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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 3-2

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    第三章 電話魔(承前)


     とりあえず、両親とやらに電話をかけてみることにした。
     長距離通話はむやみやたらとカネがかかるから嫌なのだが……。
     プッシュボタンを押す。
     しばらく待った。
     電話がつながる音がした。
    『はい。ソフトスタジオBINDです』
     なんだと?
    「ソフトスタジオBINDさんですって?」
     そう答えると、電話の向こうの声に苛立ちが混ざった。
    『はい。そうですよ。ソフトスタジオBINDですよ。ところで、お名前をおうかがいしたいのですが』
    「桐野といいます。失礼ですが、そちらには上里さんとおっしゃられるかたはいらっしゃいますか? 旧姓でもいいのですが」
    『かみさと? いいえ、そんな人間はおりませんが』
    「いない?」
    『はい』
     どういうことだ。
    「失礼しました。お忙しいところ申し訳ありません」
    『いえ』
     電話は切れた。

    「塵劫高校?」
     北村は首をひねった。
    「聞いたことないですね」
    「だろうな」
     北村は腕を組んだ。
    「それで、うちに、なにを?」
    「全国の高校と各種学校のリストみたいなものを持っていないか? 探偵事務所だからあると思うんだが」
    「うちへ来る前に図書館で調べたらどうです。うちは有料ですよ」
     つれないことをいう。
    「そこをなんとか。図書館でも調べたし、一〇四にもかけてみたんだが、どうも見つからなくて」
    「図書館と一〇四でわからないんだったら、うちで見つかるかどうか。そもそも、そんな高校、存在しないんじゃないですか?」
    「わたしもそう思う。だが、ことは人ひとりの自由がかかっている問題だからな」
    「いいでしょう。そこまでいうのであれば、資料をお貸ししましょう。パソコンの使いかたはおわかりですね?」
    「まあなんとか」
    「それじゃ、あちらの資料室にご案内しましょう」
    「恩に着る」
    「いいってことです。これだけで、今度の依頼料がタダになるんですから……」
    「北村さん?」
    「冗談です」
     わたしはパソコンで資料を調べた。
     塵劫高校など、日本のどこにも存在しなかった。

     電話が鳴った。
    「はい。桐野メ……」
    『桐野さん?』
    「……君か」
     わたしの声に、いささかのうんざり感が漂っていたのを、相手は敏感に感じ取ったらしい。
    『上里詩穂です』
     と答えた、その声は震えていた。
    「君はいったい何者なんだ」
    『え……』
    「調べたんだ。君の家と称するものはパソコンソフト会社になっていたし、塵劫高校も存在しない。君がいったことは全部でたらめだ」
    『そんな……わたし、嘘なんかいってません』
    「だったらこの結果はどういうことなんだ」
    『わたし……わたし……』
     上里詩穂は泣き出した。嘘がバレた、というよりは、混乱が極まって泣き出したように聞こえた。演技だとしたらアカデミー賞クラスだ。
     わたしは電話を切ろうとした。
     次の瞬間。
     頭の中でひらめくものがあった。
    「君」
    『……え?』
    「君は何年生まれだ」
    『十七歳です……』
    「そうじゃない。何年生まれかと聞いている。西暦でも、元号でもいい」
    『一九八一年二月十七日生まれです』

