「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・90
……いえない。
……絶対にいえない。
……絶対に絶対に、なにがあってもいえない。
範子は苦痛に耐えながらそう思った。
自分が今、この場で感じている苦痛は、決して文子にいってはいけないのだと。
もしもしゃべってしまったら……。範子は心の中で首を振った。
いけない。しゃべってはいけない。
耐えるのみだ。
いつもの紅恵高校の教室。
「どうしたの、範ちゃん?」
……急に聞かれて、範子ははっと我に返った。
「い、いや、なんでもないよ、文子。ちょっと、考え事をしていただけ」
「それならいいんだけど」
文子はそういった。
ごまかせたことに、範子はほっとしたが、ふっと頭をよぎったことがあった。
そういえば。
そういえば、文子は、どこかわたしに対して興味を持っていないような調子で話していた。心ここにあらずというか。
文子は、わたしになにか隠し事をしている?
範子はいつもだったら好奇心に駆られるところだが、今はそれを押さえつけた。
今は目の前の苦痛をなんとかする番だ。
範子は自分の顔を仮面のようにした。
……隠してる。範ちゃん、絶対になにか隠してる。
文子はそう悟っていた。
わかるのだ。
なぜなら、文子も隠し事をしていたからだった。
苦痛。どうしようもないほどの苦痛。
自分が悪かったのだろうか……いっそ、範ちゃんに打ち明けてしまおうか。
だめだ……こんなことをしゃべったら、範ちゃんに軽蔑されてしまう。
黙っているしかない。
今は、目の前の宿題に専念するのみだ。文子は幾何の厄介な問題に集中しようとした。どこかに補助線が一本引ければ解けると思うのだが……。
……集中できない。
文子は勝手に動きそうになる手を押し止めながら、この責め苦がいつまで続くのかを思った……。
「範ちゃん、この図形だけど」
範子は心ここにあらずのようだった。
「……範ちゃん?」
「あ、ああ、ごめん、文子。図形がどうしたの?」
「この角の等しさが証明できないんだけど、わかる、範ちゃん?」
「ええと、これ? 参考書に載ってない?」
「ちょっと、読んだけど、テクニックをどう使えばいいかがわからなくて」
「参考書見せて、文子……ええと……なんだ、ここに載ってるじゃない」
「あっ、そんなページあったんだ。うっかりわたし、二ページ一緒にめくっちゃったんだね、きっと」
「しっかりしてよ、文子」
範子は文子から目をそむけた。
それを見て、文子は決心した。
「範ちゃん……わたしに、なにか隠してるよね。それも、とても切実なこと」
「えっ……」
「間違ってたら謝るよ。わたしも、たぶん範ちゃんに比べればつまらないことだけど、隠し事をしているからわかるんだ。でも、もう、限界だよ。範ちゃん、わたしに吐き出してよ。わたしもしゃべるからさ」
範子も意を決したようだった。
「ごめん文子、わたし、文子のいうとおりに隠し事をしていた。たぶん、文子が思っていることとは違う、くだらないことだけどね」
「範ちゃん、ありがとう。じゃあ、いっせいのせ、でいおうよ」
「わかったわ」
二人は声を揃えた。
「いっせいの……」
一瞬の沈黙。
期せずして、二人の口から異口同音に言葉が飛び出した。
「水虫がすごくかゆくて……」
二人はまじまじとお互いの顔を見つめあい、やがて弾かれたように笑い出した。
白癬菌が引き起こす皮膚病、水虫は、爪に入りでもしていない限りは、皮膚科や薬局に行って軟膏などの薬を入手し、足全体にすり込むのを、かゆみが引いた後でも気長に毎日、長期に渡って続けていればほぼ確実に完治する。
二人が連れ立って皮膚科に行ったかどうかは不明である。
……絶対にいえない。
……絶対に絶対に、なにがあってもいえない。
範子は苦痛に耐えながらそう思った。
自分が今、この場で感じている苦痛は、決して文子にいってはいけないのだと。
もしもしゃべってしまったら……。範子は心の中で首を振った。
いけない。しゃべってはいけない。
耐えるのみだ。
いつもの紅恵高校の教室。
「どうしたの、範ちゃん?」
……急に聞かれて、範子ははっと我に返った。
「い、いや、なんでもないよ、文子。ちょっと、考え事をしていただけ」
「それならいいんだけど」
文子はそういった。
ごまかせたことに、範子はほっとしたが、ふっと頭をよぎったことがあった。
そういえば。
そういえば、文子は、どこかわたしに対して興味を持っていないような調子で話していた。心ここにあらずというか。
文子は、わたしになにか隠し事をしている?
