「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第一部 沈黙の秋
紅蓮の街 第一部 4-1
4
「でも、その前に、ナイフをちょうだい。顔は遮らないで」
ナミは口をサシェルから逸らさぬまま、右手を突き出して振った。ナミの目から見える位置だった。
ガスは苦い顔でたった今縄を切ったばかりのナイフをその手に握らせた。握らせたのは柄のほうだった。
「ありがと」
ナミは手馴れた様子でナイフを軽く握った。投げても刺しても戦える握りかただった。
「ナミ」
ガスはうんざりした調子でいった。
「話したいことがあるんだったら、さっさと話したらいいんじゃないのか。儲け話があるんだろう?」
「百枚」
「え?」
「あたしをあんな目に合わせた賠償金を含めて、話し代に前金で金貨百枚」
「牝狐め……」
サシェルは、蒼白な顔でつぶやいた。骸骨のような顔がさらに骸骨そっくりになった。
「どうせ、その口に含んだ針というのは、ハッタリなんだろう?」
サシェルの言葉に、ナミは口の端だけ曲げてにこりとした。
「針はどうだか知らないことにしておくけど、こちらのナイフは本物よ」
そういわれると、サシェルといえども黙らざるをえなかった。
「さて、そこの二人の男」
ナミは静かにいった。
「五だけ数えるうちに、どこからでもいいから、軍の制式短剣を一本持ってきなさい」
「五?」
ガスの不審げな問いに対し、ナミは丁寧に解説した。
「よけいな細工をされたくないのよ。誰でも持っている武器だから、これほど大きな屋敷なら、五秒あればどこかで手に入れられるはずよ。さあ、すぐ行く! 五……」
「待て、おれの刀を!」
ガスは叫んだが、ナミは鼻で笑った。
「あなたがここに持ってきたということは、細工がしてあって使い物にならない、という可能性があるわ。この場の武器であたしが信じられるのは、口の針とあなたが縄を切ったナイフだけよ。早く行きなさい! 四……」
二人の男は泡を食って出て行き、短剣を持って戻ってきたのは、ナミが「一……」といったときだった。
「よく持ってきたわね、おりこうさん」
ナミは片手で鞘を振り落とすと、刃を確認した。
「いいわ。儲け話は、やっぱりおたがい正直に話ができる状態でやるべきよね」
ナミは今度は高らかに笑った。

「でも、その前に、ナイフをちょうだい。顔は遮らないで」
ナミは口をサシェルから逸らさぬまま、右手を突き出して振った。ナミの目から見える位置だった。
ガスは苦い顔でたった今縄を切ったばかりのナイフをその手に握らせた。握らせたのは柄のほうだった。
「ありがと」
ナミは手馴れた様子でナイフを軽く握った。投げても刺しても戦える握りかただった。
「ナミ」
ガスはうんざりした調子でいった。
「話したいことがあるんだったら、さっさと話したらいいんじゃないのか。儲け話があるんだろう?」
「百枚」
「え?」
「あたしをあんな目に合わせた賠償金を含めて、話し代に前金で金貨百枚」
「牝狐め……」
サシェルは、蒼白な顔でつぶやいた。骸骨のような顔がさらに骸骨そっくりになった。
「どうせ、その口に含んだ針というのは、ハッタリなんだろう?」
サシェルの言葉に、ナミは口の端だけ曲げてにこりとした。
「針はどうだか知らないことにしておくけど、こちらのナイフは本物よ」
そういわれると、サシェルといえども黙らざるをえなかった。
「さて、そこの二人の男」
ナミは静かにいった。
「五だけ数えるうちに、どこからでもいいから、軍の制式短剣を一本持ってきなさい」
「五?」
ガスの不審げな問いに対し、ナミは丁寧に解説した。
「よけいな細工をされたくないのよ。誰でも持っている武器だから、これほど大きな屋敷なら、五秒あればどこかで手に入れられるはずよ。さあ、すぐ行く! 五……」
「待て、おれの刀を!」
ガスは叫んだが、ナミは鼻で笑った。
「あなたがここに持ってきたということは、細工がしてあって使い物にならない、という可能性があるわ。この場の武器であたしが信じられるのは、口の針とあなたが縄を切ったナイフだけよ。早く行きなさい! 四……」
二人の男は泡を食って出て行き、短剣を持って戻ってきたのは、ナミが「一……」といったときだった。
「よく持ってきたわね、おりこうさん」
ナミは片手で鞘を振り落とすと、刃を確認した。
「いいわ。儲け話は、やっぱりおたがい正直に話ができる状態でやるべきよね」
ナミは今度は高らかに笑った。
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~ Comment ~
NoTitle
ナミさん・・・
こんだけの用心深さ、どうやって身に着けたんでしょうねぇ。
休まる暇がないじゃないっすか。
なんだか、お気の毒に思えてきましたわ(笑)。
こんだけの用心深さ、どうやって身に着けたんでしょうねぇ。
休まる暇がないじゃないっすか。
なんだか、お気の毒に思えてきましたわ(笑)。
NoTitle
今度はナミさんが怖い……。笑
あれだけブイブイいわせていたサシェルの異常生も、ナミの前では霞んでしまいますねー。
あれだけブイブイいわせていたサシェルの異常生も、ナミの前では霞んでしまいますねー。
NoTitle
ナミSUGEE!
切れ者ですなー・・・
なんでしょうかその切れ方
回転が速いというか・・・
要領がいいというか・・・・
うちの娘はそんな娘が一人もいないんですぞ!?
切れ者ですなー・・・
なんでしょうかその切れ方
回転が速いというか・・・
要領がいいというか・・・・
うちの娘はそんな娘が一人もいないんですぞ!?
- #2103 ねみ
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- 2010.09/14 22:47
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Re: みなさん
「いかん! こんな隙を作っていたら、ツッコまれる!」
と思ってそれをカバーする行動をやらせる、と。
その結果こんな娘になってしまいました(^^;)
昔の時代劇みたいに落とし穴が口を開いたり上から網が降ってきたりしないだけまだいいのかもしれません(汗)
ちなみにナミの神経症的用心深さは今日(15日)も続くであります。いったいいつになったら儲け話をはじめるのだか、ですが、それは明日(16日)からの更新をお待ちください(^^;)