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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 4-3

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    第四章 遅れてきた男(承前)


     とりあえず扉に臨時休業の貼紙をし、速水鈴音に紙コップにクリスタルガイザーを注いでサービスした。まさかこんなに早く来るとは思わなかったのでソフトドリンクもお菓子も買っておかなかったのだ。不覚である。
    「学校はどうしました?」
    「先生、今日は土曜日ですよ」
     驚きのあまりとんちんかんなことを訊いてしまったらしい。わたしは、頭をかくと話を本筋に戻した。
    「本当に、君があの、ナイトメア・ハンターなんですか?」
    「はい」
    「信じられない……」
    「あたしは、『ディープルート』ですから」
     話が見えない。
    「『ディープルート』? それはなんなんです?」
    「『ディープルート』まで知らないんですか? 桐野先生、『レジェンド』なのに?」
    「伝説になった覚えはないですが」
    「伝説って……『レジェンド』も知らないの? 嘘ですよね、冗談ですよね、桐野先生」
     わたしは仏頂面でいった。
    「この面を持って生まれて来たときから、わたしの言葉を嘘ではないかといったのはあなたが初めてだ」
    「どこから話したらいいのかしら……まさかここまでとは……」
    「知らないものはどうしようもないでしょう」
    「そ、そうですね。桐野先生、自分の能力について、どこまでご存知ですか?」
     わたしは二、三秒考えた。
    「まず、わたしが夢の中に入れるということ。次に、限度はあるが、夢の中で自在にものが作れるということ。第三に、その能力を武器として、夢魔と戦わなければならないということ。そのくらいです」
    「間違ってはいませんね……」
    「自分のことですからね」
    「では、先生、超能力はなにをお持ちですか?」
     わたしはきょとんとした。
    「超能力?」
    「え?」
    「それは、この、夢の中に入るとかじゃなくて?」
    「ええ。そうです。夢の中で使う……」
    「さっき話したとおり、ものを作れるけれど」
    「そうじゃなくて、夢の中で使う、テレキネシスとかクレアボワイヤンスとか……」
    「持ってるわけないじゃないですか、そんなもの」
    「超能力を持っていない? それでどうやってディゾルブ後に……そうだった、先生、ディゾルブを知らないんだった」
     速水鈴音は頭を抱えた。頭を抱えたくなるのはこちらも同じだ。
    「ひとつひとつ説明してください。ディゾルブとはなんです?」
    「夢を現実世界に二重写しのようにすることです」
     なに!
    「夢を現実世界に二重写し! どうやったらそんなことが!」
    「ふつうのナイトメア・ハンターだったら誰でもできますよ」
    「でもそんな……夢のような話……」
     夢について話しているんだから当然だ、とわたしの心の中の皮肉屋がささやいたが、無視する。
    「できるんです。そうでもなければ、現実世界を侵食する夢魔の存在を認められないではないですか」
    「夢魔が現実世界を侵食する?」
    「知らないのですか?」
    「ええ。夢魔自身はその餌食とした人間の精神を喰らうだけで、現実世界になんらかの影響を及ぼすことはないはずですが」
    「それでは、その考えも改めてください。夢魔はその宿主、あたしたちはそれを『レミング』と呼んでいますが、その精神を喰らいながらゆっくりと現実世界にも影響を及ぼして、この世界をも悪夢の領域に取り込もうとしているのです」
    「……」
     知らなかった。だが信用できる話なのか。
     いや。待て。
     上里詩穂は実際に電話をかけてきたではないか。夢と現実の境目が薄くなっていても、おかしくはない。
     信じるべきだろう。
    「超能力というのは?」
    「さっき話したとおり、夢の中で使える、特殊な能力です」
    「どうして昨晩はあの化け物に使わなかったんですか」
    「戦闘向きの能力ではないからです。あたしが使えるのはダウジングの能力ですから」
    「ダウジング? 夢の中でそんな能力を使ってどうなるんです?」
    「説明が足りませんでしたね。夢の中だけではなく、ディゾルブしたら、現実世界でも使えます」
    「やってみてくれませんか」
    「ディゾルブはそう安易に行うものではありません」
     疑うべきなのかもしれないが、速水鈴音の表情は真剣で、そんな小賢しい態度を拒否するようなものがあった。わたしは、信じてみることにした。
    「しかし、夢魔が現実世界まで出てくるとは、やつらもいよいよこちらの世界に食指を伸ばしてきたわけですね」
    「まあ、人間がいる限り、どうしようもありません」
    「そうでしょうね」
     と、答えて、ふとなにかが頭の隅にひっかかった。
    「人間がいる限り? それは、やつらをその住処に押さえ込んでおくことができない、ということですか?」
    「押さえ込む? そんなこと、できるわけがないでしょう」
    「できるわけがない?」
    「当たり前です。夢魔は、人間の心の闇が生み出すものなのですから」
    「人間の心の闇……」
     医者に、こともなげにお前の病気はガンだと宣告された感じがした。
     信じられない。
     信じたくない。
    「嘘だ」
    「え……?」
    「夢魔は人間の精神エネルギーを喰らいに異次元からやってくるエネルギー生命体だ。人間が生み出すものじゃない」
    「桐野先生……」
    「帰っていただけませんか」
     もし、夢魔は人間が生み出すものだとしたら、医者はなにができるというのだ。人間として生きている限り、避けようがないものなのであれば、医者には。
     わたしは黙り込んだ。なにも、いいたくなかった。
     速水鈴音はポケットに手を入れると、女物のメモ帳を取り出した。ちびた鉛筆でなにやら書くと、ページの一枚を破り取る。
    「先生、よければ後でこちらにいらしてください。あたしの、『フェロー』、仲間がいます」
     失礼します、と、速水鈴音は車椅子のタイヤを回して部屋を出て行った。
     わたしはひとり残された。

