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    「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
    範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)

    範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・79

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    「目」
    「え?」
     文子は目をぱちくりさせた。範子の手には、アイマスクのような妙な機械が握られている。
    「目よ」
    「目、目がどうかしたの?」
     放課後、誰もいない紅恵高校の教室で、文子は後ずさりした。
    「昆虫は知っているわね」
     範子の顔はなにかに取りつかれたかのようになっていた。視線がどこか、危うい。
     文子は乾いた唇をなめた。
    「知ってるよ」
    「そう。よろしい。では、昆虫の目はどうなっているかしら?」
    「どうなっているかしらって……」
     文子はまじめに考えた。生物は苦手なのだが。
     それでも、答えらしいものが頭に浮かんだ。
    「複眼?」
    「そのとおり」
     正解だったらしい。文子は、ほっと胸を撫で下ろした。もし、間違えていたら、それこそなにを……。
    「昆虫の目には、いったい世界がどのように見えているかしら?」
    「え?」
     文子はとまどった。質問の意味がわからない。
    「世界が、どのように……」
    「昆虫は、複眼よ。であれば、当然、わたしたち脊椎動物の目とは、違うように見えているのではないかしら?」
    「……そうかもね」
     文子はうなずいたが、直後、その問いがなにを導き出すかに気がついた。
    「ま、まさか、範ちゃん?」
     文子の視線が範子の持っていた機械に釘づけになる。
    「その通りよ」
     範子は恐ろしげな笑みを浮かべた。
    「この機械は、人間の目を複眼化する装置なのよ。これを使えば、誰の目も、昆虫のような複眼的な視野を手に入れることができるようになるわ」
     文子は震え上がった。
    「そ、そんな恐ろしい機械を……わたしに?」
     範子はおびえる文子ににじり寄ってきた。
    「ほかにこの教室には、誰も人がいないでしょう? だとしたら、わたしたちのことに間違いはないわ」
     範子の声は熱にでも浮かされているようだった。
    「まず、わたしが文子の目を複眼化する……そして、わたしがわたしの目を複眼化する……そうすれば、わたしたちは同じ視界を手に入れることができる。わたしたちは、進化するの。新人類となるのよ」
    「範ちゃん、わたし、旧人類で別に不便は感じていないんだけど……」
     文子は、その場にへたりこんでいた。範子の言葉がもたらす恐怖により、足腰が立たなくなってしまったのだ。
     範子はしっかりとした足取りで迫ってくる。
    「文子、なにも怖いことはないのよ。ほかの人に見えないものが、文子にも見えるようになるだけだから……」
     文子は這って逃げようとした。
     しかし、肩に範子の手がかかった。
    「さあ、文子……」
     目に、アイマスクのような機械がかぶせられようとする。
     目の前が機械で遮られ、真っ暗になった。
     文子は悲鳴を上げた……。

    「文子。文子?」
     文子はうっすらと目を開けた。
     そこには、微笑んでいる範子がいた。
    「範ちゃん、あの機械は?」
     範子はうなずいた。
    「実にうまく作用したわ。文子、あなたの目は複眼になったのよ」
     文子は跳ね起き、辺りを見回した。
    「でも……でも、見えるものはなにも変わっていないよ」
     範子はにやりと笑った。
    「そりゃあそうよ。目から入ってくる視覚信号を再構成して、像をイメージするのは、目よりも脳の働きだもの。複眼化したからって、違うようにものが見えるわけがないでしょう?」
     文子はよく回らない頭で、範子の言葉を反芻したが、やがて、笑い出した。
     つられて、範子も笑い出した。
     ふたりとも、おなかを抱えて大笑いした。
     やがて、呼吸困難から回復した範子が、荒い息の中からいった。
    「文子……ほんとに、本気にしてた?」
    「そりゃあそうだよ。だって範ちゃん、迫真の演技だったんだもの」
    「ごめん、ごめん。人間の目をどうパワーアップさせても、脳を変えない限り、『見る』機能自体は進化しない、ってジョークをやってみたかったんだけどね。ほら、手術で目の機能は回復しても、脳の見る部分を鍛えてなかったら、何も見ることはできないっていうじゃない。それにヒントを得て」
    「まったく、冗談が過ぎるよ」
     笑いの大波が去った後、文子は呼吸を整えた。
     でも……。と、文子は一抹の不安を禁じえない。
     もしかしたら、ほんとうに、わたしは、範ちゃんのあの機械で、複眼の機能を持つ目に改造されてしまったのではあるまいか?
     脳がまだ慣れていないから、普通に人間が見るようにしか見えていないけれど、実は、どこかにちらりと、『見えるはずのないもの』が見えているのではないだろうか?
     澱のように恐怖が残る文子だった。
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    ~ Comment ~

    Re: ネミエルさん

    だからやっぱり改造されると目が飛び出したりするんでしょうな。

    グロテスクもきわまったようなもので……(^^;)

    Re: 佐槻勇斗さん

    よく考えるとたしかにすごく気持ち悪いですね(^^)

    お食事中失礼しました(^^)

    NoTitle

    トンボのお目目は後ろまで見えるらしいですね

    いや~、すごい!

    でもそれは両端についているからですよね?

    人間が複眼になったところで頭蓋骨とかが邪魔でまったく意味がないですよね?
    • #1653 ねみ(Why did you do?) 
    • URL 
    • 2010.07/22 23:49 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    一瞬、文子の目がトンボの目のようになってしまったところを想像してしまいました苦笑
    きもちわるいなww

    Re: limeさん

    ギャグをやろうとするとどういうわけかホラーに接近してしまうのであります(^^)

    ギャグと恐怖は紙一重とはよくいったものであります。

    Re: ぴゆうさん

    たしかに昆虫って、どこかグロテスクで、相容れないものを感じますよね。

    虫は、われわれのもっとも身近にいるエイリアンかもしれません。

    NoTitle

    この、「やあね、信じたの?ジョーダンよ」
    ・・・の後に来る静かな違和感。

    これがホラーの真髄ですね。
    あからさまなホラーよりも、こっち系が好きです。

    夏だからでしょうか。ホラー傾向ですね、ポールさん・笑

    NoTitle

    蠅男を思い出した。
    なんとか、ゴールドプラム・・・
    脳が活性化してない。
    あれは転移装置の中に、蠅が一匹紛れ込んだ事によるものだったけど、やっぱり、虫はいやだ。
    虫って、いつ誕生したか、わからないらしいよね。
    突然、発生したみたい。
    不思議なことばかりだね。
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