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    昔話シリーズ(掌編)

    詩人と夢の国の昔話

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     昔、昔、ある国に、ひとりのぱっとしない詩人が暮らしておりました。詩人は、「夢の国」を舞台とした、夢のような詩を書いては、いくばくかのお金を得ておりましたが、都で評判となるには至っていませんでした。
     ある夏の暑い日、詩人は、広場の長椅子で頭を抱えておりました。
     詩が、書けなくなってしまったのです。
     書きたいもののイメージだけはあるのですが、それを生き生きと表現することが、詩人にはできなくなってしまったのでした。
    「……ああ、どうしよう。旦那がたからの注文はあるのに、一行も浮かばない。このままでは、家の家賃どころか、明日のパンすらも買えない」
     夢のようなことを書かなくてはならないのに、考えることはどんどんそのように所帯じみていってしまいます。
     太陽はぎらぎらと照りつけ、詩人の頭はぼうっとしてきました。
     どれだけ時間がたったでしょうか。
    「……おじさん、おじさん」
     詩人は、自分を呼ぶ幼い声に、そちらへ目を向けました。
     そこには、六歳くらいの子供が、にこにこと笑いながら立っていました。
    「おじさん、ここは暑いよ。どうしてこんなところにいるの?」
    「……ふん、子供には関係ないことだ」
     詩人はそう答えました。書けなくなった、などと子供にいったら、子供にも馬鹿にされるかと思ったのです。
    「ふうん」
     子供は訳知り顔で詩人を見ると、腰から小さな瓶を取り出しました。
    「おじさん、夢の国へ行ける薬、いらない? ぼくのお師匠様の、錬金術師ディテュランボス様が作られたのだけれど」
    「いらんよ。知ってるぞ。錬金術師を名乗る悪者が、大人に麻薬を勧めて、だめな人間にしてしまうという話はな。だからほら、帰った帰った」
    「ぼくのお師匠様はそんなことしないよ。人に、ちょっとした夢を見せて、楽しい気分になってもらうために作っているだけだもの」
     そのしょげた顔が、あまりにもかわいかったので、詩人はちょっと、気の毒になりました。
    「一服いくらだ?」
    「銅貨一枚」
     詩人は、好奇心を覚え、やるべきではないと頭の片隅で思っていたものの、銅貨を出して薬を買ってしまいました。
    「これはどうやって?」
    「ふたを開けて、ぐいっとひと飲みに」
     詩人はふたを開け、ぐいっとひと飲みに飲み干しました。
     次の瞬間……。
     詩人は夢の国へいました。
     見たこともない動物や、見たこともない服を着た人々が、奇抜な設計の建物が立ち並ぶ市場の大通りを闊歩していきます。
     詩人は、きょろきょろしながらでたらめに歩き、一軒の店で、自然が作ったとは思えないような果物を買ってかじりました。とろけるような味です。
     この世のものではないような美女が、詩人に話しかけてきました。
    「覚醒の国からいらしたのね? どうか、あちらの話を聞かせてくれないかしら?」
    「それより、ぼくにこちらの国のことを教えてくれ。こんな……こんな国があったなんて……」
    「ふふ、いいわよ。ついていらっしゃい」
     詩人は、陶然としながら、美女と夢の国を歩き回りました……。

     詩人は、はっと気がつきました。
     詩人がいたのは、もとの広場の長椅子でした。すでに陽は落ちかけ、夕闇のオレンジ色の光が、辺りを包んでいました。
    「君……君! あの薬は……」
     詩人は子供の姿を探しましたが、すでにどこにもいませんでした。
     詩人はわずかに顔を青ざめさせて、とりあえず見たことを書いておこう、と、紙とペンを取るため懐を探りました。
    「……あれ?」
     紙がありません。ペンもありません。それよりも重大なことに……財布がありません。
    「ああっ、や、やられた!」
     頭に血が上った直後、詩人の頭の中からは、夢の国ですごいものを見た、というあいまいな記憶以外は、夢の国で起きたすべてのことの記憶が消え去ってしまいました。そう、あたかも夜に見た夢を、朝には忘れ去ってしまうがごとく……。

     それからというもの、詩人は……あのかわいそうな詩人は……。
     都でもいちばんの人気詩人になっていました。
     詩人はあのとき、時間と、財布に入ったいくばくかのお金と引き換えに、「魔法はほんとうにある、夢の国はほんとうにある」という確信を得ることができたのでした。
     あの、夢の国、自分の記憶から消えてしまった夢の国に負けないような、魅力にあふれた夢の国を書いてみせる、と決意した詩人は、想像力の翼を広げに広げ、名作を次々と発表し、文名はうなぎのぼりに上昇しました。
     有名になった詩人は、仲間から、夢の国に行くために、怪しげな酒や薬をいっしょにやってみないか、と誘われることもしょっちゅうでしたが、そのたびに、ほほえみながら首を振ってこう断るのでした。
    「やめとくよ。この前夢の国に行ったときは、有り金全部取られたけれど、また夢の国に行ったら、今度は命を取られかねないからね……」
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    ~ Comment ~