範子はいつもだったら好奇心に駆られるところだが、今はそれを押さえつけた。
今は目の前の苦痛をなんとかする番だ。
範子は自分の顔を仮面のようにした。
……隠してる。範ちゃん、絶対になにか隠してる。
文子はそう悟っていた。
わかるのだ。
なぜなら、文子も隠し事をしていたからだった。
苦痛。どうしようもないほどの苦痛。
自分が悪かったのだろうか……いっそ、範ちゃんに打ち明けてしまおうか。
だめだ……こんなことをしゃべったら、範ちゃんに軽蔑されてしまう。
黙っているしかない。
今は、目の前の宿題に専念するのみだ。文子は幾何の厄介な問題に集中しようとした。どこかに補助線が一本引ければ解けると思うのだが……。
……集中できない。
文子は勝手に動きそうになる手を押し止めながら、この責め苦がいつまで続くのかを思った……。
「範ちゃん、この図形だけど」
範子は心ここにあらずのようだった。
「……範ちゃん?」
「あ、ああ、ごめん、文子。図形がどうしたの?」
「この角の等しさが証明できないんだけど、わかる、範ちゃん?」
「ええと、これ? 参考書に載ってない?」
「ちょっと、読んだけど、テクニックをどう使えばいいかがわからなくて」
「参考書見せて、文子……ええと……なんだ、ここに載ってるじゃない」
「あっ、そんなページあったんだ。うっかりわたし、二ページ一緒にめくっちゃったんだね、きっと」
「しっかりしてよ、文子」
範子は文子から目をそむけた。
それを見て、文子は決心した。
「範ちゃん……わたしに、なにか隠してるよね。それも、とても切実なこと」
「えっ……」
「間違ってたら謝るよ。わたしも、たぶん範ちゃんに比べればつまらないことだけど、隠し事をしているからわかるんだ。でも、もう、限界だよ。範ちゃん、わたしに吐き出してよ。わたしもしゃべるからさ」
範子も意を決したようだった。
「ごめん文子、わたし、文子のいうとおりに隠し事をしていた。たぶん、文子が思っていることとは違う、くだらないことだけどね」
「範ちゃん、ありがとう。じゃあ、いっせいのせ、でいおうよ」
「わかったわ」
二人は声を揃えた。
「いっせいの……」
一瞬の沈黙。
期せずして、二人の口から異口同音に言葉が飛び出した。
「水虫がすごくかゆくて……」
二人はまじまじとお互いの顔を見つめあい、やがて弾かれたように笑い出した。
白癬菌が引き起こす皮膚病、水虫は、爪に入りでもしていない限りは、皮膚科や薬局に行って軟膏などの薬を入手し、足全体にすり込むのを、かゆみが引いた後でも気長に毎日、長期に渡って続けていればほぼ確実に完治する。
二人が連れ立って皮膚科に行ったかどうかは不明である。
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水虫は何気で大変な病気ですよね。なかなか治らないですからね。私はなったことないですけど…まあ皮膚病は持っているので気持はわかりますね。どうも、LandMでした。
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Re: LandMさん
まあ命にかかわらないのが幸いでしょうか。