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    昔話シリーズ(掌編)

    機械の国の人間の昔話

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     昔、昔、あるところに、機械の国がありました。そこに住んでいるのは、精巧に作られた機械人形のロボットたちで、ずん胴な身体に鉄の手足、大きな顔がついているのでした。
     ロボットたちは、他のロボットの住民と出会うと、プログラムされた言葉で、あたりさわりのないあいさつを交わすのが常でした。
     中央にある巨大な鉄の塔の、電光掲示板に現れる文字と、定期的に鳴るチャイム、そして配給される燃料と冷却水で、ロボットたちは動き続けるのでした。
     機械の国は、今日も平和な日常が続いていました……。

     R208は、他のロボットにはいえない秘密を抱えていました。実は彼は、ロボットのふりをしていた少年だったのです。戦争で家を焼け出され、あちこちをさまよった挙げ句、ロボットの外装を手に入れた少年は、この国に何食わぬ顔をして潜り込み、ロボットとして生活していたのでした。
    「この燃料とやらが、食べられる物質でほんとうによかった……」
     少年は、味もそっけもない「燃料」をかじり、冷却水で胃袋に流し込みながら、一人きりの部屋でそうつぶやきました。
    「しかし、この国もなかなか居心地は悪くないな。みんなロボットだけど、それだけに、こうして生きていくぶんにはなにも問題はないからな」
     少年は外装を部屋に投げ出すと、ごろりと床に横になりました。
    「ロボットといっても、けっこう見慣れると、個性もあるような気がしてきたな。今日会った、R489なんて、まるで本物の人間みたいだったな。ちょっと反応が鈍くって。プログラムがまずかった不良品なんだろうな、きっと」
     それでも、どこか人間を思わせるその動作に、少年は懐かしいものを感じました。
    「R489に、明日また、会いに行こう」

     翌日、R208の外装をかぶった少年は、ロボットらしい足取りで、R489のもとを訪れました。ロボットたちの仕事は、人間向けの日用雑貨を作ることでした。機械的に作業がなされていきますが……いました、いました。R489です。一人だけ、ぎくしゃくしながら服の布を切っているから、すぐにわかります。
     R489が、R208に気がつきました。
    「R208? なにかありましたか?」
    「いえ。昼休みになったら、公園へ行きませんか。ちょっと話がしたい」
    「公園は混雑しています。裏庭へ行きましょう。あそこはほんとうに誰も来ないんです」

     昼休みになりました。R208の少年は、R489とともに、裏庭にやってきました。そこには、ほんとうに、人っこひとりいません。
    「R208、わたしになんの用ですか?」
    「用なんてものはありません。ただ、あなたといると、電子頭脳が快反応を示すだけです」
     少年は、できるだけ言葉を選んでいいました。
     しかし、相手には、少年の言葉の不自然さがわかってしまったようでした。
    「R208、あなた、故障しているのではないですか? われわれの電子頭脳は、快や不快を感じるようにプログラムされていません」
    「故障ではありません、R489。わたしは至って順調です」
    「虚偽の言葉を吐くものではありません。R208、あなたは故障のおそれがあります。その首を外しなさい。電子頭脳を点検します」
     少年は慌てました。首を外してしまったら、自分が人間であることがばれてしまいます。
    「R489、それは道理から外れています。わたしには、そこまでしなくてはいけない理由が見出せません。通常のロボットであるあなたに、電子頭脳を点検する能力など……」
     苦しい言い訳をして場をしのごうとしていた少年は、ふと、ある可能性に思い至りました。
    「……いいでしょう。能力もないのに、電子頭脳を点検するなどということは、あなたも故障している可能性があります。R489、あなたもその首を外しなさい」
     R489は、一瞬、硬直しました。
     沈黙の後。
    「……わかりました」
     二人は、同時に首を外しました。
    「やっぱり!」
     少年は、小さな声で叫びました。R489の鉄の頭の奥にも、人間の頭があったのです。それは、少年と同じくらいの年頃の、少女の顔でした。
    「R208……あなたも、わたしと同じ、人間だったの?」
    「そういうR489も……ええい、君には名前がないのかい? ぼくにはあるぜ」
     少年は、自分の名前を名乗りました。
     少女は、悲しそうな顔で首を横に振りました。
    「名前なんてないわ。R489が名前よ。生まれたときから、ここでずっとロボットのふりをして生きてきたんだから……」
    「はじめに自分が人間だって気がついたのはいつ?」
    「人間の映った写真を見てからね。そうして、初めて、自分はロボットじゃない、人間だって……」
     少女は、掌に顔を埋めました。
    「わたし以外の人間なんて知らない。どうやって生まれてきたのかもわからない。ただ、ずっとひとりぼっちだった。悲しかった……」
     少年は、なんとなぐさめたらいいかわかりませんでしたが、はっとあることに気がつきました。
    「君、君は自分がここで生まれたっていったね」
    「ええ、そうよ」
    「だとすると……ぼくの考えが当たっていれば……君、あの中央の塔へ一緒に忍び込める?」
    「できると思うわ。でも、どうして、あんなところに?」
    「考えがあるんだ」

