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    「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
    第一部 沈黙の秋

    紅蓮の街 第一部 12-4

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     ガスの顔色は、恐怖のあまりか怒りのあまりか蒼ざめていた。

     ここぞとばかりにツァイはたたみかける。

    「なだれ込んできたのが少数だったことが幸いしてか、イルミールの兵は全滅し、手引きしたガス殿は捕らえられた。ヴェルク二世伯爵閣下はガス殿を殺したかったろうが、仁慈に富むヴェルク二世伯爵閣下はそうしなかった。ガス殿、どこまでも卑劣なあなたはそれを利用した。どうやってか閉じ込められていた牢を抜け出すと、そのままイルミール家に走り、私兵となり、そして挙げ句の果てには衛兵隊長にまで出世した。素晴らしい出世ぶりですな」

     ガスは暗いまなざしでツァイを見た。

    「ツァイ殿、あなたは噂とは程遠い人のようだ。だがそれについてどうこういうのはなしにしよう。ひとことだけいわせてもらえば、おれは」

     ガスは、自分を指す言葉がいつしか『おれ』になっているのにも気がつかないようだった。

    「おれは、あんたが思う以上にヴェルク・ガレーリョス二世という人を尊敬している。あの人こそまことの人間だ。そして、おれを拾ってくれたハシャク・イルミールという人も同様に尊敬している。それ以外のことはしゃべらない、とおれは誓った」

    「では、今の話にはひとかけらの真実もない、と?」

    「あんたが話したことは全て真実だ。しかし、さっきいったとおり、おれはそれ以上のことは話さない」

     ガスは顔を引きつらせて笑った。

    「それよりも、ガレーリョス家のかたがたには、もっと焦眉の急があるのではないですかな?」

     ナミは、さっとガスのほうを見た。

     ガスは、気にせずに続けた。

    「なんでも、ガレーリョス家の船を襲った海賊は、ガレーリョスの紋章のついた箱を持ち出していったとかいかなかったとか……」

     今度、仮面のような顔になるのはツァイのほうだった。ゴグは面食らったようにツァイとガスの双方に視線を往復させている。

    「中にはさぞや面白いものが詰まっていたのでしょうなあ……食道楽で鳴るオルロス伯爵閣下のこと、パンにつけると美味なるものなどとか」

    「ほほう、それは面白い。わたしはチーズには目がありませんでな」

     ツァイとガスは互いに白々しく笑った。

    「兄貴……?」

     ゴグを無視して、二人は相手を見た。

    「それでは、お互いに?」

    「異存はないですな」

     ツァイとガスは互いの手を握り合った。交渉成立のしるしだった。

     使者の二人を送り出した後、ガスは手水鉢で手を何度も何度も念入りに洗った。



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    ~ Comment ~

    Re: ひゃくさん

    わたしはいつもどんな話を書いていると思われているのだ(笑)

    そんなに前衛的な話を書いているつもりはないんだけれど……(^^;)

    いや中にはあるか(笑)

    NoTitle

    寄り道して、頭がそっちにばっかりいっちゃってるんで(笑)、
    今日はここまでにしたいと思います。

    ここまで読んで思い返すと、ポール・ブリッツさんって、
    意外に(意外とか言っちゃうと失礼なんでしょうけど)正攻法にお話を進めるタイプなんですね。
    ちょっと意外(また言ってるwww)でした。

    Re: fateさん

    人生経験なんて……(遠い目)

    芸術家の問題ですが、数奇な人生や苦悩の人生を送らないで済む人は、「芸術」よりもほかにやることがいっぱいあるからではないかと思います(^^)

    というか、そういう人はそういう人で、芸術を愛するなら「パトロン」をやってくれないと世の中のバランスが取れず芸術は発展しないもののような。(^^;)

    交渉術

    やはり、いろいろ勉強して、しかも、こういうハナシは人生経験がないと描けませんね~
    人間としての経験がないと重みが出ないですもんね。

    数奇な人生、苦悩の人生を送った人の方が芸術家としては優れているのは、天才と狂気は紙一重だからなんであろう。
    じゃあ、どっちを選ぶ? と言われたら、微妙ではありますね(^^;

    Re: limeさん

    >その箱には何が入ってたんでしょうね

    そうだよなあ6章でのやりとりなんて覚えている人そうはいないよなあ、としばしの間無力感を覚える今日この頃(^^;)

    やっぱり12枚ずつまとめて発表したほうがよかったのかなあ。でもそうすると、わたし絶対サボるしなあ……。

    何度も書いたように、ガスくんは当初の予定を大幅に上回る重要人物になりそうです。あくまでも予定ですから、気がついたら第二部冒頭で死んでいるかもしれません(笑)

    Re: ネミエルさん

    自分の思い出したくもないことをネチネチと指摘するやつを好きになれる人間はそうはいないと思います(笑)

    よほど怒ったみたいですねガスくん。

    NoTitle

    その箱には何が入ってたんでしょうね。
    芋とは別のなにか、相場を支配するもの?
    知られてはまずいもの。
    チーズではなさそうです。
    う~ん。

    このやり取りを見てて、今のところ私は一番ガスに贔屓です。

    NoTitle

    最後w
    ガスどんだけ嫌っているのかとw
    そう思っちゃうじゃないですかw

    どんだけ嫌いなんですかw
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