「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第一部 沈黙の秋
紅蓮の街 第一部 14-1
14
「『彫刻屋』ともあろうものが、また妙なことを口走ってくれちゃったものね。そんなにあの老いぼれにいわれたことが心に突き刺さっちゃったの? らしくもないわ。たかだかガキの命じゃない」
一心に木片に聖なる同心円のシンボルを刻み込んでいたガスは、顔も上げずに答えた。
「お前になにがわかる」
「わかんないわよ。これから、おつむをめちゃくちゃに働かせないと、イルミール家は崖っぷちにまた一歩近づくことになりかねないんだから」
「どういうことだ? ナミ」
サシェルが口をかくかくさせて聞いた。
「ガスのバカがね、男爵の手にウンジョウソウの種子があることをしゃべっちゃったのよ。レーアという子供の名を出されただけで、なぜだか頭に血が上っちゃったのね」
「お前になにがわかる」
ガスは同心円をより美しく精密にするために、ナイフに加える力をいくらか加減した。
「ひとこといっておくがな、ナミ」
ガスは木屑をふっと吹き飛ばした。
「レーアという名はおれがつけたんだ」
ナミは首を振った。
「だからっていって、理性を失ってもいいって話にはならないわよ。それも交渉の席でね。どうするの? ガレーリョスの狼どもは、いっせいにこの邸を襲ってくるわよ」
「なにっ!」
サシェルの顔が蒼白になった。
「なにを驚いているのよ。ちょっと考えればわかりそうなもんじゃない。生のウンジョウソウの種子なんか持ってると、今の『帝国』の法律では、縛り首にしてくださいっていってるようなものよ」
「ど、どうしたらいい、ナミ」
サシェルの慌てぶりは滑稽だった。
「だからいったでしょ。あんなもの、とろ火で炒ってからパンにつけて食ってしまったほうが頭がいいって。でも、今となっては、手遅れね」
「なぜだ」
「アグリコルス博士がいるからよ。博士はいくらでも『帝国』の裁判官の前で証言してくれるでしょうよ、『このものの前で箱いっぱいに詰まったウンジョウソウの種子を見ました、箱の紋章? いいえ、覚えておりません』ってね」
「それでもこちらが種子をすべて処分していれば……」
「わかってないわね。男爵、あなた、金勘定は得意でも、陰謀となるとからっきしね。いいこと、こちらが種子を一粒も持っていなくても、向こうが小袋かなにかに種子を詰めてきて、この邸で見つけましたっていえばそれっきりじゃない」
サシェルの顔はいよいよ蒼くなった。

「『彫刻屋』ともあろうものが、また妙なことを口走ってくれちゃったものね。そんなにあの老いぼれにいわれたことが心に突き刺さっちゃったの? らしくもないわ。たかだかガキの命じゃない」
一心に木片に聖なる同心円のシンボルを刻み込んでいたガスは、顔も上げずに答えた。
「お前になにがわかる」
「わかんないわよ。これから、おつむをめちゃくちゃに働かせないと、イルミール家は崖っぷちにまた一歩近づくことになりかねないんだから」
「どういうことだ? ナミ」
サシェルが口をかくかくさせて聞いた。
「ガスのバカがね、男爵の手にウンジョウソウの種子があることをしゃべっちゃったのよ。レーアという子供の名を出されただけで、なぜだか頭に血が上っちゃったのね」
「お前になにがわかる」
ガスは同心円をより美しく精密にするために、ナイフに加える力をいくらか加減した。
「ひとこといっておくがな、ナミ」
ガスは木屑をふっと吹き飛ばした。
「レーアという名はおれがつけたんだ」
ナミは首を振った。
「だからっていって、理性を失ってもいいって話にはならないわよ。それも交渉の席でね。どうするの? ガレーリョスの狼どもは、いっせいにこの邸を襲ってくるわよ」
「なにっ!」
サシェルの顔が蒼白になった。
「なにを驚いているのよ。ちょっと考えればわかりそうなもんじゃない。生のウンジョウソウの種子なんか持ってると、今の『帝国』の法律では、縛り首にしてくださいっていってるようなものよ」
「ど、どうしたらいい、ナミ」
サシェルの慌てぶりは滑稽だった。
「だからいったでしょ。あんなもの、とろ火で炒ってからパンにつけて食ってしまったほうが頭がいいって。でも、今となっては、手遅れね」
「なぜだ」
「アグリコルス博士がいるからよ。博士はいくらでも『帝国』の裁判官の前で証言してくれるでしょうよ、『このものの前で箱いっぱいに詰まったウンジョウソウの種子を見ました、箱の紋章? いいえ、覚えておりません』ってね」
「それでもこちらが種子をすべて処分していれば……」
「わかってないわね。男爵、あなた、金勘定は得意でも、陰謀となるとからっきしね。いいこと、こちらが種子を一粒も持っていなくても、向こうが小袋かなにかに種子を詰めてきて、この邸で見つけましたっていえばそれっきりじゃない」
サシェルの顔はいよいよ蒼くなった。
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Re: limeさん
花屋でよく見かけるポピーはひなげしです(^^)
アヘンが含まれているけしとはまったく別の植物ですから怪しげなことは考えないように(^^;)
誰が誰をどう裏切るのか裏切らないのかはこれからをお楽しみください。15章16章は剣戟の嵐です。
アヘンが含まれているけしとはまったく別の植物ですから怪しげなことは考えないように(^^;)
誰が誰をどう裏切るのか裏切らないのかはこれからをお楽しみください。15章16章は剣戟の嵐です。
NoTitle
あっちにはツァイがいて、こっちにはナミがいる。
どっちに軍配があがるんでしょう。
狐と狸の化かし合い。
・・・どっちに味方すればいいんだろう。
成り行きを見守るしかなさそうですね。
もう、種、食べちゃいましょう・笑
そうか、ケシの種。
花屋でよく見かけるポピー。
あれの種からもアヘンは生成出来るんでしょうかね。
調べてみよう。
どっちに軍配があがるんでしょう。
狐と狸の化かし合い。
・・・どっちに味方すればいいんだろう。
成り行きを見守るしかなさそうですね。
もう、種、食べちゃいましょう・笑
そうか、ケシの種。
花屋でよく見かけるポピー。
あれの種からもアヘンは生成出来るんでしょうかね。
調べてみよう。
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Re: ネミエルさん
今でもちょっとどきどきしています。
でもナミにはああ以外のセリフを吐かせられなかったのであります(汗)
どこまでいてまえるかはわかりませんが、とにかくやるだけやります。