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    「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
    範子と文子の三十分的日常(ギャグ掌編小説・完結)

    範子と文子の三十分的日常/九月・月見

     ←範子と文子の三十分的日常 →紅蓮の街 豆知識 貨幣体系について
    「うわあー、どっさり」
     宇奈月財閥の屋敷の一角。落ち着いた庭園を前にして、皿の上に山と盛られた団子、栗、柿、その他その他を見た下川文子は歓声を上げた。
    「そうでしょうそうでしょう。なにね、不況とはいわれていても、宇奈月財閥にはこれくらいのことをする余裕というものもあるわけよ」
     宇奈月範子は自慢げにいった。
    「でも、宇奈月さん、わたしたちまで呼んでくれて、よかったんですか?」
     古々根藍がいった。まじめなのが売りの小柄な少女である。
    「いいのよいいのよ。こういう、月見というものは、みんなでやったほうが楽しいじゃない」
    「それはそうですけど……」
     古々根はちらりと横を見た。
    「なんか、あのテントの中から、妙な妖気のようなものが漂ってくるんですけど」
     そうだった。落ち着いて渋さを感じさせる宇奈月家の庭園には、なぜかその周辺部に、無数のテントが張られていたのである。
    「そんなことはどうでもいいじゃん。いい月だよ。見ようぜ見ようぜ」
     ちょっとガラの悪い声でしゃべったのは、大谷駒子だった。体育会系の部活で大活躍中の、スポーツウーマンである。
    「そうだね、駒子ちゃん」
     文子は雲ひとつない天に輝く月を、じっと見つめた。美しい。伝統的な美というものは、時代を超えてもやはり美しいのだ。
    「お口に合うかわかりませんが、お食事をお持ちいたしました」
     三太夫、と範子に呼ばれている以外は、誰もフルネームを知らない、ロマンスグレーの執事が先頭に立ち、メイドたちが料理の載ったお膳となにか丸いものが無数に乗った大鉢を運んできた。
     スケッチブックに向かっていた、絵と漫画が大好きな能登入子が、眼鏡をずり上げて大鉢を見た。
    「なんですかこれ?」
    「これはですね……」
    「きぬかつぎ、というのよ。里芋の小芋を、皮付きのまま蒸したのね」
     範子の解説に、文子はうなずいた。
    「そうだよ。皮からつるりと押し出して、塩をつけて食べるとおいしいんだよ」
    「塩……?」
     範子が、なんともいえぬ目をして文子を見た。
    「文子。塩なんかより、しょうが醤油のほうがおいしいわよ」
    「えー、しょうが醤油はさあ、里芋のおいしさを殺してしまうと思うんだけど」
    「いいえ、文子、しょうが醤油です」
    「塩だよ」
    「しょうが醤油」
    「塩!」
     呆れた、といった顔になったのは駒子だった。
    「なにをこんなことで。ほかの人にも聞いてみればいいじゃん。ちょっとすみませーん! きぬかつぎ、どうやって食べるのがおいしいんですか?」
     駒子はテントのほうに向かって走っていった。
    「ちょっ! 駒子ちゃん、待って!」
    「あっ、大谷様! いけません! そっちは……!」
     範子と三太夫は叫んだが、紅恵高校一のアスリートの足にはかなわなかった。
     テントをめくった瞬間、駒子はものすごい叫び声を上げた。
     テントの中には、無数の、ひたすら祝詞とも読経ともいえぬなにかの呪文を唱え、祈祷を続ける黒服の人間たちがいたのだった。
     彼らの精神集中が乱れた瞬間、これまで月見には最高だった夜空がにわかに掻き曇った。
     秋雨前線がもたらす土砂降りの雨が降ってきたのは、それから三秒も経たないときだった。
     範子と文子と駒子は、黒澤監督の「七人の侍」のクライマックスシーンのような雨の中で、泥まみれの濡れねずみとなり立ちすくんでいた。
     無事だったのは、いち早く屋根の下に食事ごと避難していた古々根と入子だった。
    「古々根さん、このきぬかつぎ、マヨネーズもいけるわね」
    「そうだね、入子ちゃん」

     どしゃぶりの 雨の月見は 里芋の 皮をむくよに 着がえるがよし  駒子
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    ~ Comment ~

