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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 2-4

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    第二章 カメラは血を浴びて(承前)


    「まあ入れや」
     坂元開次はそういってわたしたちを家の中に入れた。
    「お邪魔します」
     わたしたちはなぜか恐縮して履物を脱いだ。
     坂元開次は二階に向かった。後をついていく。廊下にまでなんだかわけのわからない書類が積まれている。作品だろうか?
     ふすまが開けられた。和室である。廊下以上に様々な書類や写真が、部屋中所狭しと積まれていた。部屋の中央に卓が一卓。その上に、なにかが載っていた。
     カメラだ、と気がつくまで一秒かかった。例のライカだ。
     坂元開次は、どかっ、と腰を下ろしてあぐらをかいた。
    「座れ」
     わたしたちは正座した。だめだ、完全にあっちがイニシアティブを握っている。
    「さっき電話をかけたときには、まだお帰りになってないと……」
     梶原悟が消え入りそうな声でいった。
    「飛行機が遅れやがってな。そのうえ、一つ前の電車が事故ってこれも遅れた。ついさっき駅までたどりつき、そこからタクシーで帰ってきたんだ」
     それよりも、と坂元開次は続けた。
    「真由子がたいへんなことになっているそうだな?」
    「はい。まゆは一週間も昏睡状態が続いていて……」
     梶原悟が懸命に答えるのを、坂元開次は遮った。
    「それで、このカメラがどう関わってくるっていうんだ」
     わたしは精一杯の威厳を込めていった。
    「同様の症状を示す患者が、そのカメラを売った、山木質店のほうでも出ているのです。山木質店と真由子さんを結びつけるものは、そのカメラだけです。絶対、なにかあるはずです。ですから早く……」
    「あんたは」
    「桐野といいます」
    「桐野先生はこの手の問題の専門家なんです」
     いわずもがなのフォローだったが、されないよりはましだ。わたしは、せいぜい専門家っぽく振舞おうとした。
    「開次さん、これは……」
    「能書きはいい、桐野センセイ」
     専門家の衣装はものの五秒もしないうちにひっぺがされた。
    「要するにこういうことだろう? 真由子が贈ってくれたこのカメラを取り上げよう、といいたいわけだ」
     そうだ、と答えざるを得なかった。
    「おれの回答も単純だ」
     坂元開次は効果たっぷりに間合いを取った。
    「断る」
    「しかし……」
    「しかしもかかしもねえよ。あんたら、これがなんなのか知っているのか?」
     わたしは困惑した。
    「ライカ……でしょう?」
    「ただのライカじゃねえんだ、これが」
     坂元開次は言葉を切った。
    「ただのライカじゃない?」
    「あんた、マイクル・ゴドフリーという名前に聞き覚えはないか」
     わたしと梶原悟は顔を見合わせた。
    「思い出せません」
     しかたねえ、といって坂元開次は腰を上げ、乱雑に積み重なっている書籍の中から一冊の大判の本を取り出した。
     タイトルに目をやった。「マイクル・ゴドフリー ベトナム戦争の真実」と、英語で書かれていた。
    「写真集ですか?」
    「見りゃわかるだろ」
     坂元開次は付箋のひとつを押さえると、真ん中あたりのページを開いた。
     そこには、腹から臓物を垂れ流した瀕死のベトナム解放軍兵士にすがり寄る、ひとりのアメリカ兵の姿が写っている、大判のモノクロ写真があった。
     写真についてはまったく門外漢だったが、その写真の持つ、残酷さと崇高さ、それにどうしようもないほどの日常性には、わたしも心を揺さぶられるのを感じた。
    「マイクル・ゴドフリーの最高傑作のひとつである、『戦士よ』だ」
    「戦場カメラマンだったんですか?」
    「おれの大先輩、といったら語弊があるな。神様みたいなものだ」
     手はきれいか、と坂元開次は聞いてきた。ええ、まあ、と、わたしは両手を広げて見せた。読むか、といわれた。わたしはお義理に写真集をぱらぱらとめくった。
     戦場の写真がこれでもかとばかりに踊っていた。ひとことで評せば、残虐行為が日常へと転化する、その中でも消えることのない人間の崇高さというものを写し取った作品とでもいうか。
     わたしは、写真の多くに、決まった人間が写っているのに気づいた。
     質問すると、坂元開次は、それはアメリカ海兵隊369中隊所属C小隊のメンバーだといった。
    「マイクル・ゴドフリーが従軍していたときに行動を共にしていたんだ。そこに写っているのが、ジャック・ハミルトン大尉。ゴドフリーの親友だった男だ。軍人の鑑のような、アナクロ一歩手前の騎士道精神を持っていたんだ。人読んで『ファッキン・ナイト』。『戦士よ』にも写っていたな」
     生きてるほうでしたね、といったら坂元開次は嫌な顔をした。
    「もう死んでいる。ベトコンの急襲を受けたとき、頭に銃弾を喰らって真っ先に死んだんだ。その本に出てるぜ。C小隊は命からがら退却したが、退却行の中でゴドフリーをはじめ、何人もが死んだ。このカメラもそれ以来行方不明になっていたんだが……今日こうして、出てきたわけだ」
    「だから……」
    「だから、渡せねえ。わかったと思うが、このカメラの価値は言葉じゃ語り尽くせねえんだ」
    「妹さんがどうなってもかまわないのですか!」
     叫んでから、しまったと思った。わたしの失言だ。
    「いってくれるが、桐野センセイ……」
     坂元開次は身を乗り出した。
    「あんたに渡して、真由子が目覚めるってえ保証は、あるのかい?」
    「……」
    「あんたが、詐欺師でないという保証も、あるのかい?」
    「わたしは、詐欺師では……」
    「そうだろうが、おれはこれまでの海外生活で、詐欺師というものをイヤというほど見てきたんだ」
    「?」
    「一番たちの悪い詐欺師ってぇのは、ちょうどあんたみたいに、簡単に腹の底までわかってしまうと人に思わせるような面をしているもんなんだよ」
     坂元開次はじっとわたしの目を見つめた。
     視線が交錯した。ずいぶん長いことにらみ合っているような気がしたが、時間的には十秒もなかったろう。
     先に視線をそらしたのは、坂元開次のほうだった。
    「とにかく、帰ってもらえねえか」
    「しかし……」
    「帰ってくれ!」
     帰るしかなさそうだ。わたしにできたことは、緊急時にはここに連絡してくれといって、去り際に名刺を置いてくることくらいだった。

