「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第一部 沈黙の秋
紅蓮の街 第一部 1-1
風の声を見よ。
水の叫びを聞け。
今や膚に触れるところまで迫りし、
沈黙の秋が我を脅えさせる……。
作者不詳「女神の嘆き」より
第一部 沈黙の秋
1
涼しい風が吹いていた。潮の香りを伴ったその秋の風を、『帝国』屈指の貿易港、『終末港』近辺に住む人々は、海の女神の名を借りて「セラーラの吐息」と呼んでいた。
だが、吉兆であるべきそのセラーラの吐息でさえ、人々を疑心暗鬼のどん底に突き落としてやまなかった。
吐息が冷たすぎる、まるで氷のようだ、とあるものは語った。
またあるものは、吐息が強すぎるとこぼすのだった。
理由は、誰もが痛いほど知っていた。
小麦の収穫量がおそろしく低い、という噂を聞かないものは誰もいなかった。早生の小麦の早荷は、いつもに比べて半分にも満たなかった。
穀物の値段はゆっくりと上がりつつあった。その影響を直接被るのは、いつの世も庶民たちであった。
酒場『蜂の巣』。
店内は薄暗かった。カウンターでなにか書き物をしていた店主が、壁の張り紙の上にさらに張り紙をした。
「エク、お前、たしか字が読めたな。なんて書いてあるんだ、あれ?」
エクと呼ばれた、冴えない顔の男は、伸びをすると一文字一文字声を出して読んだ。
「酒、銅貨十枚。肉、銅貨十五枚……」
「バカ店主!」
あちこちから、不満の声が上がった。
「なにを寝言こいてるんだ、お前は! 昨日から三枚も値上げしやがって!」
店主は調理用のナイフを磨きながらそれに答えた。
「食いたくないんなら、それでけっこう。とっとと勘定を払って出て行くんだな」
そこでにやりと笑う。
「しかしな、この値段はイルミール家の公認なんだよ、ええ? なにかな、イルミールの旦那に逆らうだけの器量があるやつが、この中に混じってでもいるのかな?」
燃えさしに甕の水を注いだごとく、不満の叫びは小さくなってすぐに消えてしまった。含み笑いを漏らした店主は、磨いていたナイフを棚に戻した。
みな、むっつりしながら酒に戻った。
そのとき、『蜂の巣』の扉が開いた。
入ってきたのは、黒塗りの鞘に納まった剣を腰に吊り下げた、白い膚以外は髪の毛からなにから全て黒ずくめの女だった。

水の叫びを聞け。
今や膚に触れるところまで迫りし、
沈黙の秋が我を脅えさせる……。
作者不詳「女神の嘆き」より
第一部 沈黙の秋
1
涼しい風が吹いていた。潮の香りを伴ったその秋の風を、『帝国』屈指の貿易港、『終末港』近辺に住む人々は、海の女神の名を借りて「セラーラの吐息」と呼んでいた。
だが、吉兆であるべきそのセラーラの吐息でさえ、人々を疑心暗鬼のどん底に突き落としてやまなかった。
吐息が冷たすぎる、まるで氷のようだ、とあるものは語った。
またあるものは、吐息が強すぎるとこぼすのだった。
理由は、誰もが痛いほど知っていた。
小麦の収穫量がおそろしく低い、という噂を聞かないものは誰もいなかった。早生の小麦の早荷は、いつもに比べて半分にも満たなかった。
穀物の値段はゆっくりと上がりつつあった。その影響を直接被るのは、いつの世も庶民たちであった。
酒場『蜂の巣』。
店内は薄暗かった。カウンターでなにか書き物をしていた店主が、壁の張り紙の上にさらに張り紙をした。
「エク、お前、たしか字が読めたな。なんて書いてあるんだ、あれ?」
エクと呼ばれた、冴えない顔の男は、伸びをすると一文字一文字声を出して読んだ。
「酒、銅貨十枚。肉、銅貨十五枚……」
「バカ店主!」
あちこちから、不満の声が上がった。
「なにを寝言こいてるんだ、お前は! 昨日から三枚も値上げしやがって!」
店主は調理用のナイフを磨きながらそれに答えた。
「食いたくないんなら、それでけっこう。とっとと勘定を払って出て行くんだな」
そこでにやりと笑う。
「しかしな、この値段はイルミール家の公認なんだよ、ええ? なにかな、イルミールの旦那に逆らうだけの器量があるやつが、この中に混じってでもいるのかな?」
燃えさしに甕の水を注いだごとく、不満の叫びは小さくなってすぐに消えてしまった。含み笑いを漏らした店主は、磨いていたナイフを棚に戻した。
みな、むっつりしながら酒に戻った。
そのとき、『蜂の巣』の扉が開いた。
入ってきたのは、黒塗りの鞘に納まった剣を腰に吊り下げた、白い膚以外は髪の毛からなにから全て黒ずくめの女だった。
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Re: 矢端想さん
がんばります。自分にどこまでできるかの証明みたいな企てですから、逃げるわけにはいかん。
これからまた今日の分の3枚を書かなくちゃ……(遅筆)
中島らも先生が書いてた最悪西部劇のタイトルを思い出しました。「殺しが静かにやってくる」というやつです。エンディングに中島先生は激怒されたそうですが、ネットで見てみるとあのエンディングを評価している人、けっこういますね……(^^;)
これからまた今日の分の3枚を書かなくちゃ……(遅筆)
中島らも先生が書いてた最悪西部劇のタイトルを思い出しました。「殺しが静かにやってくる」というやつです。エンディングに中島先生は激怒されたそうですが、ネットで見てみるとあのエンディングを評価している人、けっこういますね……(^^;)
NoTitle
ポール・ブリッツ先生!!
>> 義理も人情もない世界
いかん!それは西部劇ぢゃない!
そうかマカロニなのか・・・。
ともあれ、楽しみにいたしておりまそ。
>> 義理も人情もない世界
いかん!それは西部劇ぢゃない!
そうかマカロニなのか・・・。
ともあれ、楽しみにいたしておりまそ。
Re: 矢端想さん
ありがとうございます。
マカロニウエスタンそこのけの義理も人情もない世界が展開する予定ですのでどうかおつきあいいただければ……。
マカロニウエスタンそこのけの義理も人情もない世界が展開する予定ですのでどうかおつきあいいただければ……。
祝・新連載
新作スタートおめでとうございます。
西部劇ですねー。
根っこはみんな西部劇なのですよ。
本質的に好きな世界はみんな同じなのです。
(と、勝手に自分と一緒にしてしまったりして。・・・さあ、この挑発どう受ける、どう流す、ポール・ブリッツ!)
西部劇ですねー。
根っこはみんな西部劇なのですよ。
本質的に好きな世界はみんな同じなのです。
(と、勝手に自分と一緒にしてしまったりして。・・・さあ、この挑発どう受ける、どう流す、ポール・ブリッツ!)
Re: ぴゆうさん
こういってしまうとなんですが、
ものすごく暗い、凄惨な話になる予定です。
今はそれしかいえません……。
ものすごく暗い、凄惨な話になる予定です。
今はそれしかいえません……。
NoTitle
始めたのね。
大飢饉の予兆、人々の不安。物価の高騰。
良くない方向にシフトしてる。
そんな中に登場した主人公。
どんな物語になるのだろう。
大飢饉の予兆、人々の不安。物価の高騰。
良くない方向にシフトしてる。
そんな中に登場した主人公。
どんな物語になるのだろう。
- #2008 ぴゆう
- URL
- 2010.09/02 18:45
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Re: ネミエルさん
アリナミンアリナミン(効くのか?(笑))