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    「ショートショート」
    SF

    多世界宇宙の亡霊たち

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     二〇一三年七月十五日、デンバーの通りの一角で、マーク・ウィルスンは死んだ。
     交通事故だった。
     死んだマーク・ウィルスンは気がつかなかったが、その一瞬前、世界は分裂していた。
     そちらの世界では、マーク・ウィルスンは、間一髪、突っ込んできたトラックを避け、最近の交通マナーの悪さについて文句をいった。

     同年同月同日、上海。宋清は死んだ。彼女にふられた男の、恨みのこもったナイフを腹に受けたのだ。
     内蔵が破裂し、どうしようもなかった。搬送先の病院で、医者は死を宣言した。
     死んだ宋清は知らなかったが、その一瞬前、世界は分裂していた。
     そちらの世界では、宋清の手術は奇跡的に成功し、医者は歓喜のステップを踏んだ。

     同年同月同日、東京。大学で物理学を教えていた田崎俊夫は死んだ。
     ちょうど量子力学の多世界解釈を教えていたところだった。「なにか事件が起きる前に、世界が分裂する、という考え方はもともとのエヴェレットの理論や研究とはまったく縁もゆかりも……」といいかけたところで、天井がくずれ、その下敷きになったのだ。
     死んだ田崎俊夫は知らなかったが、その一瞬前、世界は分裂していた。
     そちらの世界では、うたた寝をしていた不真面目な学生をテキストで叩きに行った瞬間、天井がくずれ、先ほどまで田崎が立っていた教壇を瓦礫の山に変えた。田崎は自分の運命を思って、冷や汗をかいた。

     多世界解釈が論理的にどうあれ、マークや宋や田崎が別な世界では無事に生きていた、とかは実はどうでもいい。
     わたしが恐れているのは、量子的な多世界解釈の中で、「死んだ」マークや宋や田崎や、同じような無限の人間たちなのだ。
     多世界解釈で死んだ人間の霊魂は、いったいどこへ行くのか?
     天国や地獄があったとして、そこはあっという間に無限の死者の魂であふれかえってしまうのではないか?
     そして、天国や地獄が『存在しなかった』場合、無数の霊魂は……。
     わたしは想像する。数え切れないほどの無限の、恨みや未練を含んだ霊魂が、凝縮してひとつの高圧高密度の「なにか」になり、霊的ビッグバンを起こしてある種の「宇宙」を構成するのを。
     そうした宇宙は、その構成原理として「罪」や「悪」を最初から有しているのではないか?
     そして、もしかしたら、わたしたちが今ここにこうして生活している宇宙も……。
     わたしは今日も空を見上げる。
     そして、自分に不意に訪れるだろう、なんらかの理由による死の瞬間を待ち続ける……。
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    ~ Comment ~

    Re: YUKAさん

    この話は、論理的に矛盾があるし面白くもなんともない、と、理系の知人からボロクソにいわれて落ち込んだ覚えがあります(^^)

    専門外の知識に手を出すのは危険でありますなあとほほ(^^;)

    おはようございます^^

    多世界解釈――興味のあるところです。
    とはいえ、詳しくないのが哀しいところですが。


    両極にあるというような考え方も、最極同士になると実は物凄くリンクしているのでは?表裏一体だな、と思っているのです。
    物理・科学・数学と宗教・哲学・その他もろもろの霊的なものも、実は物凄く近づくのではと想ったり。

    科学・物理学至上主義者は、突き詰めると宗教に走る――

    関係のない話になりました^^;;

    Re: limeさん

    多世界解釈はコペンハーゲン解釈に対するアンチテーゼですからねえ。
    常識的にはどちらも「よくわからない」ですが、持論として、「世界はミもフタもなくできている」と思っているので、どちらが正解でもいいような気がしております。
    シュレーディンガーの猫という概念自体が、ミクロの量子レベルで起きている事象をマクロへ拡大するために考え出された概念ですし。
    これ以上書くとソーカルになっちまうのでやめときます(笑)。

    NoTitle

    量子力学も、多世界解釈論までいくと、「え?マジでそう思ってる?」って感じてしまいますね。
    そこからはもう、哲学というか、宗教というか。
    この作品の、魂に結びつくところ、自然ですよね。
    コペンハーゲン解釈にたいするシュレーディンガーの猫。あれが正しいとするとこの多世界解釈論も正しいはずですね。
    さて、どうなんでしょう・笑
    あ、言わないでね(汗
    だって、私の次回作だから・笑

    Re: LandMさん

    これまでゲームでこしらえた水子キャラクターの亡霊がラスボスになったら勝てる気がしません(笑)

    造語とかそういうものについては、欧米人が考えたムチャな日本語もそういうものだと考えて目をつぶることにします。そもそも日本人も平安のころから中国人にしてみればムチャな漢語を作っていたしなあ。

    NoTitle

    多世界解釈論と霊魂の組み合わせの論理ですね。某機械人形大戦でもよく見かけられる理論ですよね。死んだ霊魂が組み合わさって、膨大なエネルギーとなってラスボスになる…みたいな話でしたね。最後は。

    確かにバズーカランチャーというのは確かに造語ですね。現在の人がSFを作るとどうしてもそのような造語ができてくるんですよね。かといって、新しい言葉を作ると読者に分かりにくい…ということもあって採用しているんでしょうね。語感が強そうですしね。
    どうも、指摘ありがとうございます。

    Re: 矢端想さん

    「多世界解釈」は、作中で田崎が述べているように、選択のたびに世界が分裂する、というものでは「ない」というのがほんとうのところらしいです。いえわたしもウィキペディアを読んだだけですが。

    それに、多世界解釈は夢も希望もない解釈であることは、ラリー・ニーヴン先生の「時は分かれて果てもなく」という短編SFをお読みになると実感できると思います。「量子論的不死」なんていやじゃまったく。

    個人的な思いですが、宇宙の真実というものは、深遠というよりも、「ミもフタもない」ものであるというのがわたしのスタンスであります。あまりにミもフタもなさすぎて学者が誰も気づけないのではないか、という……(笑)。だからわたしはスピノザ先生大好きです(^^;)

    NoTitle

    「多世界解釈」ですか。夢のある話ですけど、どうしても量子論が極端な方向に悪ノリした思考実験の遊びのように思えてしまいますね。こまごまとした選択肢のたびに世界が分裂してたらキリがない。僕は量子論も好きだし、天国も否定しませんけど、すると天国地獄も無限にあることになります。(この世もあの世もひっくるめた)この世界、宇宙というのはおよそ人間の浅知恵では計り知れない「n次元」とか「物質」とか「精神」とかはるかに超越したとんでもなく深遠なものなのではないのか、という考えも持っています。数学、哲学、物理学・・・結局人間の学問は、そのひとつひとつが世界を一瞬一瞬の特定の方向からでしか観ることのできない部分的なものなのかも知れません。それこそ量子論的かな。
    (以上、「文系人間的」お気楽コメント。)
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