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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 2-5

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    第二章 カメラは血を浴びて(承前)

     四日が過ぎた。
     診療所の受付で医学雑誌を読んでいたわたしの前で、電話が鳴った。
     ……もしや客!
     早撃ちガンマンよろしく受話器を取った。
    「はい、桐野メンタルヘルスです」
    『……き、桐野先生ですか? すぐ来てください!』
     泡を食ったような、年老いた女性の声だった。どこかで聞いた声だ。
     そうだ、この前の、坂元開次の家でのインターホン。
    「落ち着いてください! どなたですか?」
    『し、失礼しました。坂元開次の母です』
    「坂元さんになにか?」
    『開次が、開次が倒れました!』
    「わかりました。すぐにうかがいます!」
     わたしは電話を切り、戸口に「本日休診」の看板を掲げると、愛車のビートルに飛び乗った。ガソリンは……なんとかなるだろう。
     奮発して高速に乗った。必要経費だ。
     坂元開次は、わたしの話を信じていなかったわけではなかった。逆だった。あの男はカメラによって妹が昏睡状態に陥ったことを確信していた。
     わたしを遠ざけたのは、自分ひとりの力だけで妹を救おうとしていたからに違いない。
     くそ。
     アクセルを強く踏んだ。ビートルは鞭を喰らった馬のように速度を上げた。
     高速を飛ばしに飛ばして来たのに、坂元開次の家に着いたのは一時間半後のことだった。
    「よくいらしてくださいました、桐野先生」
     坂元開次の母、坂元安恵はそういって頭を下げた。
    「それよりも、開次さんはどうなさいました。開次さんに会わせてください!」
    「こちらです」
     わたしは坂元開次の部屋に案内された。テーブルがどかされ、布団がしいてあった。
     坂元開次は、大き目の布団に、縮こまるようにして眠っていた。
    「いつからですか」
    「昨日からです。朝食を取っている最中に倒れて……最初は旅の疲れかとも思いましたが、ここまで長い間眠るなんて、信じられません」
    「医者には」
    「見せてません。おととい開次が、なにかあったら医者よりも先にここへ電話をかけろ、と、名刺を渡してくれましたので」
    「なるほど」
     わたしは坂元開次の枕元に座り込んだ。
     精神を集中する。六角形のイメージを頭に思い描いた。
     夢に入ろうとした。
     一瞬、宙に浮いた感じがしたが、気がつくと現実世界の自分の身体だった。
     夢に入れない。
     だが、ここまでは予想通りだ。
    「坂元さん、カメラがあったはずですね」
     わたしは根性を据えていった。坂元安恵はおそるおそるといった調子でライカを差し出した。
     手に取った。こうしたタイプのカメラを持つのは初めてだ。この間、診療所を開いたときに記念写真を撮ったときも、「写ルンです」を三脚なしでだったくだいだ。ライカは、手になじむというにはあまりにも異質だった。異星のメカを初めてみるような感覚で、わたしはライカをためつすがめつした。
     シャッターと思われるところには手を触れなかった。おそらく、このシャッターが人間を昏睡状態に陥らせる鍵なのだ。山木雄平は検査のために、坂元真由子は好奇心から、坂元開次は職業上の当然の帰結としてシャッターを切ったことだろう。そしてそれから三日程度の空白を置いて、持ち主は倒れている。
     坂元開次がどうなったかを知るには、シャッターを切ってみるしかないのだろうか?
     しかしこの方法だと、何かがはっきりわかるまで三日程度の時間がかかってしまう。それには時間が惜しかった。
     ならばライカを破壊してしまうか。
     確かにそれは新たな犠牲者を出さない役には立つだろうが、すでに昏睡状態に陥ってしまった人々の上に破局的事態を招く恐れがある。わたしにできることではなかった。
     このカメラはただのゲートにすぎないのか、それとも貪欲な胃袋として、人々の精神を収めているのだろうか。
     精神を収めている?
     わたしの脳髄に、ふとひらめいたものがあった。
     名案か? いや大迷案かもしれなかったが……。
     ライカを床の上に置いた。その上に手をかざす。
     精神を集中した。色を変化させていく回転する六角形を強く強くイメージする。
     わたしは無生物のカメラの見ている夢の中に飛び込もうとしたのだ!
     精神力が最高潮に達し、ある種の「相」が見えたところで……。
     なにかに引きずり込まれるようにして夢の中へと入っていた。
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    このカメラはかなり重要な小道具だったりします。

    まあそれは続きをごらんのうえで……(^^)

    迷信。

    「カメラに写されると魂を吸い取られる」という迷信がありましたね。

    今回はそれを思い出しました。
    事態は風雲急!桐野先生の「大迷案」は果たしてどんな結果を齎すのか…!?

    ぐいぐい話に引き込まれます。

    >れもんさん

    坂元くんは態度はがさつだけどいいやつにしようと思っていました。ここから先を話すとネタバレになってしまうので……(^^;)

    道具の夢の中に入るのは、持ち主の怨念というか想いが詰まった「半分生きているカメラ」だから特別にできた、という設定だったのですが、まさかこの後、似たようなネタを多用してしまうとは書いた当時のわたしには想像すらできなかったのであります。わはは(^^;)

    開次さん、妹思いだった・・
    ちゃんと桐野さんの話も信じていたのですね!!

    ――って、カメラの夢の中に!?
    え!まさかの物の夢に入るなんて、想像してませんでした
    カメラも生きている、んですかね・・・(実際にもなんかありそうでいろんな意味で怖いですw)

    >神田夏美さん

    まあここで彼が信じてくれないと、小説が一歩も(以下略(笑))。

    無生物に入るのは、いざというときの非常手段だったはずなのですが、今後これが常套手段になってしまうとは、これを書いていたときのわたしはまったく気づかなかったのでした(笑)。なにせ便利だからなあ。

    おおおお、開次はちゃんと桐野の話を信じていたのですね!前であんな態度をとっていながら、母に桐野の名刺を渡しておくなど、開次は私の予想を見事に裏切ってくれました(笑)それとも私がストレートに物事を受けとめすぎなのか、もっと多角的な洞察力が欲しいものです(笑)

    そして無生物であるカメラの中に入るとは……!?
    予想外の展開がたて続き飽きません。ポール・ブリッツ様の発想力にはいつも驚かされ、感服致します。
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