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    「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
    範子と文子の三十分一本勝負(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)

    範子と文子の三十分一本勝負:FIGHT・100

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     日常。
     宇奈月範子は学校へやってくる。
     いつもと同じ2‐Aの教室。
     夏休みのせいで、人はいない。
     わかっているのに来る。
     なぜだろう。自分を待っている人などいないのに。たったひとりで、なにをするのか。
     空白の時間だけが流れる。時計の針が時を刻んでいく。
     範子は鞄から本を取り出す。
     なんということもなく、父の書棚から一冊持ってきたものだ。哲学の本らしい。
     ぱらぱらとめくる。
     父の手による傍線がいたるところにある。
    「無を考えることはできない。考えたその時点で、無は存在へと転化する。考えることができるということは、それは無ではなく、無の影のようなものにすぎない」
     なにをいいたいのだかさっぱりわからない文章だ。
     さらにページを繰る。
    「語ることも考えることもできない無に直面したとき、われわれは不安に襲われる。この根源的な不安の前に、われわれは泣くこともできずにただその場に立ちすくむだけである」
     まったく理解不能だ。文章のどこがわからないのかもよくわからない。
     これ以上読んでいてもしかたがないだろう。範子は本を閉じ、鞄に納めた。
     足りないものはないはずなのに。
     範子はぼんやりと考える。
     わたしはなにをしにここに来たのだろう。
     そうだ、あさってからの授業に備えて予習をするためだった。うちだとつい遊んでしまって勉強に身が入らないから、教室に来てやることにしたんだった。
     範子はノートと教科書を取り出した。
     数学の問題を解いてみる。
     五分もしないうちにいやになった。こんな冷房ひとつない空間で勉強しようなどと考えたのが、間違っていたのだ。
     図書館へ行こうか。一瞬、そうも考えたが、首を振ってやめた。どうせ夏休みの宿題を終わらせようとする子供たちでいっぱいのはずだ。今から行っても、芋を洗うような混雑の中、人いきれで暑苦しい思いをするのが関の山だろう。
     帰ろうか。
     範子が立ち上がったとき、教室の扉が開いた。
    「範ちゃん!」
     その声を聞いただけで、範子の頭の中にすべてが甦ってきた。
     そうだ。二時間程度の間だけ短期的に記憶を消す装置をうちの会社が開発して、そのモニターになったのだった。兄との賭けからだったが、くだらない賭けをしたものだ。
     文子の記憶を賭けるなんて!
     しかし、今、文子がやってくることでここにこうして啓かれた、「ほんとうの、いつもどおりの日常」とは、なんと満ち足りた、なんとすばらしいものだろうか!
     教室に入ってきた文子は、不思議そうな顔をして範子にハンカチを渡した。
    「どうしたの、範ちゃん? 泣いたりして」
     範子は、自分が涙を流していることにはじめて気が付いた。
     文子のハンカチで、頬を拭く。
     範子はハンカチを文子に返しながら、声を震わせてこういった。
    「……さあ、今日はなにして遊ぼうか?」

     了
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    ~ Comment ~

    Re: ミズマ。さん

    最後のセリフは悩みました。

    いろいろ考えた挙げ句あれに落ち着いたわけですが、ちょっと自分でも、もうちょっとなんとかならなかったのかと思うところがあります。

    同時にこれはこれでいいじゃないかとも思っておりますが。

    とにかく100話つきあっていただいてありがとうございました。

    NoTitle

    FIGHT-100ですかぁ。長い旅路を歩ききりましたね。さすがです!

    終りの台詞がとても好きです。
    はどこかできいたような言い回しですけれど、この言葉はとても好きです。
    それを口にする、シチュエーションが好きなのでしょうね。
    「わたしたちの物語は、まだ始まったばかり!」的な終り方が好きです。
    あれ、端的に表現したはずなのに、どうしてこう陳腐な言い回しになってしまうのだろう^^;
    実際、まだまだ彼女たちに出会えるということなので、楽しみに待っておりますね!

    お疲れさまでしたッ<(_ _*)>
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