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    「ショートショート」
    ホラー

    わが母の……

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    「だからさ」
     マクドナルドで、わたしはポテトをつまみながらいった。
    「どうも、自分がボケてるとしか思えないことがあるんだよね。わかる?」
    「まなみは、たしかにどこかそういうところあるよ」
     さやかのやつは、そういってオレンジジュースをすすった。
    「そこは否定するところ!」
    「ごめん。で、今度はなに? 家の鍵をなくしたの? それとも携帯?」
    「そんなもんじゃないよ。うまくいえないけど、記憶、かなあ……」
    「記憶?」
     わたしはうなずき、アイスコーヒーに口をつけた。
    「そうだよ。記憶。歌なんだけどね」
     わたしは眉間にしわを寄せた。
    「昔、母さんが子守歌のようによくわたしに聞かせてくれて、わたしも大好きだったはずの歌が、どうしても思い出せないのよ」
    「あ、わかる、わかる、それ。子供のころ好きだったはずのアニメの主題歌でさ、喉もとまで出かかっているんだけども、どうしても出てこないっての、あたしもあるよ」
     さやかは、自分でうんうんとうなずいた。
    「でもさ、まなみ」
     さやかは不思議そうな顔でわたしに尋ねた。
    「だったら、直接お母さんにきけばいいんじゃない?」
     わたしは暗い顔になった。
    「それはできないのよ。だって、わたしの母さんは、もうすでに死んでいるんだもの」
     そうだった。
     つとめて考えまいとしてきたが、母さんが死んだのは……殺されたのは、わたしが三つの時だった。
     詳しいことは、これまた記憶にぽっかりと穴が開いているが、わたしは、刺されて血まみれになった母さんの遺体のかたわらで、火がついたように泣きじゃくっていたらしい。犯人は結局捕まらず、わたしは警察に対してちょっと複雑な思いを抱いている。
    「だからさやか、わたしにとってはこれは、母さんについての、数少ない記憶の手がかりなの」
     あれから二十年、男手ひとつでわたしを育て、こうして大学にまで行かせてくれた父さんも、昨年、肺炎を悪化させて死んでしまった。
     わたしは食欲がなくなり、ポテトをさやかに押しつけた。
    「ちょっとこれ、食べてくれない」
     コーヒーを一息で飲み干し、冷気とともにその嫌な思いを吹き払おうとした。
     コーヒーはやたらと苦かった。

     持つべきものは友達とはよくいったもので、わたしはさやかから大量のテープとCDを貸してもらった。いずれも、童謡や子守唄がたくさん入っている。片っ端から聴いていれば、そのうち思い出すだろう、というのがその理屈だった。一理ある。
     あいつは小学校教師を目指しているので、必死になってピアノやオルガンをマスターしようとしているそうだ。ボロアパート住まいなため周囲に音が漏れないよう、ヘッドホンを付けてキーボードを弾くその姿を想像すると、どこか涙ぐましいものがあるが、わたしも同じようなボロアパートに住んでいるのだから、まあ武士は相身互いである。相身互いなんて、国文学なんかやっていると言葉づかいまでこうなってしまうから困る。
     ボロアパートに帰ったわたしは、電気屋で買ってきて愛用している、韓国製のCDラジカセの電源を入れ、さやかから借りたCDをセットして再生した。

     夕焼け小焼けの 赤とんぼ……

     わたしは口ずさみ、かぶりを振った。違う。
     リモコンで次の曲を出した。

     からす なぜ鳴くの からすは山に……

     これも違う。もっと、魂に来るような歌だ。

     歌を忘れた カナリヤは……

     違う。

     てんてんてんまり てんてまり……

     問題外。

     それからしばらく、違う、これも違う、あれも違う、とリモコンを押しまくっていたわたしは、もしかしたら徒労を重ねているだけじゃないのかと思って、こんなことを提案したさやかをちょっと恨めしく思った。
     だがそれも、この歌に出会うまでだった。

     かごめ かごめ
     かごの中の鳥は……

     これだ!
     わたしは反射的にそう思った。
     母さんが幼いわたしに聴かせてくれたのは、この歌だ!
     確かにそうだった。幼い日の、とうに忘れてしまったとしてもおかしくない、母さんのひざで過ごしたときの思い出が甦ってくる。ぬくもり、肌ざわり、におい、その他いろいろなものが、プルーストの「失われた時を求めて」のように、一瞬のうちに、判然と。
     いつしか、わたしも、CDに合わせて口ずさんでいた。

     いつ いつ 出やる
     夜明けの 晩に
     鶴と亀が 出会った……

     母さん。思い出の中の母さんは、なぜ、そんなに、取り乱した顔をしているのだろう。まるで、ここからは来るな、すぐに逃げろ、とでもいいたいかのように……。

     後ろの正面……

    「だあれ!」

     誰とも知れぬ大声に、はっと振り返った。
     わたしは悲鳴を上げた。
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    ~ Comment ~

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    Re: 蘭さん

    ホラーは難しいです。書いていてほとほとそう思います。

    「面白い=怖い」ですけれども、どこをどうすれば「怖く」なるのかのポイントがつかみづらいというか……。

    岩井志摩子先生とか貴志祐介先生とかラブクラフト先生とか、よくもあんな傑作を量産できたなあ、と思いますね。

    ちなみに楳図かずお先生の漫画は怖くて読めないヘタレだったりします(笑)

    とりあえず、今日(31日)でホラーは一段落です。難しすぎてストックがない(笑)。

    こんばんは^^

    ホラー作品なんですね~。

    「かごめ かごめ」って、良くホラー漫画やドラマの題材として使われます。

    確かに、ポールさんが仰るように、パンチ不足かなぁって感じがします。
    何かちょっとラストが唐突過ぎ?
    母親を目の前で惨殺された記憶を、無意識の内に封じ込めたのかも知れませんが、イマイチぴんと来ません。

    急に背後に立ってると言うのも何か違和感がありますし・・・・。
    オムニバスの「都市伝説」っぽい印象を受けました。

    「私、リカちゃん!」
    みたいな?(笑)

    個人的にこういうホラーな話は大好きですので、これからも楽しみにしてますv-290

    Re: ミズマ。さん

    この歌の由来については諸説あるみたいですね。

    諸説ありすぎて、どれが正しい意味なのかさえわからない、という……。

    まあそれはおいといて、この話では、なんとなく曲が不気味だったので使ったんですけど。

    たしかにラストは唐突すぎたなあ……。

    若干唐突なラストにしあがっている感じはいなめないですねぇ。そのおかげか物語の余白がたくさんあるように思いました。

    この歌って怖い歌なんですよね、確か。
    子供が絡んだなにかだったような……?
    それがわかればもっと怖いんだろーなぁ。
    思い出せないなぁ。

    Re: ECMさん

    これはご丁寧にどうも。m(_ _)m

    CG、「いただきもの」に貼らせていただきたいと思います。

    先日、pixivの「お気に入り」に登録させていただきました。

    どうかこれからもよろしくお願い申し上げます。

    暑中お見舞い申し上げます。

     暑中お見舞い申し上げます。
     お久しぶりでございます。
     暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。
     まだ暑い日が続くと思いますが、ご自愛下さい。
     下記のアドレスに暑中見舞いCGを描きましたので、よろしければご覧ください。
     http://ecmp.web.fc2.com/cg_gal/e_sy10.htm

    納涼ホラー特集第二弾です

    未発表作品。

    書いたはいいもののパンチ力に不足を感じたのでお蔵にしてきましたが、UPしてみることにしました。

    どうでしょうか?
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