「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第一部 沈黙の秋
紅蓮の街 第一部 9-3
「終末港の掌握は、母上の悲願でもありましたからね」
息子の言葉に、ヴァリアーナ夫人はうなずいた。
「そうですよ、ヴェルク。お祖父様は、すんでのところまでその目的を達しようとしたところで、あの憎きバルテノーズ家の妨害により失敗し、死ぬまであの家を呪い続けておられました」
唇を噛み締め、憤怒に震えるヴァリアーナ夫人を、ヴェルク三世はその柔らかな声でなだめた。
「母上のお怒りはもっともです、しかしバルテノーズ家も、もう長くはありません。現段階で、イルミールの差し金により計画は思わぬところで停止しておりますが、時間の問題です」
「クワルス芋はいつ来るのかえ?」
「一週間後です、母上。それに、標本はこちらが握っております。イルミールのやつらにできることは、時間を稼ぐことだけにすぎません」
ヴァリアーナ夫人は、いらいらとした調子で指先をさすり合わせた。
「そうだといいのであるがねえ、ヴェルク。こたびのアグリコルス博士誘拐の手際のよさといい、誰か頭のいい男か女かが、イルミールの参謀に回っているのではないかと、妾には思えるのじゃ」
ヴェルクは一笑に付した。
「考えすぎですよ、母上。それはもちろん、噂だけなら、イルミールのもとに、どこのものとも知れぬ流れ者の女が現れ、あっという間にサシェル・イルミールの干物男に取り入ったと聞いておりますが、それだけの話です。ご心配には及びますまい。手口から考えれば、その証拠の消しかたからも考えればですが、『下り龍』号を襲ったのは、あの『彫刻屋のガス』とその一党であることは火を見るよりも明らかです」
「『彫刻屋』……あの裏切り者め! どうしてお前の父はあの男を逃がすなどというヘマをしたのじゃ!」
ヴァリアーナ夫人の癇癪に、ヴェルク三世は苦笑いで答えた。
「わが父、ヴェルク二世は、そのあたりが手ぬるいことでは有名なかたでしたからね。幼少時から、わたしは幾度、父の座に座っていたなら、と思ったことか」
ヴェルク三世の顔が真顔になった。
「しかし、今のわたしと、ガレーリョス家は違います。ガレーリョス家は、先例など無視し、野心と才能ではちきれんばかりに膨れ上がった者たちを積極的に兵として加えてきました。その中には、弁舌でヨルバとコセルをしのぐものや、金銭の面でイルミールのどんな商人よりも勘定に長けているものまで混じっています。さらに武力ではイルミール家を凌駕することおびただしい。そして……」
ヴェルク三世は言葉を切った。

息子の言葉に、ヴァリアーナ夫人はうなずいた。
「そうですよ、ヴェルク。お祖父様は、すんでのところまでその目的を達しようとしたところで、あの憎きバルテノーズ家の妨害により失敗し、死ぬまであの家を呪い続けておられました」
唇を噛み締め、憤怒に震えるヴァリアーナ夫人を、ヴェルク三世はその柔らかな声でなだめた。
「母上のお怒りはもっともです、しかしバルテノーズ家も、もう長くはありません。現段階で、イルミールの差し金により計画は思わぬところで停止しておりますが、時間の問題です」
「クワルス芋はいつ来るのかえ?」
「一週間後です、母上。それに、標本はこちらが握っております。イルミールのやつらにできることは、時間を稼ぐことだけにすぎません」
ヴァリアーナ夫人は、いらいらとした調子で指先をさすり合わせた。
「そうだといいのであるがねえ、ヴェルク。こたびのアグリコルス博士誘拐の手際のよさといい、誰か頭のいい男か女かが、イルミールの参謀に回っているのではないかと、妾には思えるのじゃ」
ヴェルクは一笑に付した。
「考えすぎですよ、母上。それはもちろん、噂だけなら、イルミールのもとに、どこのものとも知れぬ流れ者の女が現れ、あっという間にサシェル・イルミールの干物男に取り入ったと聞いておりますが、それだけの話です。ご心配には及びますまい。手口から考えれば、その証拠の消しかたからも考えればですが、『下り龍』号を襲ったのは、あの『彫刻屋のガス』とその一党であることは火を見るよりも明らかです」
「『彫刻屋』……あの裏切り者め! どうしてお前の父はあの男を逃がすなどというヘマをしたのじゃ!」
ヴァリアーナ夫人の癇癪に、ヴェルク三世は苦笑いで答えた。
「わが父、ヴェルク二世は、そのあたりが手ぬるいことでは有名なかたでしたからね。幼少時から、わたしは幾度、父の座に座っていたなら、と思ったことか」
ヴェルク三世の顔が真顔になった。
「しかし、今のわたしと、ガレーリョス家は違います。ガレーリョス家は、先例など無視し、野心と才能ではちきれんばかりに膨れ上がった者たちを積極的に兵として加えてきました。その中には、弁舌でヨルバとコセルをしのぐものや、金銭の面でイルミールのどんな商人よりも勘定に長けているものまで混じっています。さらに武力ではイルミール家を凌駕することおびただしい。そして……」
ヴェルク三世は言葉を切った。
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Re: ぴゆうさん
よし、来月の「範子文子」は、みんなでお茶を飲む話にしよう!
……来月まで待つんかい!(^^;)
予定は予告なく変えられることがあります(爆)
……来月まで待つんかい!(^^;)
予定は予告なく変えられることがあります(爆)
NoTitle
まぁ、鬼畜親子がとらたぬ話に盛り上がる事。
いやだ、いやだ。
すっかり喉が渇いちまった。
ポール、お茶でも飲みたいやねぇ。

いやだ、いやだ。
すっかり喉が渇いちまった。
ポール、お茶でも飲みたいやねぇ。

- #2393 ぴゆう
- URL
- 2010.10/21 20:05
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