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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第一部 沈黙の秋

    紅蓮の街 第一部 6-4

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    「サシェル男爵閣下は、苦労話なんて聞きたくないみたいよ」

     ナミはのほほんとした口調でいった。

    「そうだ。わたしの聞きたいのは、それがほんとうに飢えた民たちの主食となるのかどうかだ」

     アグリコルス博士はちょっと傷ついた表情をした。

    「わしがなんのために苦労して北方からこの芋を持ってきたと思っとるんじゃ。主食にならんわけがないじゃろう。いいか、まず、この芋というものはな……」

     アグリコルス博士は指折り数え始めた。

    「まず、やせた土地でも作ることができる。その気になればよほどの荒れ地でも作れるわい。次に、滋養も満点じゃ。北方部族のあるものは、冬をこの芋を焼いたものだけ食べて暮らしながら、ぴんぴんしておる。さらには、この芋は、成長も早い」

     聞いているサシェルの顔はどんどん蒼ざめていった。だが、それはアグリコルス博士の目にはまったく留まらなかった。

    「種芋を植えてから、小ぶりなものであればまず一ヶ月でなんとか食べられる芋ができる。三ヶ月もあれば、わしが持ってきた量の種芋から、このあたりの人間全てを食わせて、お釣りが来るほどの量の芋が獲れる……」

    「その芋は?」

    「まず、見本品をわしが箱に入れて持ってきた。そして、後から来る船に、船倉いっぱいの種芋が積まれてやってくるわい」

     アグリコルス博士は胸を張った。

    「どうじゃ。……素晴らしい話じゃろう? この地帯が飢饉に見舞われかねんと聞いたオルロス伯爵(ヴェルク・ガレーリョス三世のこと)は、民を救わんと、はるばるわしのところまで早馬と船を……」

    「博士」

     ナミは、さらにのほほんとした調子で口を挟んだ。

    「博士の理想もけっこうだけど、それじゃ困る人間がここにひとりいるらしいのよ。サシェル・イルミール男爵っていうんだけど、自分が押さえている小麦を先物で取り引きしてるの。もし、博士が持ってきた芋が、この辺りで爆発的に増えるとなると、わざわざ高価な小麦なんか誰も食べなくなるでしょ。もしも、もしもよ。ヴェルク・ガレーリョス三世が、それを見越して、小麦相場に大々的な先物の空売りをかけたらどうなるかしら? あたしのいいたいこと、わかる?」

     アグリコルス博士はまだぴんとこなかったようだった。植物のことはよく知っていても、この街を動かす商売、いや、すでに「経済」と呼ぶべきものについては、博士はまったくの無知も同然だった。

    「今年の冬から春に渡って買い占めの契約を結んでいたイルミール派の小麦は暴落。莫大な負債を背負ったサシェル男爵閣下は……首を吊っていなければ路上で物乞いね」



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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくさん

    お読みくださりありがとうございます。

    学生のころはこういうノリのRPGがやりたかったんですが、三十年前には少数派で……(今もだ(^^;))

    NoTitle

    本日はここまで。

    ま、長いお話ということなんで。
    ヘタな感想は、逆に失礼かと思いますので控えますけど、
    でも、つい次、次と読ませる展開は「さすが!」です。

    Re: 椿さん

    わたしの小説では、老人というのはけっこうタフだったりします。(^_^)

    博士はこれからとんでもない目に遭わされ続けますが、どうかお楽しみください。ふっふっふっ(笑)

    NoTitle

    多くの人を救える! と善意でやっている博士の行動が、一人の人を致命的に追い込む。

    いや、追い込まれる側にあんまり同情できる要素はないんですが、それでも皮肉な状況ですね。

    誰かを破滅させるなんて思ってもいなかった博士の今後が心配;;

    Re: しのぶもじずりさん

    某小室なんとか氏もあれだけ稼いで今はアレですからねえ。

    大勝負の後で人間がどうなっているかなんてわからない、ある種の銀英伝的展開?(そうか?)
    • #7986 ポール・ブリッツ 
    • URL 
    • 2012.05/11 07:59 
    •  ▲EntryTop 

    お金持ちは大変ね

    庶民な私は、安くて美味けりゃ芋でも小麦でもありがたい、としか思えませんが、
    お金持ちって 心配が多くて大変なのね。

    サシェル閣下、頭が病気な上に、経済的なピンチ。
    お気の毒です。ん? 

