「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第一部 沈黙の秋
紅蓮の街 第一部 14-2
「では、どうすれば……」
サシェルはおろおろとナミとガスとの間で視線を往復させた。
「どうにかしようがあったら、おれがとっくになにかしゃべってますよ、男爵」
ガスは同心円のシンボルに最後のひと彫りを入れると、ポケットに収めた。完成したらしい。
「で、ではナミ、お前ならどうする?」
「あたし? あたしの場合、やることはひとつね」
「どうするのだ!」
サシェルは懇願するように声を大にした。
「金貨三百枚。それじゃ重たすぎるから、隣の部屋に置いてあるトパーズの胸飾りでいいわ」
「ナミ、貴様……わたしをからかうのも、いいかげんに……」
「あたしにそれくらいも払えないようじゃ、男爵はほんとに干物になる運命らしいわね」
「どういうことだ?」
ナミの真意を測りかねて、ガスは尋ねた。
「要するに、命を金で買えってことよ。もっとわかりやすくいうと、裁判官と検察官に対する、徹底的な贈賄ね」
一瞬、部屋の中を沈黙が支配した。ガスはもとから黙っていたから、その沈黙はサシェルの沈黙を意味した。
「……金がかかるぞ、ナミ」
「干物になりたいんならそれでもいいわ」
サシェルは叫んだ。
「金がかかりすぎるといっているのだ! お前も、わが家の財政の状況を知らぬはずではなかろうが! 小麦の相場にすべて張ってしまい、今やわが家は、ガレーリョスの芋の利権だけが頼りなのだぞ!」
ナミは肩をすくめた。
「借金したら?」
「こんな内情の貴族に誰が金を貸すというのだ! たわごとも休み休みいったらどうだ、ナミ!」
「もしも、あなたが芋の利権と小麦の利権を独り占めしたら、また状況も変わってくるわよ、サシェル・イルミール男爵閣下」
再び、部屋の中を沈黙が支配した。今度は、ガスもまた、サシェルと並んでぽっかりと口を開けていた。
「独り占め……できるわけなかろう、あのガレーリョス家が芋の利権を手放すはずがあるまい」
ナミはくすくすと笑った。
「そうよね、あの家は利権を自分から手放すような真似はしない」
ナミは人差し指を一本立てた。
「だったら、答えはひとつ」
「ナミ、まさかお前……」
先にナミのいいたいことに気づいたのはガスだった。その声は震えていた。
「そうよ。手放してくれないのなら、こっちから奪い取るまでよ」

サシェルはおろおろとナミとガスとの間で視線を往復させた。
「どうにかしようがあったら、おれがとっくになにかしゃべってますよ、男爵」
ガスは同心円のシンボルに最後のひと彫りを入れると、ポケットに収めた。完成したらしい。
「で、ではナミ、お前ならどうする?」
「あたし? あたしの場合、やることはひとつね」
「どうするのだ!」
サシェルは懇願するように声を大にした。
「金貨三百枚。それじゃ重たすぎるから、隣の部屋に置いてあるトパーズの胸飾りでいいわ」
「ナミ、貴様……わたしをからかうのも、いいかげんに……」
「あたしにそれくらいも払えないようじゃ、男爵はほんとに干物になる運命らしいわね」
「どういうことだ?」
ナミの真意を測りかねて、ガスは尋ねた。
「要するに、命を金で買えってことよ。もっとわかりやすくいうと、裁判官と検察官に対する、徹底的な贈賄ね」
一瞬、部屋の中を沈黙が支配した。ガスはもとから黙っていたから、その沈黙はサシェルの沈黙を意味した。
「……金がかかるぞ、ナミ」
「干物になりたいんならそれでもいいわ」
サシェルは叫んだ。
「金がかかりすぎるといっているのだ! お前も、わが家の財政の状況を知らぬはずではなかろうが! 小麦の相場にすべて張ってしまい、今やわが家は、ガレーリョスの芋の利権だけが頼りなのだぞ!」
ナミは肩をすくめた。
「借金したら?」
「こんな内情の貴族に誰が金を貸すというのだ! たわごとも休み休みいったらどうだ、ナミ!」
「もしも、あなたが芋の利権と小麦の利権を独り占めしたら、また状況も変わってくるわよ、サシェル・イルミール男爵閣下」
再び、部屋の中を沈黙が支配した。今度は、ガスもまた、サシェルと並んでぽっかりと口を開けていた。
「独り占め……できるわけなかろう、あのガレーリョス家が芋の利権を手放すはずがあるまい」
ナミはくすくすと笑った。
「そうよね、あの家は利権を自分から手放すような真似はしない」
ナミは人差し指を一本立てた。
「だったら、答えはひとつ」
「ナミ、まさかお前……」
先にナミのいいたいことに気づいたのはガスだった。その声は震えていた。
「そうよ。手放してくれないのなら、こっちから奪い取るまでよ」
- 関連記事
-
- 紅蓮の街 第一部 14-3
- 紅蓮の街 第一部 14-2
- 紅蓮の街 第一部 14-1
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作連載ファンタジー小説]
~ Comment ~
NoTitle
くるくるとよく回る悪知恵。
ナミが楽しんでいる。
完璧、手玉に取られている。
まったく、脳みそも腐ってないのかね。
どっちもキモイ。マザコン対骸骨。
さっさと、骸骨がバラバラになればいいのに。
次いでにマザコン野郎も。
ギッタンギッタンにしてくれーー。
ナミが楽しんでいる。
完璧、手玉に取られている。
まったく、脳みそも腐ってないのかね。
どっちもキモイ。マザコン対骸骨。
さっさと、骸骨がバラバラになればいいのに。
次いでにマザコン野郎も。
ギッタンギッタンにしてくれーー。
- #2511 ぴゆう
- URL
- 2010.11/09 20:41
- ▲EntryTop
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: ぴゆうさん
楽しみに待っていてくださいね~♪