FC2ブログ

    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第一部 沈黙の秋

    紅蓮の街 第一部 11-4

     ←紅蓮の街 第一部 11-3 →紅蓮の街 第一部 12-1
    「交渉か……あんなあくどいやつらから、あのなんとかいう偉い博士を奪い返すんだろう。だったら、思い切って暴れまくってやっちまえばいいのに」

     ゴグは、さも無念だといわんばかりにそういった。

    「そう考えるのは決して間違ったことではないが、今はそれを心の中だけにしまっておけ。いいか、おれたちが下手なことをすると、やつらはアグリコルス博士を殺すだろう。それだけは絶対に避けよ、というのがオルロス伯のご命令だったはずだ」

    「そうだけどさ」

     ゴグは馬車の中で狭苦しそうに身じろぎをした。

    「馬鹿正直に向かって行ったら、やつら、どんな条件を出してくるかわからないぜ、兄貴。むちゃくちゃなことをいい出してきたらどうすればいいんだ?」

     ツァイは薄く笑った。

    「暴れるのは、それからでもいいだろう、ということだ、ゴグ。それにな、おれは、やつらが物柔らかに出てくるのではないかと思っている」

    「どういうことだい、兄貴」

    「アグリコルス博士を押さえていても、博士だけではやつらの利益にはならん。とはいえ、博士と、今度オルロス伯の船が持ってくる作物とがいっしょになれば、その利権は莫大なものになる。そのくらいのことは、あの悪辣なイルミールのことだ、博士から聞き出しているだろう。あの吝嗇家のサシェルの外道が、そんな儲け話を前にして、黙ってみすみす見逃すと思うか?」

    「うんにゃ」

     ゴグは首を振った。

    「やつらとしては、アグリコルス博士をわれわれに売りたくてしかたがないのだ。この場合だったら、身代金を取って解放する、というやつだな。そうとう高額になるだろうが、オルロス伯は、かなりの額までは出す、といっておられた。いくらになるかはおれたちの交渉しだいだ」

     オルロス伯爵ヴェルク・ガレーリョス三世が、金貨十万枚までなら呑め、といっていたのを思い出して、ツァイは身が震える思いを味わった。オルロス伯の厚情に感動したのではない。自分の雇い主がどんな人間かはよく知っている。オルロス伯は、『金貨十万枚の痛手までならなんとかイルミール家から取り返せる』と踏んでいるに違いない。それが、いったいどんな苛烈で容赦ないものになるのか、おそらくその陣頭に立って戦うはめになるだろうツァイには、容易に想像がついたのだった。

    「とにかく、イルミールのやつらは悪い。よその船を襲って人をさらうなんて、なんて悪いやつらなんだ。そんなやつらに、一銭もくれてやることはないよ、兄貴」

     馬車はイルミール邸の前で停まった。



    関連記事
    スポンサーサイト



     関連もくじ一覧 ▼ 
    総もくじ 3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ 3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ 3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ 3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    総もくじ 3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 風渡涼一退魔行
    もくじ  3kaku_s_L.png 鋼鉄少女伝説
    総もくじ  3kaku_s_L.png ほら吹き大探偵の冒険(児童文学)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 夢逐人(オリジナル長編小説)
    総もくじ  3kaku_s_L.png 残念な男(二次創作シリーズ)
    総もくじ  3kaku_s_L.png ショートショート
    総もくじ  3kaku_s_L.png 紅探偵事務所事件ファイル
    総もくじ  3kaku_s_L.png 銀河農耕伝説(リレー小説)
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png リンク先紹介
    もくじ  3kaku_s_L.png いただきもの
    もくじ  3kaku_s_L.png ささげもの
    もくじ  3kaku_s_L.png その他いろいろ
    もくじ  3kaku_s_L.png SF狂歌
    総もくじ  3kaku_s_L.png 剣と魔法の国の伝説
    もくじ  3kaku_s_L.png 映画の感想
    もくじ  3kaku_s_L.png 家(
    もくじ  3kaku_s_L.png 懇願
    もくじ  3kaku_s_L.png TRPG奮戦記
    もくじ  3kaku_s_L.png 焼肉屋ジョニィ
    もくじ  3kaku_s_L.png ご意見など
    もくじ  3kaku_s_L.png おすすめ小説
    【紅蓮の街 第一部 11-3】へ  【紅蓮の街 第一部 12-1】へ

