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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 2-8

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    第二章 カメラは血を浴びて(承前)


    「このカメラですか? ええ、確かにうちの店で取り扱ったものですよ」
     山木雄平はライカを見るなりいった。まだ口が完全に動かないのか、声はやや聞き取りづらかった。眠っていた間のことはなにも覚えていないらしい。二ヶ月も重湯と栄養点滴で生きてきたというのに、目が覚めて二週間もすると店に立っていた。
    「どなたが持ち込んだかわかりますか?」
     少々お待ちください、といって山木雄平は店の奥へと向かった。しばらくしてから、おかしいなあ、といいつつ頭をかきながら戻ってくると、わたしと坂元開次の前で、すみません、といった。
    「書類がどうしても見つからないんです。こういうことはないんですけどねえ」
    「名前だけでも覚えてねえ……覚えてないですか」
     坂元開次はそう聞いたが、山木雄平の答えは煮え切らないものだった。
    「書類があればわかるんですけどねえ。ええと、確か……なんとかユニオン、だったかな」
    「ユニオン?」
    「なんとかユニオン、じゃなくて、ユニオンなんとか、だったかもしれません。すごく綺麗な人が持ち込まれたことは覚えているのですが」
    「なんとかユニオンの、綺麗な人ですか」
     あまり手がかりになりそうもなかった。
     預かっていた首飾りを返すと、わたしたちは山木質店を出た。
    「真由子のことは世話になった」
    「聞いてます。福嶋清親から、嫌味たっぷりの電話がかかって来ましたので」
    『……やあ桐野、あの患者だが、ひとりでに目を覚ましたよ。お前の助けなんかなくてもな。この詐欺師野郎』
     わたしが口真似をしていうと、坂元開次は苦笑いした。
    「ナイトメア・ハンターというのも、報われない仕事なんだな」
    「慣れてます。それよりも、あのカメラから人の魂を解放したのは、あなたの功績でしょう。横取りする必要はありません」
    「そのことだが、どっか静かに話せるところはないか。喉もなんか渇いてるんだが」
     わたしは坂元を「虎奇亜」に連れていった。安さが売り物の、なじみのバーである。
     ゴーグルのようなミラー・サングラスで顔の半分を覆った女性バーテンダーは、グラスを丁寧に磨いている最中だった。
    「いらっしゃいませ」
    「二人だが、いいかい」
    「ちょうどヒマだったところです。なにをお作りしましょうか?」
     わたしはウォッカ・マティニを、坂元開次は普通のドライ・マティニを注文した。
    「あんたが本当はペテン師で、おれが見た夢を利用してかついでいるのかもしれない、という考えが浮かばなかったわけじゃない。だが、おれが夢の中で先生に命を助けられたのは事実だ。そして、真由子や他の人たちも。だからおれは、あんたを信じるぜ。それに、証拠もあるんだ」
    「証拠?」
    「写真が撮れたよ」
    「なんの写真です?」
     わたしは首をかしげた。
    「一枚、撮ったはずもねえのに混じっていたんだ。いや、撮った覚えはあるのか。ややこしい話だが、まあ先生、これを見てくれ」
     坂元開次は一枚の写真を鞄から取り出した。
     見た。
     そこにあったのは、夢の世界でわたしたちが見、坂元開次が写した光景だった。
     死体置場にするつもりだったのか、運ばれて無造作に重ねた死体の中央で、未だ幼い裸の少女の上にまたがる、ズボンを下ろしたジャック・ハミルトン大尉。少女の瞳は憎しみと絶望に光り、その手には小型の拳銃が握られていた。
     坂元開次は、拳銃が発射され、ハミルトンの頭がのけぞった瞬間を見事に捉えていた。
    「どうするんですか、これを」
    「撮影者不明、として発表しようと考えてる」
    「坂元開次じゃいけないんですか」
    「ベトナム戦争のころは、おれはまだはいはいしていたからな。ジャック・ハミルトンの死に際が撮影できるわけがねえ。かといって、マイクル・ゴドフリーとして発表しようにも、あいつはとっくの昔に死んでいる。このまま闇に葬ってしまおうかとも考えたが、マイクル・ゴドフリーが、カメラに執念を込めてまで遺しておきたかった映像だ」
     目の前に置かれたドライ・マティニのグラスを取り上げ、坂元開次はぐいっと飲んだ。
    「おそらくは、マイクル・ゴドフリーの執念と、ベトナムで死んだ人間の業が結晶して、こんな、魂を捕えるカメラが生まれてしまったんでしょうね」
    「だろうな。そんな人間の執念や怨念を考え合わせると、結局、撮影者不明が、一番いいんだよ。トリック作品だといわれるだろうがな」
    「世の中ままなりませんね。ところで、そのライカ、どうするつもりです?」
    「どこか物好きな博物館か写真館を探して、展示してもらうことになるだろうな。おれが持っていてもいいんだが、持っていると使いそうになったときに困る。誘惑に負けないためには、遠ざけておくのが一番だ。使う人間がどうなったかは、これまでこのカメラが歴史の闇に埋もれていたことからでも明らかだしな」
    「麻薬中毒患者じゃないんですから。それに、そのカメラで写すことに、そんな快感中枢を刺激する要素はないでしょう。もう人の精神を閉じ込めるようなことはないとは思いますが、またあの戦争まっただなかのベトナムへ行くなんて、わたしは絶対願い下げですからね」
    「おれもだよ。しかし、気になっていたんだが、ですます調で話すのはよせよ。おれのことは坂元、でいいから、あんたも桐野と呼ばせてくれ」
    「かまいませんよ」
    「よし、それじゃ、桐野、なにをウォッカ・マティニなんか飲んでるんだよ。男だったらジンを飲め、ジンを!」
     どうも友人がひとり増えたらしい。わたしは、その事実をいささかの驚きと、大いなる喜びを持って受け止めた。
     これでこの店の勘定を払ってくれればいうことはないのだが……。
     まあいい。今は、それよりも前に、しなくてはならないことがある。
     わたしは大声で叫んだ。
    「ジンなんて薬くさい代物が飲めるか! ウォッカのほうが百万倍くらい偉いんだ!」
     わたしの大好物であるストリッチナヤの名誉のためにも坂本開次を論破するのだ。
     分け入っても分け入っても安い酒。

