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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第一部 沈黙の秋

    紅蓮の街 第一部 5-4

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     ガスは船首付近にある扉を大きく叩いた。

     ここに溜まっていた男たちは、さすがにある程度、戦いというものを知っていた。

     不用意に部屋から出ることをせず、何者か、この不穏な空気をもたらす事態がなんであるかを知るまでは、静観を決め込もうという戦士たちだった。

     合理的な判断だが、そこに隙ができる。

     ガスは哀れっぽい声で叫んだ。

    「助けてくれ! 海賊のやつらだ! みんなやられちまった!」

     扉がわずかに開いた。

     そこから、救いを求めるように、血にまみれた水夫の手が差し延べられた。

     ガスが抱えてきた死体だった。

     扉が大きく開いた。

     その瞬間、ガスの後ろにいた男たちの手から火のついたなにかが飛んだ。

     それは、涙と咳とをもたらす薬草を固めた玉だった。

     素早く死体を引っ込め、扉の中に突撃していったガスは、強烈な戦鎚の打撃で、たちどころに二人の戦士を殴り殺した。

     ほかの二人も、同様にひとりずつ戦士を殴り殺している。

     咳きこみ、涙で目が見えない敵に対して、一方的な虐殺作業が続けられた。ガスたちが身につけていた覆面には、煙よけのため、清水で湿らされていた布が備えられていたうえ、ガスたちは、船に斬り込む前に、薬酒を使って目を洗っていたのだった。しかもそれに加えて、解毒剤となる苦い薬湯を飲み下してもいる。いくらガレーリョスの戦士が精強といえども、かなうわけがなかった。

     先ほど、部屋の扉が開いた一瞬に、中の様子を確認していたガスは、部屋の中に、戦士ではないローブ姿の、こんな場所には似つかわしくない男が混じっていたのに気づいていた。

     ナミの言葉では、ガレーリョスの手に渡してはいけない重要人物がひとり混じっているということだったが、この男だろうか?

     ガスは部屋の中から、抵抗しようなどと考えるものがいなくなっていることを気配で確かめた。ガスはテーブルに載っていた箱のひとつを手にすると、部屋の隅から聞こえる、咳き込み続ける男の首を押さえた。

    「アグリコルス博士か?」

     男は咳き込み続けていた。

     ガスはなおも聞いた。

    「もう一度聞く。アグリコルス博士か?」

     男は、咳き込み、涙を流しながらも、なんとかうなずいた。

     ガスは手早く服の上から男の身体検査をすると、仲間のひとりにいった。

    「この男を連れて行け。すぐに船に乗せろ。おれたちは、もうひとつの箱を探す」

     そのとたん、甲板の上から笛の音がした。

     ガレーリョスの船が来るという合図だ。

     ガスは歯噛みした。逃げるよりなかった。



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    ~ Comment ~

    Re: 椿さん

    わたしも見たいです。(^_^)

    画力があったら迫力あるイラストをつけてアルファポリスに売り込むんだけれどなあ……。

    NoTitle

    加藤直之さんのイラスト付きで読みたい。
    一方的な無言の殺戮劇。
    静かに燃えました。

    自分が襲撃される方になるのはイヤですけどね(^_^;)

    Re: fateさん

    ありがとうございます。

    とにかくもう、200日間書いて書いて書いて書きまくってやろうと思って連載してました。

    自分に表現できるぎりぎりを目指したのであります。

    半分、討死も覚悟しておりました(^^;)

    最初に綿密なプロットと設計図とキャラクター設定を組み立てておいて話を作る、というのが普通なのでしょうが、それよりも、ある意味「語り」としてのライブ感を出すために、設定は必要最低限、話に矛盾が出てきたら初期設定を変える、などということも平気でやってました。

    例えば、ここで裏設定としてガスくんが軍隊に入っていた、などと書いておりますが、やっているうちに変更することになりました。そういう、当初の設定を途中で変えた部分は山ほどあります。

    設計図通りに書くよりも、物語の「アクティブな感覚」というか、「よくわけのわからない迫力」というか、ドラクロワが自分の絵を描くときに叫んでいたといわれる「熱情! 熱情!」というようなパッションを大事にしたかったのであります。

    見る人が見れば邪道に見える書き方らしいですがね(^^;)

