「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第一部 沈黙の秋
紅蓮の街 第一部 10-1
10
「誰が来るかね」
サシェルは今やすっかり大きい顔をしてイルミール家の客分となったナミに訊ねた。
「ガレーリョスのほうから? オルロス伯ではないわね。あいつが来たら、殺してくださいといっているも同然だものね」
ガスが口を挟んだ。
「口だけでなく、腕にも覚えがある男でしょう。いつ殺されるかもわからないようなわれらの屋敷に乗り込むのだから、死ぬことも厭わないようなやつではないかと」
「すると、人間も限られてくるわね」
ナミは指を折った。
「強力無双で鳴る、『戦牛』のゴグ、誠実な男でどんな贈賄もきかず、剣を持たせれば百人を斬るといわれる『老鷲』ツァイ、その場で奇策を考えさせたら右に出るものがいない、『いかさま賽』のトイス、この三人のうちの誰かでしょうね」
「同意見だな」
ガスはうなずいた。
「どうしてそこまで?」
サシェルは事の成り行きがまだのみこめていなかった。
「簡単なことです、男爵閣下」
ガスは胃薬の調合の講釈でもするように答えた。
「この三人のうちの誰でも、わたしとナミがついていたとしても、下手をすれば男爵閣下と武器を持たずしても刺し違えることができるかもしれない、ということです」
サシェル・イルミールの骸骨めいた口が大きく開いた。
「そ、そんなやつらが来るのか!」
「そんなやつらって、脅すくらいあたしにだってできたでしょ。軍隊と自警団を押さえて、しかも人材に金を惜しまないガレーリョス家だもの、それくらいの人材はいるわよ」
「もしかしたら、こちらの知らない人間かもしれません。そうだとしたら、かなりまずいですね。敵がどう来るかわからない」
「わ、わたしは嫌だぞ、死ぬのは、死ぬのだけは絶対に嫌だぞ」
ナミは苦笑いした。
「この世に生まれてきた人間のうち、誰か死ぬことから無縁なやつがいて? 人間、いつかは死ぬのよ。それが早いか遅いかの違いはあるけどね。だったら、短い人生の少ない機会をものにして、目もくらむような大きなものを手に入れるほうがいいんじゃないの? あたしだったら、絶対そっちを取るけどね。こんな『帝国』中央にとっては、要するに金だけ送ってくれればいい、みたいな港町で一生を送るより、男だったら、『敬都』の有力貴族になってみたい、そうは思わないの? だとしたら、男爵、あなたにはついてるべきものがついてないのね」
「口を慎めよ、ナミ」

「誰が来るかね」
サシェルは今やすっかり大きい顔をしてイルミール家の客分となったナミに訊ねた。
「ガレーリョスのほうから? オルロス伯ではないわね。あいつが来たら、殺してくださいといっているも同然だものね」
ガスが口を挟んだ。
「口だけでなく、腕にも覚えがある男でしょう。いつ殺されるかもわからないようなわれらの屋敷に乗り込むのだから、死ぬことも厭わないようなやつではないかと」
「すると、人間も限られてくるわね」
ナミは指を折った。
「強力無双で鳴る、『戦牛』のゴグ、誠実な男でどんな贈賄もきかず、剣を持たせれば百人を斬るといわれる『老鷲』ツァイ、その場で奇策を考えさせたら右に出るものがいない、『いかさま賽』のトイス、この三人のうちの誰かでしょうね」
「同意見だな」
ガスはうなずいた。
「どうしてそこまで?」
サシェルは事の成り行きがまだのみこめていなかった。
「簡単なことです、男爵閣下」
ガスは胃薬の調合の講釈でもするように答えた。
「この三人のうちの誰でも、わたしとナミがついていたとしても、下手をすれば男爵閣下と武器を持たずしても刺し違えることができるかもしれない、ということです」
サシェル・イルミールの骸骨めいた口が大きく開いた。
「そ、そんなやつらが来るのか!」
「そんなやつらって、脅すくらいあたしにだってできたでしょ。軍隊と自警団を押さえて、しかも人材に金を惜しまないガレーリョス家だもの、それくらいの人材はいるわよ」
「もしかしたら、こちらの知らない人間かもしれません。そうだとしたら、かなりまずいですね。敵がどう来るかわからない」
「わ、わたしは嫌だぞ、死ぬのは、死ぬのだけは絶対に嫌だぞ」
ナミは苦笑いした。
「この世に生まれてきた人間のうち、誰か死ぬことから無縁なやつがいて? 人間、いつかは死ぬのよ。それが早いか遅いかの違いはあるけどね。だったら、短い人生の少ない機会をものにして、目もくらむような大きなものを手に入れるほうがいいんじゃないの? あたしだったら、絶対そっちを取るけどね。こんな『帝国』中央にとっては、要するに金だけ送ってくれればいい、みたいな港町で一生を送るより、男だったら、『敬都』の有力貴族になってみたい、そうは思わないの? だとしたら、男爵、あなたにはついてるべきものがついてないのね」
「口を慎めよ、ナミ」
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