     翌日。中央の塔の電光掲示板は、ロボットたちにひとつの命令を知らせました。
    「自分ノ頭ヲツカミ、持チ上ゲロ」
     塔の命令は守るべきだ、そう思ったロボットたちは、命令に従い、自分の頭をつかんで、持ち上げました。
     すると、どのロボットの頭の中からも、人間の頭が出てきたのでした。
    「どんなもんだい」
     少年は、塔のコントロールルームで、目を丸くする少女の横でぱんぱんと手を叩きました。
    「思ったとおりだ。この国に、ロボットなんか一人もいなかったんだ。みんな、人間だったんだ。君も、これでもう一人じゃないぞ」
     少女は、少年に抱きつきました。

     数日が過ぎました。少年と少女は、国境線に向かっていました。
    「ぼくは間違っていた。この国にいなかったのは、ロボットじゃなかった。人間だった。はじめから人間は、ぼくと君の二人しかいないんだ」
     少年は、蒼白な顔で連れの少女にいいました。
    「ロボットの外装は捨てたものの、未だに人々は、塔の命令に従い、燃料と水をもらい、機械みたいな労働をして生きている。他の人たちとはあたりさわりのないあいさつを交わすだけだ。なにひとつ変わっていない。みんな、ロボットとして生きる以外に、生きられなくなっているんだ」
     少年は、震える少女の肩を抱きました。
    「こんな恐ろしい国、すぐに出よう。すぐに出て、人間の暮らしができる世界へ行こう。それが一番いい」
     そして、少年と少女は、この国から姿を消しました。
     今も、この国では、人間たちがロボットのような作業を続けています。あたりさわりのない言葉をたがいにかけ、にこにこと、ただ塔からの命令に従って目的もない労働をするだけで生きています……。
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    ~ Comment ~

    Re: ihiroppiさん

    楽しんでくださったようで嬉しいです。

    「昔話シリーズ」はけっこう気に入った作品が多いです。

    「MAIN」から「ショートショート」のタブをクリックしてもらえるとわかりますが、とりつかれたようにショートショートばかり書いていることがわかると思います。

    数だけは山ほどありますので、SFミステリファンタジーホラー恋愛その他、たっぷりとお楽しみください(^_^)

    ほんとよくここまで書いたもんだよ我ながら(^_^;)

    星新一テイストがあって面白かったです

    星新一さんのをマイルドにした感じでしょうか。新一さんならもうちょっとブラックな落ちにするような感じです。

    星新一はショートで気軽に読めるので昔よく読んでました。

    他のものも読ませていただきます(^^;)

    Re: ダメ子さん

    ありえたかもしれないわたしたちの世界かもしれません。

    住民がみんな満足している、オーウェルの「1984年」みたいな世界とか……。

    つくづくわたしはディストピアが好きみたいですとほほほ。

    この国ってどこ?なんちゃって

    Re: YUKAさん

    なにはともあれ、こういう世界には生まれたくないものであります。

    こんな「平和」やだよわたし(^^;)

    こんばんは^^

    う~~ん。
    皮肉といえば皮肉ですね。
    ロボットだらけの方が争いがない。

    人間として生まれた方が突然変異。。。それもまた皮肉な^^
    凄く楽しめました^^

    Re: HDSKsoさん

    少女は、いた、というよりは、突然変異的に生まれてしまった「人間らしい人間」なんでしょうね。

    単にボーイミーツガールが書きたかっただけ、というのもありますが(爆)。

    NoTitle

    管理される生活に慣れてしまった人間はもう人間ではないのかもしれないですね。
    生きることは大切だけれど、ただ生きているだけだと一般的に人間的といわれている思考、情緒、矜持などをが欠如してしまいますものね。

    なぜ少女がこの国にいたのか?なぜ機械の国ができたのか?いろいろ想像できて楽しい作品でした。

    覚え書き

    参考にしたのは、スタニスワフ・レム大先生の「泰平ヨン」シリーズの一篇。

    レム大先生の本来の作ではユーモアものだったが、ラストシーンを改変するアイデアを思いついたので作品にしてみた。

    やなディストピア(ユートピアの反対概念。最悪な社会のこと)もあったもんである……。
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