    Re: ダメ子さん

    ああ、そりゃもちろん……

    といいかけて、

    戦前のサイレント映画、「カリガリ博士」のあの悪夢世界が頭に浮かんでしまったとほほな作者(^^;)

    イメージとしては……読まれたことがあるかどうかはわかりませんが、中井紀夫先生の「タルカス伝」に出てくる「グユ」の街か、「アムネシア」の村を想像していただくとけっこう近いと思います。

    夢の国、一体どんなところだろう?
    私にはディズニーランドぐらいしか…

    Re: YUKAさん

    ディテュランボスという人は、ペルシア戦争でレオニダスとともにテルモピュライで玉砕したスパルタ人の豪傑から名前を取りました。

    ギリシア人の名前って、どれも錬金術師に似合いますね。

    パパンドレウ首相には錬金術の才能はなかったみたいだけど(^^;)

    こんばんは^^

    フォーマット、変わるってこれだったのですか^^
    詩人の話は面白いですね。
    そもそも夢の国の住人。
    結局は、あり金よりも手に入れたモノが大きかったのですから、
    悪いことでも無かったのか……。
    いや、盗みは悪いことでした^^;

    ディテュランボス様……ちょっと舌を噛みそうでした(笑)

    Re: 桐月きらり☆さん

    それはそれでまた人情味あふれるご推測ですね♪

    犯人が誰であれ、それによって詩人は夢の国の確証を得たわけですから、まあ善行をほどこした……のかもしれません(^^)

    それにしてもわたしの「昔話シリーズ」には、ビンボーな詩人が出てくる話がやたらと多いなあ(^^;) わたしもビンボーでパッとしない同人作家だからかなあ。

    NoTitle

    有り金が全部なくなって、しばらくは大変だっただろうなとか考えたりしました。
    しかも、そのお金は子供が持っていったとも限らないですもんね。寝ているなと思ったどっかの誰かが懐から失敬したのかも、とか。
    なんだか勝手に、詩人の作る詩が大好きだった子供が、続きがでないことに、どうしよう。何か出来ないかなって考えて、お師匠様に頼み込んでクスリをもらい男に不思議の世界を見せてくれたという流れを頭の中で勝手に思ってしまったので、子供の肩を持っちゃうのかもしれません。すみません。

    夢の国よりもステキなものをかけるように願う詩人さんは、すでにもう彼の夢の国にいるのかもと感じました。
    また来ます☆

    Re: トゥデイさん

    ちょうどいいのが思いつかなかったのです。
    時間もなかったし、まあいいかな、と。

    夢の世界も夢の世界で非常に魅力的なんですが、現世に戻ってきたとき、たいていはなにも覚えていないので、創作の役にはあまり立たないであります。

    起きてすぐ、自分がどんな夢を見たのかを日記につける作家のかたもおり、それで巨匠と呼ばれた先生もおりますが、反対に精神のバランスを崩して精神病になってしまった人もいるとかで、よほどの覚悟がないと夢の世界を使うのは難しいみたいですねえ。

    おや、最初最後の語り手はやめたのですな。

    詩人の判断は正しいです。起きてる時に夢を見る事ほど安全な物はない。
    そして寝てる時の夢は非常に危険。アリの世界の王様にさせられたり。
    自分の描く世界が薬でみる世界より凄いという自信があるからこそですね。

    Re: LandMさん

    向こうのほうではご無沙汰しております。読んではいるのですが、自分の中でイメージがまとまっていないのでコメントできず……すみません。

    薬物でトリップして異界へ行く、ということのみじめさについては、「ゲド戦記」の3巻でアーシュラ・K・ル=グィン先生が喝破しておられたところですよね。

    とはいえ使ってしまった(^^) ネタがないとなんでもやる男であった(笑)

    鎧の騎士楽しみです~♪

    NoTitle

    詩人っていう生き物はどこか夢の世界に行く生き物だと思いますよ。妄想であれ、創造力であれ、何にせよ。こういう夢の世界に行く方法は・・・…まあ、あまりしたくないですけどね。
    私も寝る夢の世界を小説に書いたりしますからね。
    どうも、LandMでした。
    また、鎧の騎士が出るときは連絡しますね~~。
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