    ~ Comment ~

    Re: fateさん

    よくブログのトップに、「駄文」だとか「つまらない作品ですが」だとか「三流以下の作品」などと書く人がよくいますが、本人は謙遜のつもりかも知れませんが、ものすごく読者に対して失礼なことを書く人がいますよね。

    わたしそういうのが嫌いでして。

    本屋で積まれている小説の帯に、「駄作」と書かれていたとしたら、誰が手に取るものか、と。

    夢枕獏先生みたいに、毎回あとがきに「この小説は、絶対に面白い」と書くくらいの気概があって初めて、人様に読んでもらえる可能性が出てくるのではないかと。

    それに、「わたしの小説は面白いんだ」とメンタルな面で自分のやる気を高めることで、実際に小説も面白くなるのではないかと。

    異論反論はいろいろあるでしょうが……。

    山本まさゆき先生も歌っておられますが、

    「カラ元気でも元気!」

    なのであります。

    お互いの思惑が交錯し…

    「渾身の力で書きました。損はさせません(^^)」

    ↑ポールさんの、この作品に賭ける意気込みと言うか、愛情が伝わってきますね。

    良いなぁ、fateはそこまで言える作品を描いてないや。
    チクショー、fateも何かやってみたいわ~


    Re: 蘭さん

    作者が、善玉悪玉はっきりとわかれた小説でなく、「犯罪小説」とか「暗黒小説」とかをイメージして書いていますから、そこのところで割り切れないものを感じてしまうのでしょうね。

    とにかく、ツァイもツァイでかなりあくどい策略も練りますし(本人はそんな自分に嫌悪感を感じていますが)、ゴグもゴグですぐに暴力的になる男です。

    そして、この街は、そんな知力体力の双方での「あくどさ」とか「暴力性」をどこかで身につけていないと、たちまちのうちに利用されるか殺されるかしてしまう世界なわけであります。

    逆にいえば、そこらへんの才覚で自信がある人間にとっては、無限の成功への扉が開かれている世界なので、そこが「帝国」でも有数の、三十万、という人間を養っていける理由でもあるわけであります。

    ちなみに、この街に暮らす三十万の人間のうち、生きて来年の夏の陽を拝めるのは……ふふふのふ(←我ながら最低だ(^^;))

    こんんちは^^

    読んでて頭がパニクって来る。
    この話に、善人はいないのか?と思いながら読んでると、ツァイやゴグのような人間が出て来る。
    しかし、奉公先があくど過ぎて、決して「善人」には見えなくなって来る。

    哀し過ぎます、この話は。
    哀しいというよりも残酷か。

    でも何故かやめられない。次が読みたくなる。
    行き着く先は何処なのか。果たして誰が生き残って行けるのか確かめたくなる。
    不思議なお話。

    ・・・また来ます。

    Re: LandMさん

    まあ世の中の半分以上は妥協でできていますからね……。

    彼らがどんな妥協を見せるのか見せないのか、続きをお楽しみに。

    NoTitle

    交渉は妥協であり、妥協なき人生はあり得ない。
    我々は人間であり、人と人との間に生きる者たちなのだから。
    …という言葉を思い出しますね。
    なかなか勉強になります。
    どうも、LandMでした。

    Re: ネミエルさん

    二人とも、「悪知恵」がナミよりも少し低い、まっとうな人間なんですよねえ。

    明日からの交渉をお楽しみに……って原稿まだできてないし(汗)。

    うんにゃが可愛い

    ゴグさんもツァイさんも場に任せる

    そんなタイプですね
    管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    卜ラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【紅蓮の街 第一部 11-3】へ
    • 【紅蓮の街 第一部 12-1】へ