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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 3-1

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     さらなる現場検証が進み、捜査チームは、納得と疑惑とに包まれた。火元は、息子が発見された部屋に間違いなかった。それで、捜査チームは納得したのだが、不可解な点が残ったのである。それは、火元となった部屋の焼け方だった。

    とある元警察官の手記「K町警察署備忘録」より

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    第三章 電話魔

     秋が来て冬となっても、わが「桐野メンタルヘルス」に来てくれる客はちらほらとでしかなかった。メランコリックな季節なのだから、悪夢を見る人も多いのではないかと踏んだのだが、普通の人はひどい悪夢に悩まされたらまずは精神科へ行って薬をもらうことにしているらしい。わたしだってそうする。悪夢といったら、足利銀行がえらいことになっていた。あそこには預けていなかったが、日本の銀行というものはどうなってしまうんだ。最近は新聞を読むのが怖い。
     そんなわけで、ヒマな医者くずれの男がやることといったら、借りてきた月遅れの医学専門誌を、電話機の横で読むことだけだった。わざとわかりにくく書いているのではないかと疑いたくもなる、神経節におけるドーパミン受容体の化学的変化についてのレポートをぶつぶついいながら読んでいると(これがなんの役に立つかと聞かれれば、今のわたしにはなんの役にも立ちません、と答えざるを得ないのが辛いところだ)、電話が鳴った。
     勇んで取る。
    「はい、こちら『桐野メンタルヘルス』」
    『助けて……』
    「もしもし?」
     電話は切れた。
     発信音のみの残る受話器と十秒ほどにらめっこした。
     悪戯か……?

     翌日。電話が鳴った。
     そのときわたしは昼飯に「赤いきつね」を食べていた。
    「はい。『桐野メンタルヘルス』ですが」
    『助けて……助けて……』
     わたしは箸を取り落として叫んだ。
    「昨日の君か! 君は誰なんだ!」
     声は、か細い声で続けた。
    『カミサトシホ……』
     電話は切れた。
    「もしもし、もしもしっ!」
     わたしは電話をフックに戻し、腕を組んで考え込んだ。
     カミサトシホは、どうしてわたしに助けを求めに来たのだろう。
     床に落ちた箸を流しで洗う必要性に思い至ったのは十分後だった。うどんは完全に伸びきっていた。

    「カミサトシホ?」
     森村探偵事務所で、北村はそういって首をひねった。いつもながらニュース番組のアナウンサーみたいな面をした男だ。これでいて有能な探偵なのだから、人は見かけでは判断できない。悩み事を相談するのにもってこいである。カネさえかからなければ、だが。
     あの電話についての調査は、わたしには荷が重すぎる。そういうわけでプロのアドバイスを求めることにしたのだが、この口ぶりだとどうも、わたしが求めているような回答はなさそうである。それでも、できるだけのことは話そうと思い、会話を続けた。
    「ああ。わたしのところに、電話をかけてきた」
    「どんなことを?」
    「助けて……ってだ」
    「ふむ」
     北村は腕を組んだ。
    「どこらへんに住んでいるかはわかりませんか?」
    「皆目わからない。あれが本当の名前であるかどうかも判然としない」
    「では、まず無理、と考えてください」
    「無理?」
    「控え目にいっても非常な困難を伴います。費用もバカにならないかと」
    「やっぱり」
    「電話番号を通知するサービスを利用してみてはいかがですか?」
    「そういや、そんなサービスもあったな。忘れていた。NTTに相談してみる」
     わたしは腰を上げた。
    「それより、桐野さん?」
    「ん?」
    「お力をお貸しいただきたいのですが」
    「今度はなんだい」
     座りなおす。
    「入っていただきたいのはとある会社社長の夢です」
    「浮気調査か」
    「ご明算です。どうも、浮気をしているようだが尻尾を摑ませない。もう、夢にでも入ってなにか手がかりのひとつでも探さないことにはにっちもさっちも行かなくなってしまって」
    「わかった。わたしにできることならやってみよう」
    「恩に着ます。それで、今日の相談代はチャラで」
    「……北村さん?」
    「いってみただけです」

