「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・76
「ラーメン食べたい」
文子はいった。
「ラーメン?」
「そうだよ、範ちゃん。冷やし中華じゃなくて、ラーメン。熱いやつ」
どさっと文子は机に突っ伏した。
「食べればいいじゃない」
範子はつまらなそうにいった。自分がイニシアティブを握っていないので不満らしい。
「食べるっていったって、ラーメン屋さんに出かけていって、ラーメンくださいっていうの、ちょっと勇気がいるよ、範ちゃん。焼肉と牛丼とラーメンは、女子高生にとっては鬼門みたいなものだよ」
「わたしは、そういうのを店で頼んだことはないけど……」
範子は首をひねった。
「別に、ラーメンくらいいいんじゃない?」
「範ちゃんはわたしの好みを知らないからそういうんだよ」
「好み?」
「そうだよ。わたしは、こってり系が好みなんだよ。脂がぎとぎとに浮いて、コラーゲンまで浮いているようなやつが」
「コラーゲンはともかくとして、脂はちょっと、わたしは……」
「そうでしょ?」
文子は淋しげな笑みを漏らした。
「こってりラーメンは孤独な少女のロマンなんだよ」
「そんな大げさな」
範子は椅子の背もたれに頬杖をついた。
「家族もこってり好みなの? だったら、家族で食べに行けばいいじゃない」
「家族はみんなあっさり派なんだよ」
「うまくいかないわね」
範子は首をひとつ振った。
「そんなにこってりしたラーメンっていうのはおいしいの?」
「そりゃもちろん。脂質は、人体の必須栄養素のひとつだし」
「でも太らない?」
「それが難点なんだよね。でも、この半年間、我慢してきたから、そろそろ我慢も限界に来ている感じだよ」
「ふーん……」
範子は気のない風だったが、しかしそれでも、友人をなぐさめなくてはいけないと思ったらしかった。
「まあ、時間が許せば、わたしも食べてみたいわね、そのこってり系ラーメンって」
「でしょ?」
文子の目がらんらんと輝いた。
「え……」
範子の第六感は、いまだかつて感じたことのない危険を察知していたが、時すでに遅かった。
「じゃ、行こ、範ちゃん! この近くに、おいしいラーメン屋さんがあるんだよ! ひとりじゃ入りづらいけど、範ちゃんと一緒だったら、わたし、どこでも行けるよ! すごいよ、脂身だらけの、トンポウロウみたいなチャーシューに、こてこてのとんこつスープを使った、濃厚極まりない味噌ラーメン。この世のものとは思えない味だよ!」
範子は文子に引きずられて教室を出て行った。
その晩範子はあまりの脂の前に腹をこわしたという。
文子はいった。
「ラーメン?」
「そうだよ、範ちゃん。冷やし中華じゃなくて、ラーメン。熱いやつ」
どさっと文子は机に突っ伏した。
「食べればいいじゃない」
範子はつまらなそうにいった。自分がイニシアティブを握っていないので不満らしい。
「食べるっていったって、ラーメン屋さんに出かけていって、ラーメンくださいっていうの、ちょっと勇気がいるよ、範ちゃん。焼肉と牛丼とラーメンは、女子高生にとっては鬼門みたいなものだよ」
「わたしは、そういうのを店で頼んだことはないけど……」
範子は首をひねった。
「別に、ラーメンくらいいいんじゃない?」
「範ちゃんはわたしの好みを知らないからそういうんだよ」
「好み?」
「そうだよ。わたしは、こってり系が好みなんだよ。脂がぎとぎとに浮いて、コラーゲンまで浮いているようなやつが」
「コラーゲンはともかくとして、脂はちょっと、わたしは……」
「そうでしょ?」
文子は淋しげな笑みを漏らした。
「こってりラーメンは孤独な少女のロマンなんだよ」
「そんな大げさな」
範子は椅子の背もたれに頬杖をついた。
「家族もこってり好みなの? だったら、家族で食べに行けばいいじゃない」
「家族はみんなあっさり派なんだよ」
「うまくいかないわね」
範子は首をひとつ振った。
「そんなにこってりしたラーメンっていうのはおいしいの?」
「そりゃもちろん。脂質は、人体の必須栄養素のひとつだし」
「でも太らない?」
「それが難点なんだよね。でも、この半年間、我慢してきたから、そろそろ我慢も限界に来ている感じだよ」
「ふーん……」
範子は気のない風だったが、しかしそれでも、友人をなぐさめなくてはいけないと思ったらしかった。