    「森村探偵事務所ですか。桐野です」
    『桐野さん? これはこれは。北村です』
     わたしがかけた電話に出たのは、なじみの男、北村だった。
    「調べてほしいことがあるんですが」
    『あらたまらなくてもいいですよ。それで、誰を調べるんです?』
    「ええと……」
     わたしは速水鈴音から受け取ったメモを読み上げた。
    「是蔵忠道。是正の是に忠臣蔵の蔵、ただみち、は、ちゅうどう、と書く。J大の教授だ。少なくともそういうことになっている。住所は……」
     北村がメモを取るのがわかった。北村は復唱した。
    「そうだ。なにか裏で変わったことをやっているようだったら教えてほしい。料金はいつもの口座に振り込んでおく」
    『わかりました』
    「それと……」
    『それと?』
    「わたしに、なにか夢に入るような仕事はないか」
    『今のところはないです』
    「見つかったら誘ってくれ」
    『ふところでも寂しいんですか』
    「金の問題じゃないんだ」
    『あったら連絡しましょう』
    「頼む」
     わたしは電話を切った。

     二日もすると、わたしもいくらかまともに考えられるようになってきた。
     人間の心が生み出す夢魔。
     現実世界を侵食する悪夢。
     夢を現実世界と二重写しにする能力。
     夢でナイトメア・ハンターが使う超能力。
     納得はしがたいが、理解はできる。
     ディゾルブか……。
     わたしは試みようとした。だが、悲しいかな、コツというか、やりかたを教えてもらっていないため、精神を集中しようにもどこに力点を置けばいいのかわからない。
     結局、今日も諦めざるを得なかった。
     それよりも大事なこともある。わたしは、生唾を飲み込みながら白い直方体を眺めていた。
     今日のカップ焼きそばはペヤングなのだ。滅多に安売りにならないので、たまにしか食べられない。
     時計を見て、時間が来たところでお湯を捨てた。蓋をぱかりと開け、ソースとからめてから青ノリを振る。
     箸を手に取った。
     いただきまーす。
     というところで、電話が鳴った。
    「はい。桐野メンタルヘルスです」
    『桐野さんですか? 北村です』
    「ああ。北村さん」
    『お時間はありますか?』
    「いくらでも」
    『仕事のお話と、調査結果のお話があります』
    「飯を食ったらすぐ行く」
     わたしは電話を切ると、焼きそばを欠食児童みたいにすすりこんだ。
     見せられた光景ではなかった。
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    「飢えて死ぬよりマシ」というのが桐野先生の哲学かと(笑)。

    次々と色々な謎と世界が解明されつつありますが…今一番気がかりなのは桐野先生の食生活です!!

    ちゃんとしたもの食べないと医者の不養生になりますよっ!!

    >佐槻勇斗さん

    北村さん、気に入っていただけたようでなによりです。
    彼のことはほんとは「アナウンサーみたいな顔」と書くよりは「逸見政孝みたいな顔」と書きたかったんですけど、イメージが崩れますかそうですか(^^;)
    そもそも、逸見政孝氏を知らないかな? 齢をよけいに食った気分(^^;)

    鈴音ちゃんの言う仲間との対面が気になります(゜ω゜)

    それにしても、抜群のタイミングで北村さん電話してきましたね笑
    彼が出てくると若干テンション上がる佐槻ですww
    次話に期待だ♪

    >神田夏美さん

    この章で書かれていたことがエンターブレインで出ているTRPG「ナイトメアハンター・ディープ」のルールブックに追加設定として書かれていたときは真っ青になりました。(^^;)
    なにせ今度ブログに発表するシリーズ第3弾を書き上げたのが一番早かったので(^^;) (書いたのは3→1→2の順)
    だからこの小説のここから先はそのルールとの辻褄あわせに終始しています。うまく行っていたらおなぐさみ。
    それともアフィリエイトであのルールブックの広告出して小金を……もうからないからやめます(^^;)

    ちなみに、最初の「注」にも書いたとおり、基本的な設定はあのゲームのルールを使っていますが、その他の主人公含む登場人物と事件と場所などは、全てわたしの創作ですので……。こう書くといいわけっぽくって後ろめたいなあううむ(^^;)

    新しいナイトメア・ハンターに新しい能力の説明。そして夢魔の出所の真実。色々なことが明かされてゆきますね。
    うーむこうして他のナイトメア・ハンターを見てみると、桐野は本当に何も知らないナイトメア・ハンターだったのですねえ……。それで今まで多くの危険を切り抜けてきたのは、桐野の冷静さと知恵がさすがというか。この上超能力まで使えたら最強になりそうですね(笑)
    「ディゾルブ」という能力が今後どのように活かされてゆくのか期待です。
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