「範子と文子の驚異の高校生活(ギャグ掌編小説シリーズ・完結)」
範子と文子の三十分的日常(ギャグ掌編小説・完結)
範子と文子の三十分的日常/十月・体育祭
「雨だね、範ちゃん」
「そうね。でも、体育祭ができるんだからいいじゃない」
「いいじゃないって……」
文子は周囲を見回した。
やたらと広大な屋内競技場であった。
「いいでしょ? 宇奈月財閥が総力を挙げて作った、ドーム式屋内競技場。今日は、そのこけら落とし第二回使用として、紅恵学園系列の幼稚舎から高校まで、全部合わせた合同体育祭よ」
「大学は?」
「少なくとも、うちの大学では体育祭はしないわね」
「でも……落ち着かないなあ。こんな贅沢な設備だらけのところで体育祭をやるなんて、人倫に反しているんじゃないかなあ。いったい、設備使用料だけでいくらかかっているの、範ちゃん?」
「そこは心配しなくても大丈夫よ」
範子は断言した。
「税金対策だから」
「範ちゃん」
「なあに?」
「今の言葉で、読者の九割を敵に回したんじゃないかなあ、よくわからないけど」
「文子さえ味方だったらほかの全人類が敵でもかまわないわよ、わたしは」
「またわけのわからないことを」
会場アナウンスが鳴った。
「ほら、文子、わたしたちの番が来たわよ」
「二人三脚だったよね」
「せっかく、二人で力を合わせるんだし、一位を取りましょう、文子」
「あのね、範ちゃん」
文子の声が少し小さくなった。
「どうしたの?」
「けさ、夢を見たんだ」
「夢?」
「そうだよ。わたしと範ちゃんが、一緒に、長い長い冒険の旅に出かけるっていう夢だったんだ」
「へえ。わたしも同じような夢を見たわ。二人三脚の前に見る夢としては、最高じゃないの。それで、冒険の旅は無事に終わったの? わたしのほうは、ロマンチックな終わりかたの夢だったけど」
文子の声はさらに小さくなった。
「……うん。諸悪の根源である悪魔を倒したんだけど、その過程で……ふたりとも……」
「ふたりとも?」
「ロマンチックっていうのかなあ? ふたりとも、永遠に夜空のお星様になっちゃうんだ……」
あっはっは、と範子は笑った。
「文子、それって、絶対、宮沢賢治の『よだかの星』の影響よ。わたし、三日前に読んだもの。でも、そこまでおんなじ夢っていうのもすごいわね。ふたりの間には、どこかでシンクロニシティーがあるのかもしれないわ」
「でもさ、この屋内競技場、新築でしょ? この不況下で、もしかしたら手抜き工事でもあって、屋根でも崩れて大惨事、とかいう予兆の夢だったら……」
「大丈夫よ、大丈夫。わたしたちが、二人三脚でトップになって、学校のスターになるって夢に決まってるんだから。さ、早く集合場所に行って、足を縛るわよ」
二人三脚は会場のトラックを一周するという方法で行なわれた。トラックは二重になっている内側のものを使用するのだが、なにしろ会場がだだっ広いだけにトラックも長い。
足首を縛って肩を組んだ二人は、スタートラインで緊張した面持ちで号砲を待っていた。
ピストルが鳴った。
二人は駆け出した。
「一、二!」
「一、二!」
二人のコンビネーションはすばらしいものだった。やはり気心の知れた友人同士である。
ぶっちぎりの速さで最終コーナーを回った。
その瞬間。
二人の足がつるりと滑った。
止める間もなく、二人は顔面から地面に突っ込んでいった。
「範ちゃん……」
「なあに、文子……?」
「あれ、予知夢だったね……」
「ほんとね……」
ふたりは、半ば朦朧とした頭の中で、飛び回る星を確かに見たのであった。
「そうね。でも、体育祭ができるんだからいいじゃない」
「いいじゃないって……」
文子は周囲を見回した。
やたらと広大な屋内競技場であった。
「いいでしょ? 宇奈月財閥が総力を挙げて作った、ドーム式屋内競技場。今日は、そのこけら落とし第二回使用として、紅恵学園系列の幼稚舎から高校まで、全部合わせた合同体育祭よ」
「大学は?」
「少なくとも、うちの大学では体育祭はしないわね」
「でも……落ち着かないなあ。こんな贅沢な設備だらけのところで体育祭をやるなんて、人倫に反しているんじゃないかなあ。いったい、設備使用料だけでいくらかかっているの、範ちゃん?」