     わたしは電話を待っていた。
     果たして今日もかかってくるか?
     興味が湧いてきたのだ。やることがないせいでもある。
     電話が鳴った。
     取る。
    「はい、桐野メンタルヘルスです」
     電話番号表示サービスは、なんのかんのと工事費がかかるらしい。携帯だったらすぐにわかるのに、不合理である。そんなわけで、今のわたしに、局番から相手を探るのは難しいようだった。
    『桐野さんていうの……?』
     間違いない。カミサトシホの声だ。
    「そうだ。落ち着いてくれ。君の名前は?」
    『カミサトシホ……』
    「どんな字を書く?」
    『上下の上に、里芋の里。詩人の詩に、稲穂の穂。上里詩穂』
    「詩穂ちゃんか……」
     わたしは復唱した。
    「助けてほしいといったが、今、どんなところにいるんだ?」
    『わからない。暗い……ここは暗い……』
    「暗い?」
    『真っ暗で、どこなんだかわからない。暗くて……狭い……』
    「なにか見えるものはないか。あったら、教えてくれ」
    『見えない。なにも見えない。あるのは、電話機だけ……』
    「だったら、ここにかける前に、すぐに一一〇にかけるんだ。警察だったら、君が陥っている苦境を、わたしなんかよりもっとうまく解決してくれる」
    『やってみた……』
     上里詩穂はそう答えた。
    「やってみた?」
    『警察には、何度もかけてみた。でも、だめだった……どうしても、つながらなかった。他にも、いろいろとかけてみた。それでも、だめ……ようやくつながったのが、ここ』
     わたしは相手に聞き取れないくらいの小さな音で舌打ちをした。
    「それなら、君の知っている限りの電話番号を教えてくれ。家でも、友達でも、学校でも、なんでもいいから」
    『学校も、友達も、電話番号はよく覚えてない……。家の電話番号は……』
     上里詩穂は、ひとつながりの番号を答えた。
    「よし、これでひとつ、わたしにもできることが見つかった。他にもなにかできないものかな。いっしょに考えてみようじゃないか」
     わたしは、なんでもいいから訊ねてみることにした。
    「君は、いくつになる?」
    『え?』
    「年齢だ」
    『十七。高二……』
    「学校は?」
    『塵劫高校。塵も積もればの塵に、永劫の劫』
     聞いたことのない高校だった。
    「生まれは?」
    『大名木村。大名に木、で、おおなぎ』
     T県にある、と上村詩穂はいった。これも聞いたことがない。
    『でも、中学のとき、T市に引っ越した』
     T県の県庁所在地だ。
    「両親の名前は?」
    『上里ダイスケに、上里ノゾミ。ダイスケは大きいに助ける、ノゾミは希望の希』
     どれもこれも丁寧に答える。嘘をついている様子はない。
    「よし、君については今のところいいとしよう。それで、君はいったいいつごろからそこにいる?」
    『わからない。気がついたら、ここにいた。真っ暗で、時間の感覚もわからなくなっている』
     わたしはうなった。
    「なにか聞こえないか? なんでもいい、聞こえるものがあったら教えてくれ」
    『ほとんど、聞こえない……でも、時折、なにかの音が……待って。自動車! かすかだけど、自動車の音が聞こえるわ!』
     一歩前進だ。
    「他には?」
    『ええと、他には……』
     そこで、電話はぶつんと切れた。
    「もしもし! もしもしっ! 詩穂ちゃんっ!」
     わたしは発信音に向かって叫び続けた。
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    実はそう簡単には結び付かないのであります(^^;)

    紆余曲折というものが……(^^;)

    おお…

    怪奇大作戦のエピソード「恐怖の電話」を思い出しました。

    しかし桐野さん、いつの間にか探偵さんとも懇意になってたんですね…仲間が増えるのは良い事です!!(だと思う)電話の女子高生と発火事件がどう結び付くのか!?さて!?

    >神田夏美さん

    本章は……ええいいいわけをうじうじいっていてもはじまらん(^^;) 
    面白い短編小説になっていると思うのでどうかお読みください。詩穂ちゃんの素性は……やっぱグダグダかもしれん(^^;)
    ちなみにラスボスっぽい人は、知人の小説の登場人物(それも主役)と名前の一部がかぶっていて怒られた(笑)。こっちが後から書いたから怒られても文句いえないのがまたつらい(笑)。

    この三章がこの小説の転機(?)になりそうですので、気合いを入れて読みたいと思います。
    とりあえず、詩穂ちゃんの素性や、何故そんな場所にいるのかが気になります。
    桐野が今回はナイトメア・ハンターとしてどんな活躍をしてくれるのか、ラスボス的なやつってどんな人物なのか、期待が途切れません。
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