    「それで?」
    「今現在の話だと思ったから噛み合わなかったんだ。彼女が一九八一年生まれだったら、十七の年は一九九八年。五年も前になる計算だ」
     わたしは北村に、指を折って説明した。
    「それで、五年前の資料を出せと」
    「あったじゃないか」
     わたしは開いた資料の一ページを指さした。そこには、確かに、「塵劫高校」の文字がおどっていた。
    「本当に小さい、私塾に毛が生えたような私学だったんですな。生徒不足とバブル崩壊のあおりでつぶれている」
    「最初からインターネットで調べればよかったんだ」
    「電話代が高いので……」
    「見つかったから別にいい。これで彼女の言もあながちデタラメともいえないことがわかっただけ収穫だ」
    「しかし、どうして五年もずれているんです?」
    「可能性としては、まず、彼女が嘘をついている可能性。これは度外視してもいいと思う。こんな意味もない嘘をつく理由がどこにもないし、声を聞いた限りでも、嘘をついている様子はなかった。次に、彼女が精神に異常をきたしている可能性。これが一番高いだろう。旧態依然とした精神病院かどこかの暗い部屋、おそらくは閉鎖病棟から、電話で連絡をしてくる、という状況だ。しかし、わたしのところにしかかかってこない電話というものが、精神病者のいるような病室で、手の届くようなところにあるものだろうか、という疑問が残る。次の可能性だが」
     わたしは言葉を切った。少しは演出もしないと。
    「これは少々ファンタジーじみてくる」
    「もったいぶらないでください」
     北村は鋭い目を向けてきた。
    「悪い。次の可能性としては、彼女、上里詩穂は、すでに死んでいるというものがある」
    「すでに死んでいる?」
    「幽霊、もしくは残留思念というやつだ」
    「……」
    「これならば話が無理なく説明できる。自動車の音が聞こえる暗いところ、というのは墓地の中を示しているし、五年も前の話をしているのは、彼女がすでに死んでいるため時間がそこで止まっているからだ。五年も経てば電話番号も変わっているだろうし、わたしのところにだけ電話がつながるのは、心霊現象としてはごくありふれた話だ」
     北村はため息をついた。
    「合理主義にシンパシーを感じるわたしとしては、眉唾、といいたくなりますね。桐野さん、かついでらっしゃるんじゃないですか? なにより、問題の電話を聞いたのが、桐野さん一人きりだというのが怪しすぎる」
    「顔を見てくれよ。これが嘘をついている顔か?」
     北村のため息が大きくなった。
    「確かに、桐野さん、嘘をつくと顔に出るタイプですけど、人間は日々向上しますからね。最近、演劇学校にでも通っているのでは?」
    「そんなカネはない」
    「みたいですね。で、どうするんです。なにかこちらで調べることでも?」
     首を振って答えた。
    「いや、特にやってもらうこともないだろう。後は、自分ひとりだけでも調べられると思う」
    「それじゃ、今日は資料を当たる以外に、なにをしに来たんですか」
     わたしはにやりとした。
    「現況報告だ。こないだの話で、好奇心がふくらんでいるんじゃないかと思ってね。安心してくれ、そのときの北村さんみたいに、カネをくれなどという気持ちはこれっぱかりもないから」
    「あったら困ります」
     と北村は答えた。
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    ~ Comment ~

    Re: しのぶもじずりさん

    わたしの最初に読んだ志水先生の作品が、「裂けて海峡」だったのは運命だったのかもしれません。

    「ハードなアクションシーン」と「胸を抉るような真相」などをすべて取り払ってしまっても、後に残る「三バカトリオの漫才すれすれの会話」だけで戦後ユーモア小説の名作として後世に残ると思います。

    最初に読んだ志水先生の作品が、「飢えて狼」だったらわたしの運命はどう変わっていただろうかと考えることもあります。
    • #7827 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.04/25 18:05 
    •  ▲EntryTop 

    こんばんは

    快調に謎が謎を呼んでますね。

    本当に幽霊なんでしょうか。
    幽霊って 意味無くうろつきまわると思っていました。
    幽霊になってまで閉じ込められるって、悲惨です。

    志水作品は、私にとってシリアスな冒険もののイメージが強いです。
    20年前くらいに、志水先生の文庫版が絶版になりそうだから反対運動をしよう、と誘われ、私は乗り損ねましたが、運動は起こりました。
    今読めるのは、運動のおかげですかねえ。

    Re: 有村司さん

    そこには意外な展開が。

    ……志水辰夫先生の冒険小説みたいな作品が書きたかったので、油断するとつい会話が漫才になってしまう、という(笑)。

    緊迫した中にギャグをいれるこの背徳感(どんな背徳感だ(笑))。

    おおお!?

    時空が捻じれてる?
    うわーこの五年の差が何なのか全く分かりません。

    お話にどんどん引き込まれています。それにしても桐野さんと北村さんの会話は漫才です(笑)
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