     坂元開次の心情に思い至ったのは、診療所に帰り着いてからである。
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    かといって奇人変人すぎてもファルスになっちまうし、けっこうコントロールが難しいですね現代オカルトミステリ(^^;)

    未着手の完結編、第五作でどう収拾して決着をつけるか、考えることはいろいろあるのですが、うむむ。

    うーん・・・。

    フツーは坂元さんの反応がごく真っ当なものですよね…。
    しかも桐野先生まだ「駆け出し」ですしね。
    でも、常識人ばかりでは物語は進まないのです。
    苦労しますよね…桐野先生。というかポールブリッツさまが…。

    >神田夏美さん

    普通はこういうのが常識的反応なのでしょうが、常識的反応を示す人ばかり出すとこういう非常識な小説は一歩も進まなかったりするものでして(^^;)
    どうか大目に見てください(^^;)

    うーむ、桐野としては困ったことなのでしょうが、坂元開次の気持ちもわかります。ナイトメアハンターなど、信じられないという人は多いでしょうね。証拠をみせることも難しいですし。今までたくさん詐欺師をみてきた人なら尚更、桐野を疑ってしまうのかもしれません。信じるということは難しいものです。

    桐野はこの坂元を認めさせライカを渡してもらえるのでしょうか、気になります。
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