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    「エドさんとふしぎな毎日(童話)」
    探偵エドさん(童話掌編シリーズ・完結)

    エドさん探偵物語:5 恋する針金細工

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    恋する針金細工



     探偵のエドさんは、事務所で一息ついていました。美術館から頼まれた調査が無事終了したのです。高価な絵を売りつけに来た男は、にらんだ通り、悪名高い詐欺師でした。

    「現代芸術は、さっぱりわからん」

     呟いたとき、大きな音を立てて扉が開きました。入ってきた相手を見て、エドさんは肝を潰しました。美術館の目玉展示物として、調査中に幾度となく見た、『人体』というタイトルの現代彫刻だったのです。針金と鉄板で作られたそれは、エドさんにはかろうじて人の体だとわかるようなものでしたが。

    「探偵さん、あの娘を見つけてください!」

     『人体』は、言葉を挟む余裕すら与えず喋り続けました。美術館に毎日来ては模写をしていた、若い女性がいたこと。そのスケッチブックの緑色の表紙に描かれた、少女のスケッチに一目惚れしてしまったこと。しかし五日前から女性が来なくなってしまったこと。そのスケッチにどうしても逢いたくてたまらないのだが、三日後には作者のアトリエに帰らなければならないこと……。

    「そのスケッチって、どんなものなんです」

     エドさんは、くらくらしながらも、相手に鉛筆とメモ用紙を渡して聞きました。『人体』は、腕のようなものを器用に動かして描きました。描き上がったものを見て、エドさんは思わず頭を抱えました。それは、変な線と妙なモザイクがいくつも絡み合ったもので、少女とはまるで見えなかったからです。断りかけたエドさんに、『人体』はいいました。

    「ああ、彼女に逢えない運命なら、ぼくはむしろスクラップ工場のプレス機にでも……」

     飛び込まれたら世界全体の損失です。これは引き受けざるを得ません。

     次の日、エドさんは、美術館横の公園をぶらついていました。『人体』は、美術館の建物の入り口近く、誰もが最初に目に入る所に展示してあるので、そこでその女性を見なかったということは、女性は美術館を訪れていなかったということになります。では、他に芸術作品をスケッチできる、無料の場所は? この公園です。緑の中に据えられたいくつものモニュメントは、スケッチに最適でしょう。この推理が間違っていたとしても、どこかから手をつけなければなりませんし。

     運命はエドさんに微笑みました。朝から三時間うろうろしたところで、緑色のスケッチブックを持った、栗色の髪の若い女性に出くわしたのです。表紙のスケッチは、手にしたメモ用紙に描かれているものと同じでした。

    「この表紙のスケッチは、少女ですか?」

     女性はびっくりしたようにいいました。

    「よくわかりましたね」

     それを聞くや、エドさんは拝み倒してスケッチブックを借りました。女性は、興味津々な顔をして、一緒についてきました。

     美術館に入って、『人体』のそばまで来ると、エドさんは、連れてきましたよ、と、絵をかかげました。

     そのときです。館内に、歌声が響きました。周囲の人がいっせいに、きょろきょろとあちらこちらに目をやりました。

     エドさんたちは、凍りついたようになっていました。歌っていたのは、目の前の『人体』と、スケッチだったのです。オペラの一幕のように、『人体』が歌い、スケッチが答え、それは美しい二重唱が続きました。

     歌声はやがてクライマックスを迎え、高まって終わりました。しばらく、美術館はしんとしていましたが、どこからともなく、拍手が起こりました。やがてそれは割れんばかりに膨れ上がりました。
    人の壁を割るようにして、一人の、いかめしい顔をした老人が歩いてきました。

    「ハラハン先生!」

     隣で、女性が緊張したのがわかりました。エドさんはようやく思い出しました。『人体』の作者の、高名な芸術家です。

    「この、愛の歌を歌ったのは君たちか」

     エドさんは、目を伏せて、彫刻とスケッチだ、と答えました。ハラハン先生は、にこりともせずにスケッチを見ていいました。

    「誰が描いた」

     女性の顔が真っ青になりました。

    「あたしです」

    「素晴らしい」

    「え?」

    「素晴らしい絵だ。この『人体』はどこか欠けている点がある、失敗作だと思っていたが、それはこの絵がなかったせいだったのだ。君が描いたのか。いくらでも出す。ぜひゆずってくれ。この絵をそばに置くことにより、わしの芸術は完璧なものになるのだから!」

     後はいうまでもありません。エドさんは、今もしばしばその女性と逢っています。自分は現代芸術がわからないと、何度いってもわかってくれないのが、悩みの種ですが。

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    ~ Comment ~

    Re: 神田夏美さん

    このころはまだこんな夢のある(以下略(笑))

