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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 4-2

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    第四章 遅れてきた男(承前)


     パジャマに着替えた速水昇が戻ってきたのは、十一時四十五分を回ったころだった。なるほど、時間には正確だ。
    「先生……」
     わたしは胸をどん、と、叩いた。
    「大丈夫です。わたしに任せてください。必ずやあなたを安眠させてみせます」
    「お願いします」
     小さなライトを一つ残して、すべての照明が消された。
     隣で、速水昇の細君のベッドに腰かけ、眠るのを待った。
     どうにか寝付くまで三十分ほどかかった。
     わたしは精神を集中させて、頭の中に正六角形をイメージした。色を変えながら回転させていき……。
     速水昇の夢の中へと入った。

     わたしは砂浜に立っていた。短パンにランニング姿だ。
     速水昇の立場にわたしが立たされているらしい。鏡を物象化させて自分の面を見る。思ったとおりだ。速水昇の顔をしていた。
     四方を見渡した。単調な風景である。
     女はどこだ? それらしい姿はなかった。わたしを警戒しているのだろうか。
     歩いてみようか。ふと、そう思ったが、かぶりを振った。女が出てくるまで、ここでこうして待つべきであろう。
     強い日差しにもかかわらず、それほど暑さは感じない。やっぱり夢である。だが、立ち尽くしていると額から汗が垂れてきた。
     目をしばたたいた。
     その瞬間だった。
     女が現れた。
     その姿は、速水昇が説明してくれたとおりだった。
     真紅のボディスーツに、野性美とでもいうべき顔貌。肉感的な唇。抜群のスタイル。
     そして手に持った拳銃。
     女はわたしにゆっくりと銃口を向けた。
     わたしは叫んだ。
    「君っ! やめろっ! 銃をしまって話し合おうじゃないか!」
     女の眉がひそめられた。
     その手に力がこもるのがわかる。
     銃が火を噴いたとき、わたしは自分から砂浜に突っ伏していた。弾丸はどうやらさっきまでわたしの胸があったあたりを通り過ぎていったらしい。
     そのまま、ごろごろと地面を転がる。身体をかすめるようにして銃弾が飛んでくるのがわかった。
     銃声は突然やんだ。
     わたしは片膝をついて身を起こした。
     女と視線が合った。驚愕している。
    「違う。あの人じゃない。あなた……何者?」
     いつの間にかわたしはいつもの白衣を身にまとっていた。見るわけにもいかないが、顔も元に戻っていたのだろう。
    「拳銃を見境もなくぶっ放すよりは他の方法を考える男だ」
     戸惑ったような声に苛立ちが混ざった。
    「冗談をいうのはやめて」
     確かに、この場にはふさわしくない。わたしは正直に名乗った。
    「桐野という者だ」
    「桐野……? もしかしてあなた、ナイトメア・ハンター?」
     今度、戸惑うのはわたしのほうだった。
    「なぜ、それを?」
     女はため息をついた。
    「後で話すわ。それよりも今は、あなたが引き起こした事態をなんとかするべきね。さ、早く逃げましょう」
     わたしが引き起こした事態だと? それから逃げる?
     女は猛然と海を背にして走り出した。わたしも慌てて追いかける。
    「おい、それはどういう?」
    「……来たわ。海を見て」
    「海を?」
     わたしは振り返った。
     なんの変哲もない海だ。なんの変わりも……。
     待て。この異様で禍々しい波のパターンはどうしたことだ? いつの間にか、極彩色の輝きが海面を覆っている。
     これは?
     わたしは息を呑んだ。逃げ出したくなるのもわかる。それもよく!
    「あれよ」
     海面がぐぐっと持ち上がった。自分が見ているものが信じられない。
     巨大な粘液生物!
    「こんなデカブツ、現実世界にあふれ出したらディゾルブしても勝てるかどうか……」
    「ディゾルブ?」
    「そんなことも知らないの? あなた、モグリのナイトメア・ハンターじゃないの?」
    「そんなことはわたしにこの能力をくれたやつにいってくれ」
     わたしは全力疾走しながら脳細胞をフル回転させて、善後策を考えた。
     戦う。それ以外にない。息を切らせながら訊ねた。
    「ところで……、質問が……、あるんだが」
    「なによ!」
    「あの、化け物の、弱点は、なんだ?」
    「知るわけないでしょう!」
     ごもっとも。それでもなんとかしなくてはならない。
     わたしは立ち止まって、医学の知識を総動員して、物象化を始めた。女が叫ぶ。
    「なにをやってるのよ!」
     海からしぶきを撒き散らしながら怪物が上がってくる。
     わたしは、手中の「それ」を、怪物めがけて投げつけた。それほど肩が強いわけではないが、ここまで大きな身体を持つものが相手なら、外すことはなかった。
    「食われるわ!」
     怪物がのしかかろうとしてくる。わたしはくびすを返して逃げ出した。だが、相手のほうが移動の速度が速かった。
     追いつかれる……。
     と、思ったとき、怪物の動きが止まった。小山のようだった身体から急に力が抜け、ただの液体と化して焼け付くような砂浜に吸い込まれていった。
    「あなた……なにをしたの?」
    「ニコチン」
     駆け寄ってきた女に、わたしはそう答えた。
    「え?」
    「煙草に含まれるアルカロイドだ。アルカロイドでわからなければ、神経毒の一種と思ってくれればいい。高濃度のアルコール溶液を見たことがある」
     今回作ったのも、その溶液の入ったガラス瓶だった。
    「効き目があるかどうかは半信半疑だったが、うまく効果を発揮してくれてよかった」
    「無茶するわね」
    「ところで」
     女の手から銃が消えていることを目で確認しつつ、わたしは、かつて大学の射撃部だったころに愛用していた散弾銃、ヘッケラー&コッホ・HK502を物象化させた。
    「君は誰なんだ。どうして速水昇のことを撃った」
    「答えなければだめ?」
    「当たり前だ。わたしにまで引き金を引いたんだからな。だが、そちらは不問にしておくことにしよう」
     これで立場が逆になった。いつでも発砲できるのがわたし、ということだ。わたしはそうそう撃たないが。
    「この距離での、散弾銃の効果を試してみる、なんてことはやめたほうがいい。人間が、タルタル・ステーキになってしまうからな」
     女の額に、汗がにじんだ。
    「もう一度聞く。君は何者だ。もし君もナイトメア・ハンターだったら、どうして速水昇を撃った!」
    「あの化け物を外に出さないためよ。あの人を撃つことにより、夢の中で死んだと思わせて、とりあえずこの夢を終わらせる。そうすれば、あの化け物が外に出ることだけは回避できるから」
    「外?」
    「そんなことも知らないの。まったく、とんでもないナイトメア・ハンターね」
    「では、殺そうというつもりではなかったのか」
    「あたりまえじゃない」
    「そうか」
     わたしは散弾銃を消した。
    「?」
    「『桐野メンタルヘルス』。毎日午後一時から開いている。住所は電話帳で調べてくれ。『各種療法』の欄を開けば載っているから。現実世界で君と話がしたい。来てもらえれば歓迎しよう」
    「そちらがあたしのもとにくるのが普通じゃないの?」
    「手当たり次第に女性に住所を聞くのはわたしの趣味に反するのでね」
    「現実世界のほうが、たっぷりと話せる、ってこと。わかったわ。ヒマを見つけて、あなたのところへ行くことにする。それじゃあね、桐野さん」
     女は夢から出て行ったようだった。わたしも夢から出ることにしよう。
     頭の中で意識を集中させ、出ることを強く念じる。出る……出る……出る……。
     暗い部屋の中で、ぼんやりと意識を取り戻した。頭を振り、時計を眺める。あれからさらに三十分経った計算になるか。
     わたしは壁にもたれ、今度こそ本気で眠ることにした。