    第二章 了
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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    福嶋医師は、長いこと埋めてありますが、実はキーになる人間だったりします。

    まあ書くとしても三年生後だけど……(^_^;)

    NoTitle

    二章も、面白く拝見しました。

    事務所が思うように軌道に乗らないところがいいですね。
    いつか福嶋先生をぎゃふんと言わせるところが見たいです。

    坂元さん、いい感じの人ですね。
    いろいろ失くしてしまった桐野さんが、新しい生活でまた大切なものを増やしていけるといいと思います。

    またお邪魔します(^o^)

    Re: blackoutさん

    この小説、終章入れて七章あるので、どうかごゆるりと。

    だって、本当の敵、まだ出てきてないもんな(^_^)

    2章読み終わりました

    次はすっ飛ばさないように気をつけますw

    Re: 有村司さん

    ありがとうございます。

    しかしこの事件は、意外な形でこれから先にかかわってくるのでありました。

    それについては、今後を……(^^)

    面白かったです!

    これは、まだ二章までしか読んでいませんが、すっごく秀逸な一篇ではないでしょうか?

    最後、坂元さんと桐野先生の間に男の友情が芽生えたとこなんてクラクラします。

    結びの一句も効いています^^

    Re: lime さん

    ありがとうございます。

    ある意味古本屋の3冊100円棚に並んでいる早川書房や創元推理文庫の昔の翻訳ミステリとか翻訳SFとかで会話のやりとりを覚えたといってもいいようなものなので、注意していないとすぐに会話が大時代的になってしまうのでたいへんです(笑)。
    ライトノベルとか読んでバランスをとらないといかん(爆)。

    読むのが早くなる方法……そりゃー作者が面白い話を書いてですな、次がどうしても読みたいという気分にさせてですな……。
    わたしもそういう話が書きたいです。あはは(^^;)