「そこは心配しなくても大丈夫よ」
範子は断言した。
「税金対策だから」
「範ちゃん」
「なあに?」
「今の言葉で、読者の九割を敵に回したんじゃないかなあ、よくわからないけど」
「文子さえ味方だったらほかの全人類が敵でもかまわないわよ、わたしは」
「またわけのわからないことを」
会場アナウンスが鳴った。
「ほら、文子、わたしたちの番が来たわよ」
「二人三脚だったよね」
「せっかく、二人で力を合わせるんだし、一位を取りましょう、文子」
「あのね、範ちゃん」
文子の声が少し小さくなった。
「どうしたの?」
「けさ、夢を見たんだ」
「夢?」
「そうだよ。わたしと範ちゃんが、一緒に、長い長い冒険の旅に出かけるっていう夢だったんだ」
「へえ。わたしも同じような夢を見たわ。二人三脚の前に見る夢としては、最高じゃないの。それで、冒険の旅は無事に終わったの? わたしのほうは、ロマンチックな終わりかたの夢だったけど」
文子の声はさらに小さくなった。
「……うん。諸悪の根源である悪魔を倒したんだけど、その過程で……ふたりとも……」
「ふたりとも?」
「ロマンチックっていうのかなあ? ふたりとも、永遠に夜空のお星様になっちゃうんだ……」
あっはっは、と範子は笑った。
「文子、それって、絶対、宮沢賢治の『よだかの星』の影響よ。わたし、三日前に読んだもの。でも、そこまでおんなじ夢っていうのもすごいわね。ふたりの間には、どこかでシンクロニシティーがあるのかもしれないわ」
「でもさ、この屋内競技場、新築でしょ? この不況下で、もしかしたら手抜き工事でもあって、屋根でも崩れて大惨事、とかいう予兆の夢だったら……」
「大丈夫よ、大丈夫。わたしたちが、二人三脚でトップになって、学校のスターになるって夢に決まってるんだから。さ、早く集合場所に行って、足を縛るわよ」
二人三脚は会場のトラックを一周するという方法で行なわれた。トラックは二重になっている内側のものを使用するのだが、なにしろ会場がだだっ広いだけにトラックも長い。
足首を縛って肩を組んだ二人は、スタートラインで緊張した面持ちで号砲を待っていた。
ピストルが鳴った。
二人は駆け出した。
「一、二!」
「一、二!」
二人のコンビネーションはすばらしいものだった。やはり気心の知れた友人同士である。
ぶっちぎりの速さで最終コーナーを回った。
その瞬間。
二人の足がつるりと滑った。
止める間もなく、二人は顔面から地面に突っ込んでいった。
「範ちゃん……」
「なあに、文子……?」
「あれ、予知夢だったね……」
「ほんとね……」
ふたりは、半ば朦朧とした頭の中で、飛び回る星を確かに見たのであった。
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~ Comment ~
税金対策と言えば雪国からハワイ行く推理小説です。
こけら落とし第2回って1回目前に出てきましたっけ。
そして靴を脱いで入る新しい施設は大抵非常に滑りやすい。哀れ二人とも。
目の前に星が飛ぶ、俗語では「ピヨる」と言うのです。
こけら落とし第2回って1回目前に出てきましたっけ。
そして靴を脱いで入る新しい施設は大抵非常に滑りやすい。哀れ二人とも。
目の前に星が飛ぶ、俗語では「ピヨる」と言うのです。
- #2327 トゥデイ
- URL
- 2010.10/11 18:13
- ▲EntryTop
Re: 矢端想さん
まあ作者のわたしが若いおにゃのことおしゃべりしたくて書いているようなシリーズですから。
同人誌では、ブラックですが、こういうしょーもないギャグ小説がやたらと多い人間だったりします(^^)
というかほかの小説でネコをかぶっているという話も(笑)
西部劇小説難しいでありますなあ。今は中井紀夫先生の「能なしワニ」シリーズを読んで勉強中……だってテキストがそれしかないんだもん(^^)
同人誌では、ブラックですが、こういうしょーもないギャグ小説がやたらと多い人間だったりします(^^)
というかほかの小説でネコをかぶっているという話も(笑)
西部劇小説難しいでありますなあ。今は中井紀夫先生の「能なしワニ」シリーズを読んで勉強中……だってテキストがそれしかないんだもん(^^)