「まあ、時間が許せば、わたしも食べてみたいわね、そのこってり系ラーメンって」
「でしょ?」
文子の目がらんらんと輝いた。
「え……」
範子の第六感は、いまだかつて感じたことのない危険を察知していたが、時すでに遅かった。
「じゃ、行こ、範ちゃん! この近くに、おいしいラーメン屋さんがあるんだよ! ひとりじゃ入りづらいけど、範ちゃんと一緒だったら、わたし、どこでも行けるよ! すごいよ、脂身だらけの、トンポウロウみたいなチャーシューに、こてこてのとんこつスープを使った、濃厚極まりない味噌ラーメン。この世のものとは思えない味だよ!」
範子は文子に引きずられて教室を出て行った。
その晩範子はあまりの脂の前に腹をこわしたという。
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Re: 佐槻勇斗さん
うちの近くのラーメン屋の看板メニューに、「濃厚こてこて味噌ラーメン」というのがあります。お前脂をぶち込めばうまいラーメンになると思っているだろう、というようなラーメンで、食べ終わると口が脂でべちゃべちゃします。
うまいです。
茨城にきたらぜひどうぞ(笑)
しょうゆ味もあります(蛇足)
うまいです。
茨城にきたらぜひどうぞ(笑)
しょうゆ味もあります(蛇足)
Re: 茶倶楽さん
ミスマッチの最たるものですね。
かたや体重に悩むうら若き花のような女子高生。
かたや脂ぎとぎとカロリーたっぷりの熱々ラーメン。
組み合わせるとそこにドラマが……生まれるのかなあ?(笑)
かたや体重に悩むうら若き花のような女子高生。
かたや脂ぎとぎとカロリーたっぷりの熱々ラーメン。
組み合わせるとそこにドラマが……生まれるのかなあ?(笑)
Re: LandMさん
三十分の制限時間に追われて苦し紛れに書いたセリフなので、お褒めいただけるとうれしいです。
まあ、自分で書いていてこのセリフに笑ったのもほんとですけど(^^)
まあ、自分で書いていてこのセリフに笑ったのもほんとですけど(^^)
NoTitle
味噌ラーメンをこってりと呼ぶのなら、佐槻は平気で食べられますよv
とんこつとか、チャーシュー何枚載せとかは、無理ですけど……;;
とんこつとか、チャーシュー何枚載せとかは、無理ですけど……;;
- #1633 佐槻勇斗
- URL
- 2010.07/19 20:58
- ▲EntryTop
NoTitle
LandMさんとほぼ同じ感想を持ちました。名言になるかもですよw
こってりラーメンと少女という、一見つながらなそうな単語でありながら、実際には見事に……繋がる? 繋がったら良いな?
端的な落ちも笑いましたw
こってりラーメンと少女という、一見つながらなそうな単語でありながら、実際には見事に……繋がる? 繋がったら良いな?
端的な落ちも笑いましたw
- #1632 茶倶楽
- URL
- 2010.07/19 20:53
- ▲EntryTop
NoTitle
「こってりラーメンは孤独な少女のロマンなんだよ」
……おそらくすごい名言になりそうな気がする文言ですね。
……と思って見ていました。
短く端的な名言ですごいですね。
そうですね、すごいの一言しかでない作品です。
ありがとうございます。
……おそらくすごい名言になりそうな気がする文言ですね。
……と思って見ていました。
短く端的な名言ですごいですね。
そうですね、すごいの一言しかでない作品です。
ありがとうございます。
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Re: ネミエルさん
あっさりも好きですけど、時にこってりしたものも食べたくなります。
基本的に、20世紀前のヨーロッパでは、美味といったらコテコテだったらしいです。なにせ神様に家畜の脂身を捧げていた民族ですからね。ベーコンも、「家畜の脂をいかにしておいしく食べるか」を考えたものらしいので、西原理恵子先生がエッセイ漫画で「海外旅行に行ったとき毎日出てきた脂身しかないベーコン」についてぼやいていたのも、向こうの人にとってはきちんと理由あってのことらしいであります。
そこに「あっさり味」「素材の味を生かした味」で革命をもたらしたのが、和食だったらしいのですが……ちょっとそこはよく調べてません(汗)。