「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第一部 沈黙の秋
紅蓮の街 第一部 10-2
ガスがあきれたようにいった。ナミの無礼な言動にはもう慣れてしまったのだ。
「でも、そうだものね。これは、否定できない事実よ。サシェル男爵、あなたの前には、ごく細い道だけど、『敬都』への道がつながっている……」
「これからガレーリョスと腹を割って話し合わねばならんというのに、よくもそんなことがいえるな、ナミ」
サシェルが口調だけは重々しくいった。
「腹を割る?」
ナミは爆笑した。
「あなたの口から、そんな台詞が出てくるとはね、サシェル・イルミール男爵。どんなときにでも、たとえ転んだって小銭かなにかをつかまなければ起き上がってこないような人が、なにを弱気なことをいっているのよ」
「アグリコルス博士はガレーリョス家に返す。その返礼として、なにがしかの金銭を要求する。それがナミ、お前がこの前いおうとしていたことだろう?」
ガスはナミのいっている意味がわからない、とでもいいたげだった。
ナミは首を振った。
「やれやれ……あれでわかると思ったんだけど、もしかしたら、あたしが仕えているのは実はよほどのバカかよほどの正直者なのかしら」
「口を慎めといったはずだぞ、ナミ」
ガスは低い声でいった。
そんなことで動揺するようなナミではなかった。
「いいこと」
ナミは人差し指を一本立てた。
「ガレーリョス家がアグリコルス博士ひとりにいくら金銭を積んだところで、それは微々たるものにすぎないわ。あたしが狙っているものは、もっと大きなものよ」
「大きなものだと?」
「そうよ。サシェル男爵、男爵はこの街の法律には、当然詳しいわよね」
サシェル・イルミールは、急に話をそらされて困惑した。
「あ、ああ、わたしは法律については専門家だ」
「商法については?」
「馬鹿にするでない。わたしはこれでも、『終末港』でいちばんの富を持っている家の当主だぞ」
「それなら、あたしがなにをいいたいかはわかりそうなもんじゃない」
ナミは笑った。
「新種の作物、もしくは家畜が運ばれてきた場合、それに対して利権を主張できるものの条件はなにかしら、サシェル・イルミール男爵?」
「利権を主張できるのは、その作物ないし家畜について、市場に行き渡るのに十分な量を最初に持ってきた人間ないし組織だ」
「じゃ、わかったも同然じゃない」

「でも、そうだものね。これは、否定できない事実よ。サシェル男爵、あなたの前には、ごく細い道だけど、『敬都』への道がつながっている……」
「これからガレーリョスと腹を割って話し合わねばならんというのに、よくもそんなことがいえるな、ナミ」
サシェルが口調だけは重々しくいった。
「腹を割る?」
ナミは爆笑した。
「あなたの口から、そんな台詞が出てくるとはね、サシェル・イルミール男爵。どんなときにでも、たとえ転んだって小銭かなにかをつかまなければ起き上がってこないような人が、なにを弱気なことをいっているのよ」
「アグリコルス博士はガレーリョス家に返す。その返礼として、なにがしかの金銭を要求する。それがナミ、お前がこの前いおうとしていたことだろう?」
ガスはナミのいっている意味がわからない、とでもいいたげだった。
ナミは首を振った。
「やれやれ……あれでわかると思ったんだけど、もしかしたら、あたしが仕えているのは実はよほどのバカかよほどの正直者なのかしら」
「口を慎めといったはずだぞ、ナミ」
ガスは低い声でいった。
そんなことで動揺するようなナミではなかった。
「いいこと」
ナミは人差し指を一本立てた。
「ガレーリョス家がアグリコルス博士ひとりにいくら金銭を積んだところで、それは微々たるものにすぎないわ。あたしが狙っているものは、もっと大きなものよ」
「大きなものだと?」
「そうよ。サシェル男爵、男爵はこの街の法律には、当然詳しいわよね」
サシェル・イルミールは、急に話をそらされて困惑した。
「あ、ああ、わたしは法律については専門家だ」
「商法については?」
「馬鹿にするでない。わたしはこれでも、『終末港』でいちばんの富を持っている家の当主だぞ」
「それなら、あたしがなにをいいたいかはわかりそうなもんじゃない」
ナミは笑った。
「新種の作物、もしくは家畜が運ばれてきた場合、それに対して利権を主張できるものの条件はなにかしら、サシェル・イルミール男爵?」
「利権を主張できるのは、その作物ないし家畜について、市場に行き渡るのに十分な量を最初に持ってきた人間ないし組織だ」
「じゃ、わかったも同然じゃない」
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Re: ネミエルさん
正確には、ナミは自分の財布の味方です(笑)。