    Re: 土屋マルさん

    読み直してみると、犯罪小説というか、「おれは冒険小説が書きたかったんじゃあ!」という気概にあふれてますねこの小説。

    これから事態は二転三転四転するのでよろしく~♪

    ジョークで「ポール・ブリッツ集団ペンネーム説」などと前に書いたのですが、ほんと、エドさんや昔話シリーズを書いているときの自分と、この手の小説を書いているときの自分はまったく別人のように思えます。(笑)


    ……器用貧乏?(^^;)

    面白いです!
    確かにこのお話は、ファンタジーというよりは犯罪小説、と呼んだ方がしっくりくるようなダークな香りがしますね♪
    ポールさんって、改めてすごいです。
    これを書いた人がエドさんを書いたなんて、ちょっと信じられない‥‥サギだ(笑)

    そしてそして。
    なるほど、こういうことだったのか~。
    このお芋が市場に出回ったら、男爵の小麦は大打撃‥‥ここにきて「沈黙の秋」というタイトルとの関連が見え隠れしてきて、続きがとっても楽しみです♪

    またお邪魔します~。

    Re: 秋沙さん

    おお、なんかアグリコルス博士人気者ですね。農業の「アグリカルチャー」から名前を取ったんですけど。

    サシェルがこのまま黙って引っ込んでいるわけがないですからねえ。

    ナミも男爵家の甘い汁を本格的にすすりにかかるのはこれからですからねえ。

    ちなみに原稿は火曜日のぶんまでしかできていない。だいじょうぶかわたし(^^;)

    NoTitle

    なーるほど、そういう事でしたか!!

    この博士のいかにも学者らしい、世間ズレしたところが可愛い(笑)。
    そして、骸骨がなんだか間抜けで笑える。

    さぁ、ナミはこの後、どんな悪知恵を披露してくれるのかしら?
    予想がつかないなぁ。

    Re: ネミエルさん

    ここでサシェル・イルミール男爵が破産してしまったら面白くないではないですか(^^)

    まだ全体の1/8くらいしか進んでいないのに。

    これでもっとわたしの書くスピードが速ければ……じっと手を見る。

    おぉ、変態ぷすぷす男爵閣下は破産ですか!

    いい話だなぁ

    博士、応援してますよ!

    Re: limeさん

    ヴェルク・ガレーリョス三世くんも、まだ若いですが、けっこう狡猾なのであります。もしかしたらイルミール家に「沈黙の夏」の情報を流したのも、彼かもしれませんよ(^^)

    陰謀がうまくはまれば救民の英雄のうえ、対立勢力は極貧化、これでなんのかんのと信望を得ているエリカ・バルテノーズと結婚して侯爵家を継げば、労せずして「終末港」の富は全部自分のものです。もしかしたら帝国の中央に行けるチャンスかもしれません。

    わたしだったらこんなギャンブルをちらつかされたら喜んで乗ってしまいます。

    で、ナミみたいな悪い奴に骨までしゃぶられてしまう、と……(^^)

    ここまではすぐに展開が読めるでしょうけど、これからをお楽しみに。

    Re: ぴゆうさん

    腕が立って頭が切れてしかも自分のピンチを教えてくれたような人間、普通の偉い人なら警戒するところですが、サシェル・イルミール男爵は超がつくほどの吝嗇漢なのであります。

    これからナミがどう行動するかは続きをお楽しみに(^^)

    そういや明日は10月10日、運動会の日だなあ。

    ひさしぶりに範子と文子の三十分的日常を書こうか(要するにまだできてない(爆))。

    NoTitle

    なるほど、経済的観点からの「敵」だったわけですね。
    思い付かなかった。
    ああ、やっぱり馬鹿なんだ(T^T)

    しかし、骸骨男、先見の明があったんですね。
    ちょっと悔しい。
    さて、この芋、どうする?
    さすがにサシェルでも、封じ込めたりはできないでしょうね。

    NoTitle

    なーる。
    相場とは化け物ですね。
    多いに儲ける者あれば、大損をする者あり。
    ナミの考えがわからないけど、この情報で骸骨男爵は命拾いするよね。
    信用するようになるのかな。
    それも怪しいし。

    先が楽しみなことだけは確か。

    覚え書き

    実際に商業貴族と呼ばれるような豪商は、こんな事態になっても困らないように、いくつもの事業に分散して投資を行い、リスクを回避していたのですが、この小説のサシェル男爵は、早期のうちから「沈黙の夏」が来ることを予想していて、千載一遇のチャンスとばかりに全財産を小麦に張ってしまったのであります。それにより経済力で完全にガレーリョス家を圧倒し、「終末港」の支配権を握るつもりだったのですが、それが裏目に出た、というところです。

    ということを「7」で書きますが、ツッコミを恐れて今解説してしまう気弱な男でありました(笑)。
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