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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第一部 沈黙の秋

    紅蓮の街 第一部 4-2

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     サシェル・イルミールは、まったくなんの役にも立たなかった無能な部下三人を、血走った目でにらみつけた。

     にらみつけたところで、事態がなにも変わるわけがないことは、この場にいる誰もが理解していた。

    「いい顔になってきたじゃない」

     笑っていたのはナミだけだった。

    「じゃ、そこの二人は外へ出る。奥さんも連れて行くのよ。わかる? ガスは……残っていていいわ」

     ガスは無言だった。二人の男はのろのろとうなずいた。

     男たちが椅子を床に固定していた金具を外し、椅子ごと『夫人』を運び出していったのを見届けてから、ナミは本題に入った。

    「さて、サシェル・イルミール男爵。あたしのことを、ガレーリョス家のところから差し向けられた刺客だと思っているのなら、そういった考えはさっさと捨てることね。刺客だったら、男爵、あなたに近づくのにはもっと気の利いた手を使うし、機会があったら即座にあなたを殺しているわ。あたしがいまだに針も吹かなければナイフも短剣も使っていないことが、あたしが刺客でない事実の、最大の証明よ」

    「牝狐め」

     サシェルは繰り返した。ほかの語彙が、きれいさっぱり頭の中から抜け落ちてしまったかのようだった。

    「さっさと儲け話とやらをいえ」

    「金貨百枚」

     ナミはさらに念を押した。

    「サシェル・イルミール男爵、あなたが自分の命と同じくらいに、金貨と享楽的生活を愛していることはみんな知ってるわ。そして、金貨と享楽的生活のどちらを取るかといわれれば、ためらいなく金貨を取るということも。男爵、それだけ金貨を愛しているということは、今も愛玩するための金貨が手の届くところにあるわね。おもちゃとしてもてあそぶなら、百枚か、多くても三百枚と踏んだんだけれど。出しなさい」

     サシェル・イルミールは、のろのろとした動きで、机の引き出しを開けると、皮袋を取り出した。机の上に放り投げる。

    「持っていけ」

    「ありがと」

     ナミは、机の前にさらににじり寄ると、逆手に握ったナイフの柄を使って、皮袋のあちこちを袋の上から激しく叩き始めた。

    「なにをしている!」

     サシェル・イルミールの悲鳴のような叫びに、ナミはこともなげに答えた。

    「中に、男爵、あなたにはよくなついているかもしれないけれど、あたしには咬みついてくるようなペットの蛇とか蜘蛛とか蠍とかがいたら困るのよね。それを殺しておきたいの。北の町で、間抜けな男がそれで殺られたのよ。身体じゅう毒の斑点だらけになってね」



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    ~ Comment ~

    Re: 茶倶楽さん

    ちょっとナミとサシェル男爵のやりとりは、自分でもやりすぎかなあ、と思っていましたが、楽しんでいただけたようで嬉しいです。

    愛、にまで自分を持っていけるように努力しているんですが。
    ちなみに「愛」は「甘さ」ではないですけれど。

    Re: ネミエルさん

    これで紐をぐいと引くと床がぱっくり開いて落とし穴ができる、くらいのところまで行くとこれはこれですごいんですが(^^)

    ちなみに、袋に毒蛇を入れておく、というのは、藤子A先生の「シャドウ商会変奇郎」のエピソードからのいただき。

    Re: 秋沙さん

    原稿は明日更新ぶんまでしか出来上がってないぞ!(^^;)
    どうするんだわたし!(^^;)

    完全な自転車操業ですので、あさってはバックレてしまうかもしれません(爆)。

    NoTitle

    内容もさることながら毎日かけるのが凄いです。
    サシェルをとことん卑屈に描いて、常にその上をナミが超える。主人公を上手く引き立てていると思います。
    主人公に対する愛を感じますね。

    NoTitle

    サシェルまじいらっとします。
    どこまでいらいらさせるんだお前。

    蜘蛛?
    蠍?
    蛇?

    はっ、ナミさんをなめんじゃねぇっ!

    NoTitle

    なんかもう、ポールさんが楽しくて楽しくて、どんどん書いてる様子が目に浮かぶようです(笑)。

    いや、お見事です、ナミ嬢。

    さぁ、どんな儲け話を持ってきたのやら。
    そして、思い上がった男達をいったい何人、どうやって突き落としていくのか、楽しみです。いひひひ。

    Re: ぴゆうさん

    この変態男爵も、ナミにとってみれば「手足のついた財布」みたいなものでしかないことがおいおいわかってくると思います。

    サシェル男爵は極端な例ですが、根性としてはこいつと五十歩百歩の連中がこれからも続々出てきます。(例外もいますが。というか、例外がいないと小説が面白くならん)

    最終的に、登場人物のうち何人が地に足の着いた状態で小説が終わるか、どうかお楽しみに(^^)

    NoTitle

    バキ、ポキと折ってやりたい、骸骨め。

    なんて腐り果てた根性。いたぶり方が卑劣。
    金への執着がむかつく。
    確かにど変態だわ。

    Re: limeさん

    いちおう明日の更新分から「儲け話」の説明が始まります。

    とはいえ、次の「5」で、いきなり実行シーンに飛んでしまうんですが(^^)

    うーん、早く続きを書かないと、更新に間に合わない……(^^;)

    我ながらアマチュアのブログ作家のくせに締め切りに追われることだけは一人前ってまったく(^^;)

    NoTitle

    儲け話と引き換えに、まずは手数料ですね。
    それにしても、ナミは抜け目ない。
    このナミの持ってきた儲け話ってなんでしょう。
    そんないい話を、かんたんにサシェルに渡すとも思えませんが・・・。
    まだ、先?
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