「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第一部 沈黙の秋
紅蓮の街 第一部 15-1
15
「ほんとうにこの老人も連れて行くのか」
アグリコルス博士を前に、ガスはうなった。アグリコルス博士もうなった。両者とも、まったくこの事態を歓迎していないことは明白だった。
「当然よ」
白昼、イルミール家の持つ島影で、軍用ガレー船、『火竜』号の船上で静かに波に揺られながら、ナミはいった。
「博士がいなかったら、誰がクワルス芋がほんとうに積まれているのか確認するのよ」
「形さえ教えてもらえれば、おれたちにだってわかるぞ」
ガスの反論に、ナミは憐れむような目を向けた。
「あなたみたいな人がいるから、毒キノコを食べて死ぬ人間が後を絶たないのよ。専門家の目で確認しないわけにはいかないわ。博士だったら、たとえ嘘をつかれたとしても顔色でわかるものね」
ガスはうめいて僚船を見た。
それは一個の艦隊だった。イルミール家の誇る戦闘ガレー船四艘。ガレー船とは、無数の櫂を使って、水の上を滑るように動く、『帝国』海軍でも主力艦に指定している海の化け物だった。水の下、船の先端には巨大な尖った構造物がついていた。これを『衝角』といい、古来より軍船の主武装だった。具体的には、この槍のような構造物で、敵船の櫂を破壊したり、横腹に体当たりして喫水線下に大穴を開け、船を沈没させるのに用いる。これに比すれば、弓矢や兵士は飾りとまではいわないが、副次的なものに過ぎなかった。
だが。
「わかっているだろうが、ナミ、今回の目的は敵商船の捕獲だ、破壊じゃない」
「わかってるわよそんなこと。献策したのが誰だと思ってるの?」
ナミは腰に三本差した短剣を撫でながら、にやりと笑った。
「ブルっちゃったの?」
「誰がだ」
ガスは舌打ちをした。
「単に不安なだけだ。これだけの数の船を、秘密裏に動かせたものかどうか」
「用心深いのね」
「お前よりはましだ」
ナミは帆柱に寄りかかった。ガレー船とはいえ、通常は帆で帆走する。そうでないと、漕ぎ手のほうが参ってしまう。その特徴ある櫂は、戦闘時に使う非常用のものだった。
もちろん、ガレーリョスの護衛船もガレー船だった。漕ぎ手も剣を取って戦う点では、一艘あたりでの総合的な戦闘力ではガレーリョスの船のほうが上だろう。
「やつらは、この海に乗り出して、気が緩むだろう。港までは目と鼻の先だからだ。そこにこの島影から奇襲をかける……」

「ほんとうにこの老人も連れて行くのか」
アグリコルス博士を前に、ガスはうなった。アグリコルス博士もうなった。両者とも、まったくこの事態を歓迎していないことは明白だった。
「当然よ」
白昼、イルミール家の持つ島影で、軍用ガレー船、『火竜』号の船上で静かに波に揺られながら、ナミはいった。
「博士がいなかったら、誰がクワルス芋がほんとうに積まれているのか確認するのよ」
「形さえ教えてもらえれば、おれたちにだってわかるぞ」
ガスの反論に、ナミは憐れむような目を向けた。
「あなたみたいな人がいるから、毒キノコを食べて死ぬ人間が後を絶たないのよ。専門家の目で確認しないわけにはいかないわ。博士だったら、たとえ嘘をつかれたとしても顔色でわかるものね」
ガスはうめいて僚船を見た。
それは一個の艦隊だった。イルミール家の誇る戦闘ガレー船四艘。ガレー船とは、無数の櫂を使って、水の上を滑るように動く、『帝国』海軍でも主力艦に指定している海の化け物だった。水の下、船の先端には巨大な尖った構造物がついていた。これを『衝角』といい、古来より軍船の主武装だった。具体的には、この槍のような構造物で、敵船の櫂を破壊したり、横腹に体当たりして喫水線下に大穴を開け、船を沈没させるのに用いる。これに比すれば、弓矢や兵士は飾りとまではいわないが、副次的なものに過ぎなかった。
だが。
「わかっているだろうが、ナミ、今回の目的は敵商船の捕獲だ、破壊じゃない」
「わかってるわよそんなこと。献策したのが誰だと思ってるの?」
ナミは腰に三本差した短剣を撫でながら、にやりと笑った。
「ブルっちゃったの?」
「誰がだ」
ガスは舌打ちをした。
「単に不安なだけだ。これだけの数の船を、秘密裏に動かせたものかどうか」
「用心深いのね」
「お前よりはましだ」
ナミは帆柱に寄りかかった。ガレー船とはいえ、通常は帆で帆走する。そうでないと、漕ぎ手のほうが参ってしまう。その特徴ある櫂は、戦闘時に使う非常用のものだった。
もちろん、ガレーリョスの護衛船もガレー船だった。漕ぎ手も剣を取って戦う点では、一艘あたりでの総合的な戦闘力ではガレーリョスの船のほうが上だろう。
「やつらは、この海に乗り出して、気が緩むだろう。港までは目と鼻の先だからだ。そこにこの島影から奇襲をかける……」
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~ Comment ~
Re: 矢端想さん
ベンハーのあれは、史実のローマ海軍に照らし合わせると大ウソもいいとこだそうですな。
あれのネタでいちばん笑ったのは、いつぞやの「包丁無宿」で、あの奴隷監督そっくりの人物が太鼓を叩くのにあわせて、さらわれてきた料理人たちが包丁でものを切る、というマンガでした。「料理島編」ほしいなあ!(^^)
宇宙ものアニメで衝角戦術を取った最大の作品は、「氷河戦士ガイスラッガー」でしょうかねえ。あれはその後斬り込み白兵戦になるけど。打ち切りゆえだと思うけど、最終回でのソロン号の勇士たち、犬死に過ぎる……特攻反対!
