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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第一部 沈黙の秋

    紅蓮の街 第一部 2-1

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    「面白い女だな」

    「そうお?」

     夜の道を、一路サシェル・イルミール男爵の邸へ向かう馬車の中。ガスの言葉に、ナミは白い喉をのけぞらせて笑った。

    「雇い主を探しに来て、いきなり喧嘩を売るやつは初めて見たぜ」

    「じゃあどうしろっていうの? サシェル・イルミールの屋敷の前に行って、土下座して、イルミールの旦那、儲け話がございますだ、どうかお屋敷に入れて下せえ、っていうわけ? そんなことじゃ百年待っても、召使いにすら逢わせてもらえないわ」

    「そりゃあそうだが、ナミ、お前さん、サシェルの旦那に殺されることは考えなかったのか?」

    「今の『終末港』で、腕の立つ兵隊を、即座に殺す? イルミールの旦那が、そんなに浪費家だなんて話は、聞いたことがないわね、あたしは」

     ナミの答えに、ガスは苦笑した。この街を支配する『名家』と呼ばれる商業貴族の一人、サシェル・イルミール男爵の吝嗇さぶりは、知らぬものがなかったのだ。

     『終末港』は、広大な『大陸』に覇を唱える『帝国』でも、どちらかといえば南よりにある貿易港だった。悠々と流れる大河の河口近辺に位置し、また岩礁からなる天然の防波堤に囲まれ、波が非常に穏やかな港を有するこの古くからの大都市には、この時代には異例ともいうべき三十万人もの人間が生活していた。かの『帝国』首都、『敬都』ですら二十五万人の人口しか有していないことからもその繁栄はわかるだろう。

     そのため、この街は、伝統的に『自治』のようなものが認められてきた。『名家』と呼ばれるいくつかの有力商業貴族による『評議会』がこの街の統治を行い、同時に多大な租税を中央に払うことにより、数百年間にわたる平和を享受してきたのである。

     サシェル・イルミールもまた、評議会の一員であった。

    「サシェルの旦那を動かすのなら、よほどの儲け話じゃないとな」

    「それはあんたが知ることじゃないわ、『彫刻屋』。わたしがその情報をしゃべるのは、サシェル・イルミール本人だけよ」

    「おれにも内緒だというのか」

    「そうよ」

     ナミはあっけらかんといった。

    「なにせ、大金がかかっているんだもの」

    「ふん」

     ガスは自分の懐に手を突っ込もうとして、やめた。

    「どうしたの?」

    「お前にはやらん、ということだ」

     ナミは呆れたようにいった。

    「噛み煙草なんてほしくないわよ」



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    ~ Comment ~

    Re: 蘭さん

    この小説、魔法も英雄も登場しないうえに、出てくる奴らはみんな悪人と変態ばかりですから、蘭さんのご趣味に合うかどうか……。

    どうか、「犯罪小説」とか「暗黒小説」を読むつもりでお読みいただければ嬉しいであります。

    ちなみに現在、自転車操業状態……土曜日までの原稿しかできてない!(笑) 大丈夫かわたし!(^^;)

    こんばんは^^

    この長編連載には、初コメです。

    正直、「ダークな話」は苦手な部類なので、なかなか触手が動きませんでした^^; ホラーやオカルト・サスペンスは大好きなんですけど、「ダークファンタジー」っぽいのは、気合いを入れて読まないと頭に入って来ないから、きついんですよ^^;

    でも、いつもぴゆうと話すと、ポールさんのこの話を絶賛してるので、彼女がそこまでいうのなら・・・と思って、さっき読み始めてここまで来ました。

    まだ話の「触り」の部分にも到達していませんが、話運びが凄くわかりやすくて読みやすいですね!
    それに読んでて、背景が頭に浮かびます^^ 凄く面白い!

    また明日も、時間作って読みに来ますね♪
    これからの展開が楽しみです!

    Re: ぴゆうさん

    冒険ものとか犯罪ものとかアクションものとかは、読み手にいかにすらすらとテンポよく読ませるかが勝負ですから、そこはこちらもがんばってます。

    がんばりすぎて手は止まりがちです(笑)。
    うんうんうなりながら書いています(笑笑)。
    でもとても楽しいです(^^)。

    それに比べて投稿用作品の進まないことといったら……(爆)。

    NoTitle

    ポールが楽しみながら書いている。
    トントンと運ぶリズムがある。

    不思議ね、作家の心が文に移るのかな。
    とても楽しみです。

    v-218
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