ありがとうございます。本章も本章だけで話がほぼ完結しておりますので、どうかお楽しみいただきたいと思います。

    福嶋くんは設定したときは重要人物だったんですが、その後なかなか生かすことができずに「キャラクターの墓場」行きになってしまいました(笑)。第4シリーズではなんとかして出すぞ(爆)。

    ナイトメア・ハンターが夢に入れないとは、なかなか困った事態ですね。夢に入れないことと質流れ品とがどう関係しているのかが気になります。

    事件をどう解決してゆくのか、坂元真由子は目を覚ますのか……気になることが多くてドキドキします。
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