「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)
範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・96
うかつだった。
範子は臍をかむ思いだった。
ザコばかりだと思っていた宿題に、まさかこんな強敵が残っていたとは。
「文子、ちょっとこっち向いて。そうそう」
二人は、互いにスケッチブックをひざに乗せ、相手の顔をデッサンしていた。
「範ちゃん、思うんだけどさ、互いに描きあっていたら、いつまでたっても終わらないよ。だってモデルが動くんだもん」
「それもそうよね」
範子はスケッチブックをたたみ、眉根を寄せた。
「美術の宿題の人物画なんて……うちの学校はレオナルド・ダ・ビンチでも作りたいのかしら」
「あんな人が作れたら日本中の学校が右へならえするよ」
文子は時計を見た。
「今が九時半だから……お昼までにはちょうど三時間あるね。で、お弁当を食べた後で、四時まで居残ってそれで三時間」
「計算は合うわね。一人持ち時間三時間で、どっちがうまい絵を描けるか競争しましょうか」
「そのほうが面白いよね、範ちゃん。だったら駒子ちゃんとか、古々根さんとかも呼んでこようか?」
「呼んでもこないわよ。みんな問題集でそれどころじゃないみたい」
「どこも同じだね」
「そういうこと。わたしたちはわたしたちの宿題をするまでよ」
「で、どっちが先に描く? じゃんけんしようよ」
「いいわよ。じゃんけん……」
「ちょき!」
「グー。わたしが勝ったから、わたしが先に描くってことで」
「じゃ、わたしがモデルだね。こんな感じ、でどうかな」
文子は椅子にちょこんと腰掛けた。
「うーん」
足りない。なにかが足りない。範子に降りた美の女神は、そうささやいていた。
「文子、ちょっと、生命力、みたいなのが足りないわ」
「生命力? そんなことをいわれても、どうすればいいのかわからないよ」
「もっとこう、肉体の迫力が出るポーズで」
「こんなふう?」
文子はロダンの「考える人」のポーズをとった。
「いや、そんなのじゃなくて、もっとこう……」
手を振り回しながら、胸の奥の、形にならないもやもやした思いを表現しようとしていた範子は、ふいに、自分がなにを求めているのかに気づいた。
「あっ……」
範子の時ならぬ叫びに、文子はびっくりしたらしかった。
「ど、どうしたの、範ちゃん! おなかでも痛いの?」
「そ、そうじゃないわ。文子……」
範子は赤面していた。自分が文子に絵のモデルとして、してほしいこと。
いけない。こんなことをいってしまったら、自分は完全に文子に嫌われてしまう。
それは胸の奥底に秘めて、決して漏らしてはいけないことだ。
範子は血涙でも流すかの思いだった。
「文子?」
「なあに、範ちゃん」
「そのままそこで適当に座っていて」
「わかった」
範子は文子のデッサンを始めた。
「文子……エスパ……」
「え?」
「いえ、藤子F不二雄先生のマンガって面白いわね」
「うん、面白いね」
無邪気に笑う文子に一歩を踏み込むことが……できそうになかった。
三時間後、範子はまあまあのできのデッサンを仕上げた。
持ってきた弁当を食べた後、今度は文子が描く番となった。
「もう九月なのに相変わらず暑いね……」
文子は襟元の汗をぬぐった。
「下にTシャツ着てるし脱いじゃおうかな?」
その言葉を聞き、範子は暴れたそうである。
範子は臍をかむ思いだった。
ザコばかりだと思っていた宿題に、まさかこんな強敵が残っていたとは。
「文子、ちょっとこっち向いて。そうそう」
二人は、互いにスケッチブックをひざに乗せ、相手の顔をデッサンしていた。
「範ちゃん、思うんだけどさ、互いに描きあっていたら、いつまでたっても終わらないよ。だってモデルが動くんだもん」
「それもそうよね」
範子はスケッチブックをたたみ、眉根を寄せた。
「美術の宿題の人物画なんて……うちの学校はレオナルド・ダ・ビンチでも作りたいのかしら」
「あんな人が作れたら日本中の学校が右へならえするよ」
文子は時計を見た。
「今が九時半だから……お昼までにはちょうど三時間あるね。で、お弁当を食べた後で、四時まで居残ってそれで三時間」
「計算は合うわね。一人持ち時間三時間で、どっちがうまい絵を描けるか競争しましょうか」
「そのほうが面白いよね、範ちゃん。だったら駒子ちゃんとか、古々根さんとかも呼んでこようか?」
「呼んでもこないわよ。みんな問題集でそれどころじゃないみたい」
「どこも同じだね」
「そういうこと。わたしたちはわたしたちの宿題をするまでよ」
「で、どっちが先に描く? じゃんけんしようよ」
「いいわよ。じゃんけん……」
「ちょき!」
「グー。わたしが勝ったから、わたしが先に描くってことで」
「じゃ、わたしがモデルだね。こんな感じ、でどうかな」
文子は椅子にちょこんと腰掛けた。
「うーん」
足りない。なにかが足りない。範子に降りた美の女神は、そうささやいていた。
「文子、ちょっと、生命力、みたいなのが足りないわ」
「生命力? そんなことをいわれても、どうすればいいのかわからないよ」
「もっとこう、肉体の迫力が出るポーズで」
「こんなふう?」
文子はロダンの「考える人」のポーズをとった。
「いや、そんなのじゃなくて、もっとこう……」
手を振り回しながら、胸の奥の、形にならないもやもやした思いを表現しようとしていた範子は、ふいに、自分がなにを求めているのかに気づいた。
「あっ……」
範子の時ならぬ叫びに、文子はびっくりしたらしかった。
「ど、どうしたの、範ちゃん! おなかでも痛いの?」
「そ、そうじゃないわ。文子……」
範子は赤面していた。自分が文子に絵のモデルとして、してほしいこと。
いけない。こんなことをいってしまったら、自分は完全に文子に嫌われてしまう。
それは胸の奥底に秘めて、決して漏らしてはいけないことだ。
範子は血涙でも流すかの思いだった。
「文子?」
「なあに、範ちゃん」
「そのままそこで適当に座っていて」
「わかった」
範子は文子のデッサンを始めた。
「文子……エスパ……」
「え?」
「いえ、藤子F不二雄先生のマンガって面白いわね」
「うん、面白いね」
無邪気に笑う文子に一歩を踏み込むことが……できそうになかった。
三時間後、範子はまあまあのできのデッサンを仕上げた。
持ってきた弁当を食べた後、今度は文子が描く番となった。
「もう九月なのに相変わらず暑いね……」
文子は襟元の汗をぬぐった。
「下にTシャツ着てるし脱いじゃおうかな?」
その言葉を聞き、範子は暴れたそうである。
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