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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 2-7

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    第二章 カメラは血を浴びて(承前)


     坂元開次を背負って、道とも思えない道を歩き続けた。
     肉体のこういう酷使というやつは、最後にものをいうのは筋肉ではなくて根性である。ナイトメア・ハンターの悲しさ、夢をリアルに感じすぎてしまうのだ。
     時おり姿を現すトラップを背中からの助言で避けながら、ただただ歩を前に進める。距離感などは、とうになくなっていた。夢なのだから、距離も時間も関係ないのではあるが。
    「先生」
    「何度いわれても下ろしませんからね」
    「そうじゃねえ。あそこを見ろよ。村だ」
     そういわれて目を上げたが、疲労困憊した頭にはどこが村でどこが木々なのかも見分けがつかなくなっていた。
    「ジープかなにかあるかもしれないぜ」
     ないだろう、とわたしはいった。たぶんその村というやつが終着駅なのだ。たぶんカメラを使った人間は、なんらかの形で村にたどりつくのだろう。生きてだか、死んでだかは知らないが。
     そう説明した後、付け加えた。
    「マイクル・ゴドフリーがなにを見たのか気になりますね。もしかしたら、あの村にわたしたちがたどりついたとたんにベトコンが大挙して襲ってくるのかもしれない」
    「恐ろしいことをいうなよ」
    「でも、わたしたちは行かなくてはなりません。行かなければ、なんのためにわざわざカメラに捕らわれたのかわからなくなる」
    「そうだな……」
    「痛みはどうです? また、鎮痛剤を打ちますか?」
    「いや、大丈夫だ、それに頭をはっきりとさせておきてえ」
    「なにかありましたか?」
    「これ」
     わたしは背中を振り向いた。坂元開次が誇らしげに突き出したものを見て、どきっとした。
    「カメラ……」
     まさしく、あのライカだった。
    「どうしたんです?」
    「作ったんだ。先生みたいに」
    「あなたが?」
    「まあな。ほんとはおれの愛用のカメラを作りたかったんだが、どうしてもこれしかできなかったんだ。カメラ以外にも、酒とか銃とか、いろいろやってみたんだけどな」
    「説明をし忘れていましたが、夢の世界でものを作るというのは、精神力を消耗するということで、ある意味、自分の命を削るのと同じことですよ」
    「そんなことだろうと思ったがな、先生、あんたが根っからの医者であると同様、おれも根っからのカメラマンなんだ。見逃してくれよ」
    「やってしまったものはしかたがありません」
     わたしはため息をついた。その反動で、背負子がまたずしりと重くなったような気がした。
     叫んだ。
    「T大射撃部、ファイッ! オゥ! ファイッ!」
    「……先生、そればっかりだな」

     村は、ひとことでいって、荒れ果てていた。ふたことみこと以上の言葉を使えば、どれだけひどい形容詞が飛び出てくるかわかったもんじゃない。燃えて崩れた家、散乱した家財、踏み荒らされた地面、素人目にもここで戦闘が起こったことは疑いようがなかった。
     わたしは坂元開次を降ろした。精神を集中、散弾銃を物象化させる。精神の焦点がずれたことで、とりあえず用済みになった背負子は消滅した。
     不思議そうにそれを見ていた坂元開次だったが、わたしの銃器の選択に文句をつけ始めた。
    「ショットガンか? ここで? やめとけよ。どうせ武装するならAK47、それがだめでもM16にしとくんだな。悪いことはいわねえ」
    「自動小銃なんて使い方はおろか、実物を見たこともないです。第一このレミントンも……レミントンですよね? 使ったことがないので途方にくれかけているんですから。操作はだいたいわかりますがね」
    「しかたないやつだ」
    「そこまで憎まれ口を叩けるところを見ると、だいぶ回復したようですね。夢の中だけあって、時間経過と肉体の回復力が違うらしい」
    「ああ、もちろん……」坂元開次は立ち上がり、二、三歩歩きかけて、顔をしかめてくずおれた。「大丈夫だ。先生、大丈夫だからなっ!」
    「無理をしないでください。わたしがそのあたりを見回ってきます。あなたはそこから動かないように」
     わたしは散弾銃を構えて、一軒の家の中に入ってみた。
     誰もいない廃屋だったが、ブービートラップ、という単語が頭の中を駆け巡った。置いてあるものには一切手を触れないようにして、こわごわ目を走らせると、へっぴり腰で後ずさりした。
     坂元開次はうずくまったままで笑った。
    「あまりみっともいい格好じゃないぜ、先生」
    「戦場なんて来たことないんだから当然でしょう。それとも、坂元さんはもっと毅然としていられると?」
     いってしまってからしまったと思っても、遅かった。
    「いってくれるじゃねえか……肩を貸してくれ、先生」
    「どうするんですか」
    「おれが中をのぞく。先生は援護を」
    「散弾銃でどんな援護ができますか。あなたはじっとしていてください」
    「いいや、見させてくれ。好奇心で死にそうなんだ」
    「猫をも殺す、ですか……いや、そんなわけには」
     といっていたとき、密林の外から鬨の声が聞こえてきた。
    「なんだ!」
    「先生、ベトコンだ!」
     それまで静まり返っていた村のあちこちから、スラングだらけの英語が聞こえてきた。
     急にどこからか現れ、村中を埋め尽くした幽鬼のような影の群れは。
    「アメリカ海兵隊だ!」
     たちまちのうちに辺りは怒号と喧騒、小銃弾と手榴弾の音に満たされた。
    「肩にしがみついていてください。家に逃げ込みます!」
     そういったときに、ひとりのアメリカ兵がわたしと坂元開次のところへよろよろよろっ、と倒れ込んできた。動脈をやられたのか、血が噴水のようにほとばしり、わたしたちの身体やカメラを真っ赤に染め上げた。手遅れかもしれないが、こいつも連れて行こう、と、肩で支えようとしたが、そのアメリカ兵はわたしの手が触れる前にすうっと煙のように消えてしまった。
     わたしは舌打ちをし、近くの安全そうな場所を探した。
     一軒の、ここはまだ手付かずの小屋の前に、坂元開次を連れてきた。
     ひょいと中をのぞいた坂元開次の身体が、硬直するのがわかった。
    「どうしました!」
     わたしは散弾銃を構えて、その後ろから中をのぞいた。
     電撃のように、すべてがわかった。
    「坂元!」さん、などつけている余裕はなかった。「カメラだ! カメラでその写真を撮るんだ! すぐに!」
     坂元開次の手の中で、フラッシュが光った。
     次の瞬間、わたしたちは夢から弾き飛ばされた。気がついたときには、わたしは坂元家で、目を覚ました坂元開次とにらめっこしていた。
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    それが本章のキモですので、続きをお読みください。

    しかしまだまだ毎日は平穏なのだった(^^)

    おおお!?

    「夢の中」で坂元さんが撮ったモノとは!?

    桐野さん「ファイッオー!ファイッ!」
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