「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第一部 沈黙の秋
紅蓮の街 第一部 14-3
「奪い取る……」
サシェルはこの発想の転換についていけなかった。
ナミはにやりとすると、立てた人差し指を左右に振ってみせた。
「そういうこと。ここで基本的なことを思い出してみましょうか」
指をガスに突きつける。
「『彫刻屋』さん。帝国法によれば、これまで知られていないような作物において、この終末港で利権を主張できるのは?」
「え……」
いきなりいわれて、ガスはとまどった。
「……利権を主張できるのは、その作物ないし家畜について、市場に行き渡るのに十分な量を最初に持ってきた人間ないし組織……じゃあなかったか? おれはそちらの法律はあまり詳しくないのでうろ覚えだが……」
「よくできました、『彫刻屋』さん」
「わかってきたぞ……」
サシェルが早口でしゃべり始めた。
「水揚げ前に、ガレーリョスの船を襲って乗っ取り、我が息のかかった港につけることができれば、法に定める『市場に行き渡るのに十分な量を最初に持ってきた人間ないし組織』は、我がイルミール家ということになる……ガレーリョス家は、まったく何も主張できない……」
サシェルの目が、熱に浮かされたかのごとくらんらんと輝き始めた。
「そして、こちらを攻めることに夢中になっているガレーリョス家は、わたしの家が逆襲に転じることなどまったく考えてもいないはず……」
「男爵閣下、相手はこちらの逆襲も考えに入れていると思いますが」
ガスが進言した。
サシェルは首を振った。
「やつらが警戒しているのは、こちらがウンジョウソウの種子を使って、なにかをしてくるということくらいであろう……名剣を奪おうとする者は、すぐそばによく研がれている鎌があったとしても、それに対して盲目になる……わたしの亡き父はよくそう語っていたものだ」
「ハシャク様が……」
ガスは黙り込んだ。
「わかったみたいね。敵はこの家の攻撃に全力を挙げてくるとあたしは読んだ。そして防備はやつらの本拠に固めるとも読んだ。それはそうよね、たぶんガレーリョスは船を一艘では行動させない、たぶん二、三艘の艦隊を組んでくるだろうから、それで防備は十分と踏んでいることでしょう。しかし、イルミールの私兵が総力を挙げれば、賭けはそう分が悪いものでもなくなるわ」
ナミは椅子に深々と腰かけた。
「トパーズの胸飾りはいただいていくわよ。それだけの献策はしたわ」
「しかし、まだひとつ問題があるぞ」

サシェルはこの発想の転換についていけなかった。
ナミはにやりとすると、立てた人差し指を左右に振ってみせた。
「そういうこと。ここで基本的なことを思い出してみましょうか」
指をガスに突きつける。
「『彫刻屋』さん。帝国法によれば、これまで知られていないような作物において、この終末港で利権を主張できるのは?」
「え……」
いきなりいわれて、ガスはとまどった。
「……利権を主張できるのは、その作物ないし家畜について、市場に行き渡るのに十分な量を最初に持ってきた人間ないし組織……じゃあなかったか? おれはそちらの法律はあまり詳しくないのでうろ覚えだが……」
「よくできました、『彫刻屋』さん」
「わかってきたぞ……」
サシェルが早口でしゃべり始めた。
「水揚げ前に、ガレーリョスの船を襲って乗っ取り、我が息のかかった港につけることができれば、法に定める『市場に行き渡るのに十分な量を最初に持ってきた人間ないし組織』は、我がイルミール家ということになる……ガレーリョス家は、まったく何も主張できない……」
サシェルの目が、熱に浮かされたかのごとくらんらんと輝き始めた。
「そして、こちらを攻めることに夢中になっているガレーリョス家は、わたしの家が逆襲に転じることなどまったく考えてもいないはず……」
「男爵閣下、相手はこちらの逆襲も考えに入れていると思いますが」
ガスが進言した。
サシェルは首を振った。
「やつらが警戒しているのは、こちらがウンジョウソウの種子を使って、なにかをしてくるということくらいであろう……名剣を奪おうとする者は、すぐそばによく研がれている鎌があったとしても、それに対して盲目になる……わたしの亡き父はよくそう語っていたものだ」
「ハシャク様が……」
ガスは黙り込んだ。
「わかったみたいね。敵はこの家の攻撃に全力を挙げてくるとあたしは読んだ。そして防備はやつらの本拠に固めるとも読んだ。それはそうよね、たぶんガレーリョスは船を一艘では行動させない、たぶん二、三艘の艦隊を組んでくるだろうから、それで防備は十分と踏んでいることでしょう。しかし、イルミールの私兵が総力を挙げれば、賭けはそう分が悪いものでもなくなるわ」
ナミは椅子に深々と腰かけた。
「トパーズの胸飾りはいただいていくわよ。それだけの献策はしたわ」
「しかし、まだひとつ問題があるぞ」
- 関連記事
-
- 紅蓮の街 第一部 14-4
- 紅蓮の街 第一部 14-3
- 紅蓮の街 第一部 14-2
スポンサーサイト
もくじ
風渡涼一退魔行

もくじ
はじめにお読みください

もくじ
ゲーマー!(長編小説・連載中)

