「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第一部 沈黙の秋
紅蓮の街 第一部 10-3
「わからんね」
つぶやいたのはガスだった。
「今の法解釈がどうあれ、利権を主張できるのは、アグリコルス博士を有するわれわれじゃない。あくまでも、これから芋を運び込むガレーリョス家とその一党だ」
「わたしもそう考えた。だから、ガレーリョスからそれなりの金を……」
いいかけたサシェル・イルミールの目が、大きく見開かれた。
「ナミ、お前という女は、まさか……」
ナミは唇を歪めて笑った。
「わかってきたようじゃない」
「どういうことなのですか、男爵?」
ナミは、頭の悪い子供にでもいい聞かせるようにひとことひとこと発音した。
「いいこと? こちらには、アグリコルス博士がいる。それがないと、ガレーリョス家はほぼなにもできない。こっちも、アグリコルス博士だけではなにもできない、けれど、失うものが少ない以上、こちらのほうが強気な交渉ができる。こちらから出す条件は、『小麦の利権の半分をやるから、クワルス芋の利権の半分をよこせ』これ以外には存在しないわ」
サシェルは、利にさといその頭で、めまぐるしい速さの損得計算をしていた。その計算に先回りするかのように、ナミが言葉を続ける。
「もしこれをガレーリョスに飲ませることができたら、終末港の支配者は、サシェル男爵、あなたになったも同然よ。なぜなら、あなたには、基本的な財力がある。小麦の利権については、今のような暴騰は終わるだろうし、暴落になるかもしれないけれど、それでも人は芋だけでは口が淋しくなり、パンを求めるようになる……そのとき、現物を押さえておいたものがどれだけ有利かは、あなたでなくてもわかるでしょう?」
「しかしナミ、小麦相場の危険性を主張したのはお前だぜ」
ガスが不服そうにいった。
ナミはうなずいた。
「だからこそ、ガレーリョスに交換条件として、半分だけ小麦の利権をくれてやる必要があるのよ。そうすれば、彼らも小麦相場の一翼を担うことになるから、下手な動き方はできなくなる。小麦相場が崩壊すれば、彼ら自身も窮するんだから……表向きはね」
「表向き?」
ガスはまだついていけないようだった。
「ナミ、お前がいいたいのはこういうことだろう。ガレーリョス家とその派閥は、相場は知っていても、それをどう扱えばいいのかをわたしらイルミールの者ほどは知らん。そこでガレーリョスに小麦の利権の半分を与えておいて、すかさずこちらは空売りにかかる……秘密裏に」
サシェルの目が、金銭欲にらんらんと輝きつつあった。

つぶやいたのはガスだった。
「今の法解釈がどうあれ、利権を主張できるのは、アグリコルス博士を有するわれわれじゃない。あくまでも、これから芋を運び込むガレーリョス家とその一党だ」
「わたしもそう考えた。だから、ガレーリョスからそれなりの金を……」
いいかけたサシェル・イルミールの目が、大きく見開かれた。
「ナミ、お前という女は、まさか……」
ナミは唇を歪めて笑った。
「わかってきたようじゃない」
「どういうことなのですか、男爵?」
ナミは、頭の悪い子供にでもいい聞かせるようにひとことひとこと発音した。
「いいこと? こちらには、アグリコルス博士がいる。それがないと、ガレーリョス家はほぼなにもできない。こっちも、アグリコルス博士だけではなにもできない、けれど、失うものが少ない以上、こちらのほうが強気な交渉ができる。こちらから出す条件は、『小麦の利権の半分をやるから、クワルス芋の利権の半分をよこせ』これ以外には存在しないわ」
サシェルは、利にさといその頭で、めまぐるしい速さの損得計算をしていた。その計算に先回りするかのように、ナミが言葉を続ける。
「もしこれをガレーリョスに飲ませることができたら、終末港の支配者は、サシェル男爵、あなたになったも同然よ。なぜなら、あなたには、基本的な財力がある。小麦の利権については、今のような暴騰は終わるだろうし、暴落になるかもしれないけれど、それでも人は芋だけでは口が淋しくなり、パンを求めるようになる……そのとき、現物を押さえておいたものがどれだけ有利かは、あなたでなくてもわかるでしょう?」
「しかしナミ、小麦相場の危険性を主張したのはお前だぜ」
ガスが不服そうにいった。
ナミはうなずいた。
「だからこそ、ガレーリョスに交換条件として、半分だけ小麦の利権をくれてやる必要があるのよ。そうすれば、彼らも小麦相場の一翼を担うことになるから、下手な動き方はできなくなる。小麦相場が崩壊すれば、彼ら自身も窮するんだから……表向きはね」
「表向き?」
ガスはまだついていけないようだった。
「ナミ、お前がいいたいのはこういうことだろう。ガレーリョス家とその派閥は、相場は知っていても、それをどう扱えばいいのかをわたしらイルミールの者ほどは知らん。そこでガレーリョスに小麦の利権の半分を与えておいて、すかさずこちらは空売りにかかる……秘密裏に」
サシェルの目が、金銭欲にらんらんと輝きつつあった。
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~ Comment ~
NoTitle
ふむ。
ここまでだと、ナミちゃんの言うとおりって感じですね。
でも、ナミちゃんが普通にこの骸骨を儲けさせておいて、そのわけまえと謝礼をもらって、どうもありがとう、って終わらせるわけはないですよねぇ?(^^;
いやはや、すごいです、ポールさん。
ここまでだと、ナミちゃんの言うとおりって感じですね。
でも、ナミちゃんが普通にこの骸骨を儲けさせておいて、そのわけまえと謝礼をもらって、どうもありがとう、って終わらせるわけはないですよねぇ?(^^;
いやはや、すごいです、ポールさん。
Re: ぴゆうさん
ナミがここでなにを狙っているのかについては、第一部終わりまでにはなんとか明確な形にしたいと思います。
ですからそれまでお待ちください。
しかしそのさらに下の部分については、第二部にならないとわからないと思います。
いろいろと企んでます、ナミは。
ですからそれまでお待ちください。
しかしそのさらに下の部分については、第二部にならないとわからないと思います。
いろいろと企んでます、ナミは。
NoTitle
知恵のある悪魔。
怖いねぇ~~
ナミのどん欲さ。
太った骨にでもさせようというのかな。
骸骨の太った骨はしゃぶり甲斐がありそうだね。
キモーーー
怖いねぇ~~
ナミのどん欲さ。
太った骨にでもさせようというのかな。
骸骨の太った骨はしゃぶり甲斐がありそうだね。
キモーーー
- #2415 ぴゆう
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- 2010.10/25 20:00
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Re: 秋沙さん
搾り取るときにはみんなから平等に、がナミのモットーですので(^^)