「紅蓮の街(長編ファンタジー・完結)」
第一部 沈黙の秋
紅蓮の街 第一部 17-2
ツザは苛立っていた。
ナミとガス、ふたりがいくら強かろうとも、多数で押しつつむようにしてかかれば、手中の砂糖菓子を砕くように、簡単に討ち取れるものだと信じていた。
そうすれば、衛兵隊長の座は自分に転がり込んでくるはずだったのだが、血にまみれて死体となるのはイルミールの私兵たちだけではないか。
ツザは腹を決めた。
「弓用意! アグリコルス博士に当ててもかまわん! 殺しさえしなければいい! とにかく、あの化け物ふたりに傷を負わせろ!」
次の瞬間、断末魔の悲鳴を上げて斃れたのは……ツザ本人だった。
悲鳴は、船のあちこちで上がり始めた。
「ぎゃっ!」
「うわっ!」
事態の異常に気づいたイルミールの私兵たちが振り返ると、そこには、イルミールでもガレーリョスでもない、第三の兵士たちが、武器を向けて彼らを取り囲んでいた。
多勢とも見えなかったが、その動きは素早く、滑らかで、どこか戦闘機械を連想させるものだった。
何艘かの小船が、ガスとナミとを倒すことに夢中になっているこの帆船に音もなく忍び寄り、『火竜』号との結索を切断して、舷側をよじ登ってきたのだった。
たちまちのうちに、『折れ碇』号の甲板は、大混乱になった。
斃れていくのは、イルミールの兵たちばかりだった。
ガスは、憎悪に歪んだ目で、ナミを見た。
「これか……お前は初めから、これを狙っていたんだな!」
ナミは返り血を浴びた顔を凄惨に歪ませ、それでもなお美しく笑った。
「なんのことかしら? そら、『彫刻屋』さん、まじめに自分の敵に向き合わないと、今度こそ殺られるわよ」
「ナミ……許さねえ。おれはお前を、絶対に許さねえぞ!」
ガスは、戦いの真っ最中というこの状況下でありながら、涙を流していた。それは、戦いの興奮がもたらした涙か、それとも、これまで部下として、同僚として接してきた男たちを自分の手で殺さねばならなくなったがゆえんの涙なのか、または、これまでいいように欺かれて騙されてきた男が、真実を知ったことによる涙だったのか、ガス自身にもよくわかっていなかった。
最後のイルミールの兵士が斃れたとき、急に風が吹いてきた。
ナミがいっていた通り、強い北風だった。船は帆に風をはらみ、滑るように海のうえを動き始めた。
謎の兵士たちは、ガスとナミ、それにアグリコルス博士に向かうと、武器を収めて一礼した。

ナミとガス、ふたりがいくら強かろうとも、多数で押しつつむようにしてかかれば、手中の砂糖菓子を砕くように、簡単に討ち取れるものだと信じていた。
そうすれば、衛兵隊長の座は自分に転がり込んでくるはずだったのだが、血にまみれて死体となるのはイルミールの私兵たちだけではないか。
ツザは腹を決めた。
「弓用意! アグリコルス博士に当ててもかまわん! 殺しさえしなければいい! とにかく、あの化け物ふたりに傷を負わせろ!」
次の瞬間、断末魔の悲鳴を上げて斃れたのは……ツザ本人だった。
悲鳴は、船のあちこちで上がり始めた。
「ぎゃっ!」
「うわっ!」
事態の異常に気づいたイルミールの私兵たちが振り返ると、そこには、イルミールでもガレーリョスでもない、第三の兵士たちが、武器を向けて彼らを取り囲んでいた。
多勢とも見えなかったが、その動きは素早く、滑らかで、どこか戦闘機械を連想させるものだった。
何艘かの小船が、ガスとナミとを倒すことに夢中になっているこの帆船に音もなく忍び寄り、『火竜』号との結索を切断して、舷側をよじ登ってきたのだった。
たちまちのうちに、『折れ碇』号の甲板は、大混乱になった。
斃れていくのは、イルミールの兵たちばかりだった。
ガスは、憎悪に歪んだ目で、ナミを見た。
「これか……お前は初めから、これを狙っていたんだな!」
ナミは返り血を浴びた顔を凄惨に歪ませ、それでもなお美しく笑った。
「なんのことかしら? そら、『彫刻屋』さん、まじめに自分の敵に向き合わないと、今度こそ殺られるわよ」
「ナミ……許さねえ。おれはお前を、絶対に許さねえぞ!」
ガスは、戦いの真っ最中というこの状況下でありながら、涙を流していた。それは、戦いの興奮がもたらした涙か、それとも、これまで部下として、同僚として接してきた男たちを自分の手で殺さねばならなくなったがゆえんの涙なのか、または、これまでいいように欺かれて騙されてきた男が、真実を知ったことによる涙だったのか、ガス自身にもよくわかっていなかった。
最後のイルミールの兵士が斃れたとき、急に風が吹いてきた。
ナミがいっていた通り、強い北風だった。船は帆に風をはらみ、滑るように海のうえを動き始めた。
謎の兵士たちは、ガスとナミ、それにアグリコルス博士に向かうと、武器を収めて一礼した。
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NoTitle
おおーー、ナゾナゾだぁ~~
ツザ・・・短かった。一ページちょっとのお命だったにぃ・・・
ニャンダ、ナミは何を考えているんだ。
フムフム、わけがわからん。
ツザ・・・短かった。一ページちょっとのお命だったにぃ・・・
ニャンダ、ナミは何を考えているんだ。
フムフム、わけがわからん。
- #2605 ぴゆう
- URL
- 2010.11/21 23:21
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Re: ぴゆうさん
ううん……今日明日の2回をお楽しみください。