     鼻歌を歌いながら事務所の掃除をした。男所帯にウジがわく、というが、そういう評判は自分のアパートにとどめておきたい。人と会うところだけでもきれいにしておかなければ、そのうち本格的に飯の食い上げになりかねない。
     けさ、速水昇は、こちらが恐縮してしまいかねないほどの喜びを表してくれた。まったく、なんの夢も見ずにぐっすりと朝まで安眠できたのは本当に久しぶりのことだという。わたしとしてはもっと嬉しいことに、報酬にまでいくらか色をつけてくれた。貧乏人にはありがたい話である。
     ひととおりゴミを吸い取ってから掃除機をしまうと、わたしはいつものとおり受付の電話の前に座って来る当てもない客を待った。
     月遅れの医学雑誌をぱらぱらとめくってみたが、どうもいまいち気分が乗らない。観念して目をつぶり、やっぱりきつねどん兵衛よりは赤いきつねだな……たまには気分を変えて、明日の昼飯はカレーヌードルかチリトマトにでもしてみるか……などと人の健康に携わるものとしてあるまじきことを考えていると、戸口の外で車が止まる気配がした。
     反射的に体勢を立て直して本を片付ける。チャイムが鳴り、扉が開いた。
     そこにいたのは。
    「桐野先生ですか?」
     か細い声。車椅子。
     速水鈴音に間違いなかった。
    「どうなさいました、鈴音さん……でしたね? まさか、あなたも、悪夢を?」
    「えっと……あの、あたし、その……」
    「?」
    「拳銃を見境なしに……」
    「!」
    「ぶっ放さない人とお話に来たんです」
    「き、君が、あの……?」
    「ナイトメア・ハンターです……」
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    だってテーブルトークロールプレイングゲームだもん元は。

    基本システム「ナイトメアハンター・ディープ」さえ手に入れれば、あなたも今日からナイトメアハンターだ!(^^)

    えええー!?

    あの妖艶な女性が鈴音ちゃん!?
    ナイトメアハンターって孤独なのかと思っていましたが…かなり同士や広がりがあるんですね…!

    いや、ますます面白くなってきました!

    >佐槻勇斗さん

    そういやあ最近どん兵衛も赤いきつねも食べてないなあ。今度買ってこようかなあ。

    あの夢の中での鈴音ちゃんは、鈴音ちゃんの潜在的な願望が形になったもの……ということにしておいてください(^^)

    いや参考のために買った新ルールではいろいろと変更点があって登場人物の設定にも苦しんだものでして。鈴音ちゃんはその影響をもろに食らっております(^^;)

    ここらへんからはそうしたルールブックの後づけ設定がぼんぼん書かれることになるので呆れられずに……(^^;)

    桐野先生、まさかの佐槻と好みが一緒です。
    どん兵衛よりやっぱり、赤いきつねですよね(どうでもいい

    夢の中で出会った彼女が実は鈴音ちゃんだったなんて!
    見た目にギャップがあり過ぎな気がww

    毎度読むのが遅くて申し訳ないですm(_ _)m
    また来ます!
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