    Re: ふるやのもりさん

    ここだけの話ですが、最近の精神安定剤と抗うつ剤、効きます。

    月見をしようにも、よく忘れるんですよね、今年の十五夜が何日か……。

    こういうときは旧暦のカレンダーもほしくなりますね(^^)

    「三十分一本勝負」のほうも時間がありましたらぜひごらんください。

    NoTitle

    お帰りなさい!
    元気になられてよかったです。

    月見はもう何年もしていませんね。
    月見団子、食べたいなあ……。

    このお話は、ほのぼのかつシュールな感じで面白いです^^

    Re: レオ・ライオネルさん

    本格的に立ち直ったら、このほっこり感がウソのような殺伐として人が死にまくる小説が再開しますのでお楽しみに(^^)

    とはいっても、よくよく考えてみたら、「紅蓮の街」、まだ人がひとりも死んでないや(^^;) 「血の収穫」でも再読しようか……ああっまた読まねばならぬ本が増えていく~(^^;)

    Re: ミズマ。さん

    あっ、そういえばわたしも月見だんご食べてないや。

    今日買えば彼岸だんごになってしまうし、来年まで待つか。

    月見だんごといえば、いまだに印象に残っているのは、アンソロジーで読んだ、永田竹丸先生が昔描かれていたマンガ。お月見をいい機会に、病気で田舎に静養中のお母さんのもとに家族揃ってやってきた小さい男の子が、このときとばかりに、「このおだんご甘くないや。もっとお砂糖入れてよ」と甘えるシーンはわたしは涙なしには読めませんでした。

    永田先生の絵がまたかわいいんですよこれが。

    今はどこで読めるかさっぱり見当もつきません(^^;)

    Re: 秋沙さん

    雷雨こそなかったものの曇天で月なんか見えませんでしたよこっちじゃ。

    夜中にはさんざん雨が降ったそうですが、寝ていたので覚えていません。

    ちなみにここで集団祈祷により晴れた天気にしよう、というのは、大原まり子先生の作品からのいただき。もっとも先生のものは、専門職種のかたがたが集団祈祷を延々続けることにより日本を地震から守る、というアイデアでしたが。
    そういえば、大原まり子先生、最近新作を見ていないなあ。「大原まり子」なんてペンネームからは想像もつかんようなムチャクチャなアイデアのものすごい小説を書かれるかただったんだがなあ。

    NoTitle

    お帰りなさいませ

    「範子文子」復活ですねi-236
    久しぶりなこのノリにホッコリさせていただきました

    さぁ、ゆるりと行きましょう
    • #2166 レオ・ライオネル 
    • URL 
    • 2010.09/23 00:17 
    •  ▲EntryTop 

    NoTitle

    おかえりなさーい!

    我が家の方が曇っているのはそうか、宇奈月財閥からは離れた場所にあるからなのですね。未明から雨だって聞いていたのに、まだのんきに虫の鳴き声がりんりん聴こえております。

    秋ですねー。今日も暑かったですけど。

    …あ!月見だんご食べるの忘れてた!

    NoTitle

    おかえりなさい!

    「一本勝負」のほう、まだ一話くらいしか読めていなかったのですが、
    むふふふふ、面白い。

    あせらずに慣らし運転してくださいませ!

    横浜からも、見事な中秋の名月が見えていましたよ~。
    もしかして、そちらは雷雨があったのかな?

    Re: 黄輪さん

    ようこそいらっしゃいました!

    黄輪さんの巨大な量の長編ファンタジーには恐れ入るばかりです。こっちは長くても400枚程度で終わらせてしまうもので……。

    この少女たちは、また来月登場いたしますので、そのおりはよろしくお願いします。

    今は、ボーとしながら、身体のモードを「紅蓮の街」に慣らしているところですので、しばらく無更新が続くと思いますが……どうか見捨てないでいただければありがたいです(^^)

    NoTitle

    はじめまして。

    このシリーズは楽しみにしていたので、
    再開されたことに、感激していたり。

    落ち着かれたようで何よりです。
    お疲れ様です。

    Re: みなさん

    気分が落ち着いてきたので平和でマヌケな「範子文子」を書いて調子を整えることにしました。十五夜でもありますし。

    今回は、前シリーズでは名前が出てくるだけだった、二人のご学友と執事の三太夫さんも登場させてみました。

    みなさんにはご心配をおかけしましたが、薬のおかげでわたしは元気であります。

    とりあえず部屋の片付けでもやるか……。
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