もくじ
5 死霊術師の瞳(連載中)

もくじ
鋼鉄少女伝説

もくじ
ホームズ・パロディ

もくじ
ミステリ・パロディ

もくじ
昔話シリーズ(掌編)

もくじ
カミラ&ヒース緊急治療院

もくじ
未分類

もくじ
リンク先紹介

もくじ
いただきもの

もくじ
ささげもの

もくじ
その他いろいろ

もくじ
自炊日記(ノンフィクション)

もくじ
SF狂歌

もくじ
ウォーゲーム歴史秘話

もくじ
ノイズ(連作ショートショート)

もくじ
不快(壊れた文章)

もくじ
映画の感想

もくじ
旅路より(掌編シリーズ)

もくじ
エンペドクレスかく語りき

もくじ
家(

もくじ
家(長編ホラー小説・不定期連載)

もくじ
懇願

もくじ
私家版 悪魔の手帖

もくじ
紅恵美と語るおすすめの本

もくじ
TRPG奮戦記

もくじ
焼肉屋ジョニィ

もくじ
睡眠時無呼吸日記

もくじ
ご意見など

もくじ
おすすめ小説

もくじ
X氏の日常

もくじ
読書日記

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作連載ファンタジー小説]
~ Comment ~
NoTitle
おおおお。
11から一気にここまで読み申した~。
登場人物が増えてきて、容量の極端に少ない私のおつむは、かなりあっぷあっぷでございますが、まぁどうにか、ここまでのナミちゃんの悪巧みは理解できました(^^;
さて、何を言うんでしょう?
個人的には、ガスくんの過去が非常に気になります。
11から一気にここまで読み申した~。
登場人物が増えてきて、容量の極端に少ない私のおつむは、かなりあっぷあっぷでございますが、まぁどうにか、ここまでのナミちゃんの悪巧みは理解できました(^^;
さて、何を言うんでしょう?
個人的には、ガスくんの過去が非常に気になります。
Re: ネミエルさん
ナミは狡猾ですが、はたしてこの油断もすきもない中を生き残れるかどうか……次回につづくっ!(^^)
艦隊といっても、軍隊じゃないですから、中規模の船が2~3艘ですよ。それだけ船を持っているだけでもめちゃくちゃ富んでますが。
艦隊といっても、軍隊じゃないですから、中規模の船が2~3艘ですよ。それだけ船を持っているだけでもめちゃくちゃ富んでますが。
Re: 矢端想さん
はたしてどうなるか、これからをごらんください。
ちなみにわたしは「用心棒」も「荒野の用心棒」も「山猫の夏」も大好きです。特に「山猫の夏」を偏愛しています。
と書けばストーリーの大半がわかってしまうか……。
ちなみにわたしは「用心棒」も「荒野の用心棒」も「山猫の夏」も大好きです。特に「山猫の夏」を偏愛しています。
と書けばストーリーの大半がわかってしまうか……。
NoTitle
艦隊・・・。
この響きがっ・・・!
好きっ!!
すいません。
そしてナミさんはあいからわずのずるがしこさですね。
どうするんですか、この賢さ。
この響きがっ・・・!
好きっ!!
すいません。
そしてナミさんはあいからわずのずるがしこさですね。
どうするんですか、この賢さ。
- #2518 ねみ
- URL
- 2010.11/10 22:02
- ▲EntryTop
NoTitle
二大勢力をぶつけてやっつけるというのは「用心棒」以来の黄金のプロットですね。(さて貴作品ではどうなるのか?)
でも、私利しか頭にないようなナミは「続・荒野の用心棒」のジャンゴに近いか?
でも、私利しか頭にないようなナミは「続・荒野の用心棒」のジャンゴに近いか?
Re: ぴゆうさん
ピジョンブラッドのルビーだったらかえって横流しをナミがためらうのではないかと思いまして(^^)
これから1週間あまり、ナミの行動から目を離さないでいただければ……と思っているのですが、うーむプレッシャーが(^^)
第一部だけでもうまく着地できるようがんばるであります。
これから1週間あまり、ナミの行動から目を離さないでいただければ……と思っているのですが、うーむプレッシャーが(^^)
第一部だけでもうまく着地できるようがんばるであります。
NoTitle
ふむふむ、よっぽどデカイ、トパーズなんかね。
私的には、ビジョンブラッドのルビーにしてもらいたかったね。
しかし、ナミは何がしたいのだろう。
最終目的がとても楽しみ。
漁父の利がそうだとしたら、最高だね。
応援するぞなもし。

私的には、ビジョンブラッドのルビーにしてもらいたかったね。
しかし、ナミは何がしたいのだろう。
最終目的がとても楽しみ。
漁父の利がそうだとしたら、最高だね。
応援するぞなもし。

- #2515 ぴゆう
- URL
- 2010.11/10 16:04
- ▲EntryTop
~ Trackback ~
卜ラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
Re: 秋沙さん
もう、ナミもねえ、悪知恵ばかりはたらいて困っておりまして(笑)
第一部のストーリーは頭の中にありますが、第二部がぜんぜん浮かんでいないという。だから第一部終了後はお休みをいただくかもしれませんであります。