    やはり、「パイレーツ~」を思い起こさせますな~

    ‘きちんといかれた人間’という表現に笑いました。
    それから、「ここで自分のうちにあるドロドロを全部吐き出すことも目標のひとつですから、ナミには悪逆非道を極めてもらわなければなりません。」
    ↑これ、分かる気がします。
    じゃなくて、fateもそうです。
    fateの‘闇’は種類が違いますが、fateが描く世界は、fate(闇)自身の浄化・昇華に他なりません。

    理不尽さに嫌悪を抱いたり、醜悪さに目を背けたりするけど、物語はそれを語らないと世界を描けない。
    けっこう、そういう場面からは逃げてしまいがちですが(fateはです)、それを捕えてこの‘場’に押し込めて、徹底的に語る。
    その作業をここまで華麗にやってのける作者さまに感嘆いたします。

    まぁ、fateも、fateの扱う‘闇’には手を抜きませんから、それぞれ抱えるモノを、こういう形で昇華させる作業は、実は生きることそのものでしょうか。
    fateは描いていないと死んでしまいますからね~。

    執着するものをとことん追い求め、それ以外にすでに人間であることまで放棄しても、貫く激しさ。
    人物の魅力はそれですな。
    変態さん、というより、信念に突き動かされる亡者のようなモノを感じました。





    Re: 蘭さん

    やっぱりこの形での連載は難しいのかなあ、と思いました。

    でも一日に書ける枚数は、平均して3枚が限界なんですよね(範子文子みたいなものは別ですが)。

    もっと修行してすらすら読める小説を目指します!

    こんばんは^^

    う~~ん・・・・・・・・・

    やっと話が動いたかと思ったら、またここで足踏み・・・って感じ?
    まだ私の仲で背景が出来上がってないのかな?(4章に入ってから)

    次回からの展開に期待しましょうv-398

    Re: ぴゆうさん

    ここで自分のうちにあるドロドロを全部吐き出すことも目標のひとつですから、ナミには悪逆非道を極めてもらわなければなりません。

    にしてもリアル世界でいろいろとあって筆が進みにくかったりします(^^;) 新聞小説家はすごいなあ……。

    Re: LandMさん

    グッゲンハイムでこのノリで書いたらドレスデン爆撃実況リポートみたいになってしまうではないですか(^^)

    LandMさんはLandMさんの道をお進みになられるべきです。

    NoTitle

    気にしないでよ。
    そんなことを言い出したら、何も書けなくなる。
    同じだと思って書いただけだもの。
    こっちのガスはお爺ちゃんだよ。

    紅蓮の街は、ポールの内にあるダークとの勝負とも云えるよね。
    楽しみにしている。

    NoTitle

    なかなかこういう殺陣のシーンは参考になりますよね。
    ダークファンタジーな感じでこういうのは好きですよ。私もこういう作品を結構書いていましたね。グッゲンハイムでも書いてみたいですけど・・・反感かいそうですね。
    どうも、LandMでした。

    Re: limeさん

    この小説には、多少の例外はありますが、自分の懐を富ませること以外なにも考えていない心の底まで腐った銭の亡者しか出てきません(爆)

    善玉悪玉ではなくて、悪玉同士がしのぎを削って危険なゲームをやっている、というか。

    ファンタジーというよりも暗黒小説、犯罪小説のつもりで読んでいただけたら……(^^)

    NoTitle

    本当に冷徹な男ですね、ガス。
    この時点で客観的に見たらガスの方が悪者に見えますが、
    物語は往々にして視点がすべてですもんね。
    こっちから描くんだったら、ガスは頼りになる男。
    (野生動物の世界だって、視点次第)

    さて、出てきましたね。この博士が鍵を握る??
    もしかしたら、本当にガレーリョスの方が悪者?

    Re: ぴゆうさん

    うちのガスくんは軍隊上がりの人間という裏設定がありますので。イルミール家に仕えるようになったのにもなにかドラマがあるんでしょうな。そこまで書くかどうかはまだ決めていませんが、とにかく「ツキがない男」であることは確かなようです(^^)

    二文字から三文字で耳ざわりがよくて呼びやすい名前といったら、そりゃいくらかかぶるのも当然ですな……ご迷惑でしたらいつでもおっしゃってください。すぐに名前を変えますので……。うちのやからはみんな、「どんな残虐行為に手を染めるかわからない」やつらばっかりですから……。

    NoTitle

    ガス・・・
    偶然なんだけどさ、猫国にも出て来るんだよ。
    考えてみれば、不思議な感じ。

    それはそれとして、非常に冷徹な男。
    ただの盗賊のボスとは違う、冷ややかなものを感じる男。
    なんで、あんな骸骨モドキの手下にいるのか、不思議。
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