    この作品は、初稿ではエドさんと女性芸術家とのやり取りがメインになっていて、

    「ここで依頼をほっといて女性と仲良くなっちゃダメでしょ」

    と尊敬する先生からダメ出しを食らったのが今でも頭に残っています。

    精進せねば、と思いました(^^;)

    NoTitle

    彫刻とスケッチが愛の歌を歌うなんて、そのシーンを想像しただけでファンタジーというかメルヘンというか、なんだか乙女心がくすぐられます。そろそろ乙女と名乗るには厳しい年齢ですが←

    エドさんシリーズは、どれも読むと心がほっこりしますね~。こんな素敵な物語を書いてくださってありがとうございます^^

    Re: ヒロハルさん

    えっ! おめでとうをいってから、二年くらい経っていたような気がしたのに……ネットの時間って、わからないもんですね。

    いえ、今日で四ヶ月です。笑。

    Re: ヒロハルさん

    ヒロハルさんのお子さんって、まだ2歳くらいじゃありませんでしたっけ(^_^)

    他の人と勘違いして覚えていたらすみません。

    「言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信だ」というキン肉マン的な感じですかね。現代芸術は。

    エドさんのお客さんは、本当いろんな方がいるんですね。
    毎回、一話ずつ、子供に読み聞かせています(嘘です。笑)。

    Re: YUKAさん

    現代芸術は、

    「いかにそれを見てびっくりするか」

    がキモだと思っています。

    やはり芸術は爆発であります(^^)


    ちなみにこの女性とエドさんですが……。

    続きを読んでくださればそのうち……(意味深)。

    こんばんは^^

    現代美術は難解なものが多いですからね~~
    わからないと考えるのは、エドさんだけではないでしょうね^^

    私は学生時代、美術館巡りに嵌まっていたことがあります^^
    一番行った時で、1年に個展も含めると100以上~
    その頃付き合っていた人に
    また見るの?と呆れられたのは言うまでもありません^^;
    それでも、現代美術は難解です~^^;;;
    あれは、見る方にも才能がいりますね(笑)

    時々誘われて食事するこの女性とエドさん。
    恋には発展しないんでしょうね。

    Re: fateさん

    世の中には、わかりやすくて「すごい」ものと、

    「よくわからんけどすごい。なんだこれは!」

    というものがあると思っております。

    わかりやすくて「すごい」ものを人に伝えるのはある意味楽ですが、

    「よくわからんけどすごい! よくわからないがとにかくインパクトのあるものだ!」

    というものに対しては、岡本太郎先生のように、「芸術は爆発だ!」とでもいうしかない、のであります。

    問題は、爆発してくれるような芸術作品には、なかなか巡り会えないことですが。

    ボスの「快楽の園」とか、モンドリアンの「ブロードウェイ・ブギ・ウギ」とか、エゴン・シーレのスケッチとかを始めて見た時のような爆発ぶりにはなかなか……。あっ最近では赤江瀑先生の小説にも爆発を感じました(^^)

    芸術面では音楽を最高次の存在とした哲学者にはショーペンハウアーがおりますな。あの人の哲学、けっこう好きです(^^) けっこう影響も受けてます(^^)

    現代美術…

    美術は、分かり易いものしか分かりません。
    というより、fateは理解できるものしか受け付けません。芸術も然り、生命も然り。
    だから、ピカソの絵は、じっと見ているとくらくらしてきます。一見して、ああ、美しい女性だ! これはヒマワリだ! と分かるものでないと脳がパニックを起こします(--;
    だけど、このオペラは聴いてみたかった気がします。
    歌は、歌詞が分からなくても旋律に酔います。
    音楽は一番伝わり易い芸術であろうか。
    そして、足りなかったものに出会えた瞬間の奇跡ってこんな風にマジでファンファーレとか鳴り響きそうで、一度は立ち会ってみたいもんだなぁ、としみじみした次第です。

    ちなみに、fateもおかしいな~と思ったんです。
    何の話し?
    一個前の感想です(^^;
    深海に氷、あったか??? と考えつつ、うろ覚えちゃんをなんとか伝えたくて、思い込みを貫いてしまった!
    そうです、南極の氷!
    ちょっと憧れますね~

    Re: 有村司さん

    ご懸念の件についてはこれから40話以上にわたってたっぷりと(笑)。

    お楽しみに~♪

    というか、わたし、「エドさんのプロフィール」に書いたよなたしか……(^^;)

    こんにちは!

    直球ばかりでは勝負は面白くありません。何十篇というシリーズの中に、こういうシンカー球のような作品があっても良いと思います。

    ワタシは好きです。

    で、女性画家さんエドさんとお付き合いを始めたのですか??気になる…。

    Re: ぴゆうさん

    うーん一味足りませんか。

    うーん……。

    考えます。

    NoTitle

    何か微妙な・・・
    足りないような。

    ある意味不思議な作品。
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