    NoTitle

    カメラの夢の中。
    思いがけない展開ですが、全体的にほどよいリアルさのために
    とても現実味を帯びていて引き込まれました。
    全体的なストーリー展開もおもしろいですが、登場人物の会話文も楽しいですね。(桐野さんに、いい友達ができてよかったです。)
    私、とても会話文を重視するんです。
    何気ないやりといでもセンスがあると、ずっとその会話を聞いていたいと思うほど。

    最後の、ほっこりした終わり方もいいですね。
    2話(2章?)も楽しかったです。

    一日1話読んでいるので、なかなか現在に追いつけませんね(^o^;
    感想も遅くってごめんなさい。
    読むのが早くなる方法ってないでしょうか。

    Re: LandMさん

    ありがとうございます♪

    実はもとネタがウルトラセブンの「魔の山へ飛べ」だなんてことは口が裂けても(以下略(笑))

    第2部楽しみにしてます♪ その前にシェクスピアちゃんの話を読破しなくちゃなあ。

    これからもよろしくお願いします~♪

    NoTitle

    カメラのネタは非常によかったですね。
    どうもLandMです。面白かったですよね。
    カメラというのも何かと物憑きにされやすい物の一つですよね。何ででしょうかね。カメラは魂を吸い取るなど色々な逸話があるぐらいですからね。そういうネタから夢に結びつく秀逸な作品だったと思います。
    また次の章も読ませていただきますね~~。
    余談ですが、ウチのサイトは次の更新で2部スタートです。
    よろしくお願いします。

    >れもんさん

    このアイデアと結末は自分でも気に入ってます(^^)

    坂元くんは桐野くんの親友になり、これからもちょくちょく出てきますよ。とはいっても、レバノンとかチェチェンとかにすぐ行ってしまうので出すのに苦労しますが(笑)。

    それではリンクよろしくお願いします~♪

    まさか夢の中で写真を撮るなんて思ってもなかったですv
    しかも、その写真が現実に・・。
    最後の桐野と開次の間に友情が生まれるのがよかったです!
    いい最後でしたー☆

    あ、リンクですが、相互リンクしましょうっ!!
    大歓迎です★
    早速、貼らせていただきますねっ!

    >佐槻勇斗さん

    一気読みありがとうございます。書いていて冥利につきます。

    この話を書いていた頃にはまだ短編連作で行くつもりでした。明かされる真相は自分でも気に入っています。

    次章はお気に入られるかなあどきどき。

    こんにちは(^ω^)
    一日一話ごと読んでおりました佐槻ですが、どうしても先が気になって一気に読んでしまいましたww

    きっとまたどろっどろで、くっら――い夢の世界に入るんだろうなぁ♪と予想していたら、まさか別の意味で怖い世界に入ってしまいましたね、桐野先生。それも人の夢ではなくカメラの中(?)に入ってしまうなんて……佐槻にはとてもそんな発想浮かびません。
    開次さんが写した写真の内容を知ったとき「……ああ」とおもわず納得。戦争が出てくる話にはつきものですね。辛いですけど……、、

    三章のほうも楽しみにしていますね★
    また来ます(^o^)/

    >神田夏美さん

    ここまではがんばったのですが、第三章からグダグダに……いえなんでもありません(^^;)
    坂本開次くんは重要人物です。「渋い脇役」を書こうとしたらこうなっちゃった(^^;)
    この第二章を書きかけたころにもとにしていたTRPGの新ルール「ナイトメアハンター・ディープ」が出てきて、三章以降のこの小説はそれに関する辻褄合わせに追われることになってしまいました。裏を返せば、ルールが出なければこの第二章も単発の短編になっていたでしょう。
    世の中一歩先になにがあるかわかったもんじゃない(爆)。

    第二章も緊迫の展開でしたね。カメラからベトナムへ行くとは、予想外でした。緊迫した状況の描写もお見事でしたし、桐野の冷静さも、さすが医者、といった感じでした。私だったら、パニックですぐやられてしまいそうです(笑)
    ラストは桐野と開次に芽生えた友情で、後味よく読み終えることができました。三章もまた読ませて頂きますね^^
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