あれのネタでいちばん笑ったのは、いつぞやの「包丁無宿」で、あの奴隷監督そっくりの人物が太鼓を叩くのにあわせて、さらわれてきた料理人たちが包丁でものを切る、というマンガでした。「料理島編」ほしいなあ!(^^)
宇宙ものアニメで衝角戦術を取った最大の作品は、「氷河戦士ガイスラッガー」でしょうかねえ。あれはその後斬り込み白兵戦になるけど。打ち切りゆえだと思うけど、最終回でのソロン号の勇士たち、犬死に過ぎる……特攻反対!
Re: ネミエルさん
大砲やレーザーやミサイルをばりばり撃ちまくる未来の海戦とはまったく違う、のんびりしたものですのであまり期待はせずに。
イメージ優先で書いているうちに、船の相対的な位置とか状態とかがよくわからなくなってしまった(笑)
やっぱり戦争シーンは地図描いてコマを動かしながら書かなくちゃダメだなあとほほほ。
イメージ優先で書いているうちに、船の相対的な位置とか状態とかがよくわからなくなってしまった(笑)
やっぱり戦争シーンは地図描いてコマを動かしながら書かなくちゃダメだなあとほほほ。
NoTitle
海戦!ガレー船・・・!
ベンハーだ!ベンハーだ!戦闘速度(battle speed)!突撃速度(attack speed)!
衝角?カッコイイ!波動砲だ!マクロスアタックだ!ピンポイントバリヤー!
ベンハーだ!ベンハーだ!戦闘速度(battle speed)!突撃速度(attack speed)!
衝角?カッコイイ!波動砲だ!マクロスアタックだ!ピンポイントバリヤー!
NoTitle
それでネメシエルはどっちにつけばいいんですかっ!
海戦ですか。
非常に楽しみ極まりないです。
僕も海戦を書くことが多いので参考にさせていただきたいです。
海戦ですか。
非常に楽しみ極まりないです。
僕も海戦を書くことが多いので参考にさせていただきたいです。
- #2537 ねみ
- URL
- 2010.11/12 22:20
- ▲EntryTop
Re: ミズマ。さん
ガスくんにとってもアグリコルス博士にとっても嫌なことでしょうからねえ。
ガスくんは乱戦に素人が混じってくるのを嫌いますし、博士は博士で、戦闘に巻き込まれて死にたくはないですからね。
どんなシリアスな場面にもギャグみたいなところは存在する(笑)。
はたしてうまく海戦を描ききれるか、楽しみにこれからの展開をお待ちください(^^)
ガスくんは乱戦に素人が混じってくるのを嫌いますし、博士は博士で、戦闘に巻き込まれて死にたくはないですからね。
どんなシリアスな場面にもギャグみたいなところは存在する(笑)。
はたしてうまく海戦を描ききれるか、楽しみにこれからの展開をお待ちください(^^)
Re: ぴゆうさん
いちおう総司令官はガスくんということになっています。
はてさて海戦はどうなるか……(^^)
魔法を極力使わないことにしているので海戦か陸戦になってしまいますね。この世界観で空戦なんてやったらウソだ(笑)
ついでに火薬も内燃機関もないのでガレー船による海戦であります(帆船が主力艦となるには火薬と大砲の洗練を待たなければならないのです)。これには、塩野七生先生の本がとてもイメージ的に役に立ちました。とはいえうろ覚えなので海戦自体の描写はいい加減なものです。いいのかこんなこといって。
世界史的にガレー船による海戦を描いた本では、塩野七生先生の「レパントの海戦」が面白いですよ(^^)
はてさて海戦はどうなるか……(^^)
魔法を極力使わないことにしているので海戦か陸戦になってしまいますね。この世界観で空戦なんてやったらウソだ(笑)
ついでに火薬も内燃機関もないのでガレー船による海戦であります(帆船が主力艦となるには火薬と大砲の洗練を待たなければならないのです)。これには、塩野七生先生の本がとてもイメージ的に役に立ちました。とはいえうろ覚えなので海戦自体の描写はいい加減なものです。いいのかこんなこといって。
世界史的にガレー船による海戦を描いた本では、塩野七生先生の「レパントの海戦」が面白いですよ(^^)
NoTitle
お祝いコメをありがとう~~
嬉しかったよ~~
海戦になるとは、楽しみだぁ~~
ナミの作戦はどうなるのか。
初戦が大事だよね。
嬉しかったよ~~
海戦になるとは、楽しみだぁ~~
ナミの作戦はどうなるのか。
初戦が大事だよね。
- #2533 ぴゆう
- URL
- 2010.11/12 21:08
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Re: fateさん
しかし、この第一部は単なる「序章」だったりして(^^)