NoTitle
オチ、くだらないけど良かったです。
こういうのも好きですね。
物語の途中でくだらなくブツッと終わっちゃう。
落語っぽいというか。
ちゃんとネタふりを受けたオチになってますしね。
深く考えちゃいけない、息抜きにちょうどいい好シリーズですね。
こういうのも好きですね。
物語の途中でくだらなくブツッと終わっちゃう。
落語っぽいというか。
ちゃんとネタふりを受けたオチになってますしね。
深く考えちゃいけない、息抜きにちょうどいい好シリーズですね。
Re: ネミエルさん
これまでの「三十分一本勝負」シリーズでは、基本的にひどい目に遭うのが範子ちゃんと文子ちゃんだけだったのでムチャもできましたが……。
というかわたしそんなに破滅的なエンディングの話ばかり書いてたっけ(^^;)
というかわたしそんなに破滅的なエンディングの話ばかり書いてたっけ(^^;)
Re: ミズマ。さん
だってこの規模で崩落事故なんか起きたらえらいことに。
「範子文子」シリーズは感受性豊かなかたでも安心して楽しめるシリーズを目指しております(笑)
「税金対策」はやっぱりNGワードだったかなあ。
「範子文子」シリーズは感受性豊かなかたでも安心して楽しめるシリーズを目指しております(笑)
「税金対策」はやっぱりNGワードだったかなあ。
NoTitle
よかった。
いつものこのシリーズだと体育館とかが崩れて
うわーってなるところだと思ったのですが・・・
おもったより平和でよかったです
いつものこのシリーズだと体育館とかが崩れて
うわーってなるところだと思ったのですが・・・
おもったより平和でよかったです
- #2314 ねみ
- URL
- 2010.10/10 23:06
- ▲EntryTop
NoTitle
どんな恐ろしいオチが待っているのかと思ったら^^
安心致しました。
二人らしいオチですねー。
しかし税金対策…。なんかちょっと胸にもやもやとしたものが広がるような気が、しないでもなかったりして。
安心致しました。
二人らしいオチですねー。
しかし税金対策…。なんかちょっと胸にもやもやとしたものが広がるような気が、しないでもなかったりして。
- #2313 ミズマ。
- URL
- 2010.10/10 20:48
- ▲EntryTop
Re: limeさん
ちょうど「7」との境目だし、いいかな、と思いまして。
明日だったら晴れてくれたんですけどね~、関東は(^^)
ひどい崩壊って……これ、「範子文子」シリーズですよ(^^;)
さすがに死人を出すわけには(^^;)
わたしもいってみたいです、「税金対策」。
さて、また明日から殺伐とした陰謀の世界へ逆戻りか……(^^)
明日だったら晴れてくれたんですけどね~、関東は(^^)
ひどい崩壊って……これ、「範子文子」シリーズですよ(^^;)
さすがに死人を出すわけには(^^;)
わたしもいってみたいです、「税金対策」。
さて、また明日から殺伐とした陰謀の世界へ逆戻りか……(^^)
NoTitle
あ!ほんとうに運動会で戻ってきましたね!
ちゃんと約束を守るポールさん。
でも、よかった~。
ぜったいこのあと酷い崩壊が待ってると思ったから。
かわいらしいお星様でほっと一安心。
しかし、「税金対策」・・・言って見たい・笑
ちゃんと約束を守るポールさん。
でも、よかった~。
ぜったいこのあと酷い崩壊が待ってると思ったから。
かわいらしいお星様でほっと一安心。
しかし、「税金対策」・・・言って見たい・笑
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Re: トゥデイさん
こけら落とし2回目というのは、第1回から学校の運動会だの体育祭だのでこんな施設使うと、さすがに近隣から文句だの苦情だの革新系団体のデモだとかが起こるからであります(笑) 当然ですがそれは月見と今回の体育祭の間に起こっているので小説には出てきておりません。
ピヨるには、星のほかに鳥まで飛ばなければなりませんが、今回は鳥は飛んでいないもので……(^^)