ホームズ・パロディ
ホームズ・パロディ「小さな勝利」のためのノート
拙作「小さな勝利」http://crfragment.blog81.fc2.com/blog-category-1.htmlに関しては、別にネタのノートを書いたのであるが、ついつい上げ忘れていたのでここに上げることにしたい。
まともな(?)ホームズ・パロディを書くのは実に楽しかった。
もとネタについて薀蓄を垂れるのはもっと楽しい行為である。
「宇宙戦争」「タイムマシン」「透明人間」で有名なH・G・ウェルズがミニチュアを使った戦争ゲームを作っていたというのは本当の話である。「Little Wars」というタイトルで一九一三年に書籍になっている。現在入手可能な、シミュレーション・ボードゲームのルールでは最古のもののひとつだ。日本語訳はされていないが、昔のタクテクス誌の「ゲーム千一夜」という連載の第一回で、簡単な紹介とルールの抜粋が載っていた。今ではとあるサイトでその記事を読むことができる。興味があったら探して欲しい。筆者は洋書を入手できるほど金銭的余裕がなかったのと、だいいち英語が読めないという理由のため、タクテクス誌の記事だけでこの小説を書いた。これを書いた後で、ネット上のEブックのひとつとしてテキストデータが収録されていることを知ったが、あの本一冊分もの英文を読むのはきつそうである。英文版のウィキペディアに「LITTLE WARS」として項目もあったので、興味あるかたはそちらを調べてほしい。
H・G・ウェルズが1型糖尿病だったというのも本当である。だが、当時の医療知識に乏しいので、ウェルズの食生活は純粋に想像の産物である。まあ、インシュリンが未発見である(インシュリンが初めて抽出されたのは一九二一年)以上、こういう食生活でないと死んでしまうのではないだろうか、と思ったのだが。
英国のクラブに食事を出す施設やワインセラーがあるかは知らない。クラブといってもナイトクラブじゃないぞ!
ジャック・フットレルの生み出した愛すべき名探偵、「思考機械」については、創元推理文庫の全三巻の作品集を参照されたい。もっとも、このヴァン・ドゥーゼン教授のもっとも特筆すべき冒険譚、「十三号独房の問題」は別なアンソロジーに入っているのだが。筆者は短編集を入手しそこねたので、図書館から借りてきたアンソロジーに入っていた「13号独房の問題」のみを参考に書いた。ジャック・フットレルはおそらくミステリ作家の中で、もっともドラマチックな最期を遂げた人物であろう。彼はあのタイタニック号の一九一二年四月の処女航海に乗り合わせ、沈没の際に救命ボートの席を他人に譲り、笑って死んでいった真の紳士である。タイタニック号とともに、海の底に沈んでしまった「思考機械」ものの未発表原稿のいくつかが読めるのなら、悪魔にだって魂を売ってやろうというミステリマニアは多いのではないだろうか。
シャーロック・ホームズの「最後の挨拶」事件が起こったのは、作中では一九一三年のことである。だから一九一二年に生きていても問題はないはずだ。まあ、死んでいても、なんとか理由をつけて書いただろうが。
ホームズの推理は、ホームズらしい論理を考えるのに骨を折った。穴だらけの論理だが、一番悩んだところでもある。こんなネタを何十も考えたら死ぬぞ!(笑)
もしもモリアーティーが「ゲーム理論」を使えば、ホームズがかなりの高率で死ぬ運命にあったとは、現代的コンピュータの生みの親の一人、フォン・ノイマンらの分析によるものである。あの天才数学者、こんな分析までやっていたのか。もちろん、「ゲーム理論」は、現代の数学に実在する。思考機械も天才だから、そのくらいの計算と分析はやってのけたであろう。そこのところは、筆者のお遊びである。
モリアーティーの論文の内容については、アイザック・アシモフが「黒後家蜘蛛の会」の一編で展開していた説を面白いので借用した。
ホームズが水晶の卵をひっさらったというのは、マンリー・ウェイド・ウェルマンがホームズ・パスティーシュの歴史に残る傑作「シャーロック・ホームズの宇宙戦争」で展開していたアイデアを借用。この本、ホームズが同じドイルの傑作冒険SF「ロスト・ワールド」の主人公チャレンジャー教授と共同して、ウェルズの「宇宙戦争」の火星人と戦うというぶっとんだ作品である。未読のかたはぜひ入手して読んで欲しいのだが、今は入手困難である。筆者は中学のころ学校の図書館で読んでぶったまげた。
アイリーン・アドラーなどのネタについては、ホームズ譚を読めばいいので詳述しない。
チェスタトンが「ブラウン神父の童心」を発表したのは一九一一年。「見えない男」とは……自分で読んで確かめてほしい。
気がむいたら、また別なパロディを書くかもしれないな。
まともな(?)ホームズ・パロディを書くのは実に楽しかった。
もとネタについて薀蓄を垂れるのはもっと楽しい行為である。
「宇宙戦争」「タイムマシン」「透明人間」で有名なH・G・ウェルズがミニチュアを使った戦争ゲームを作っていたというのは本当の話である。「Little Wars」というタイトルで一九一三年に書籍になっている。現在入手可能な、シミュレーション・ボードゲームのルールでは最古のもののひとつだ。日本語訳はされていないが、昔のタクテクス誌の「ゲーム千一夜」という連載の第一回で、簡単な紹介とルールの抜粋が載っていた。今ではとあるサイトでその記事を読むことができる。興味があったら探して欲しい。筆者は洋書を入手できるほど金銭的余裕がなかったのと、だいいち英語が読めないという理由のため、タクテクス誌の記事だけでこの小説を書いた。これを書いた後で、ネット上のEブックのひとつとしてテキストデータが収録されていることを知ったが、あの本一冊分もの英文を読むのはきつそうである。英文版のウィキペディアに「LITTLE WARS」として項目もあったので、興味あるかたはそちらを調べてほしい。
H・G・ウェルズが1型糖尿病だったというのも本当である。だが、当時の医療知識に乏しいので、ウェルズの食生活は純粋に想像の産物である。まあ、インシュリンが未発見である(インシュリンが初めて抽出されたのは一九二一年)以上、こういう食生活でないと死んでしまうのではないだろうか、と思ったのだが。
英国のクラブに食事を出す施設やワインセラーがあるかは知らない。クラブといってもナイトクラブじゃないぞ!
ジャック・フットレルの生み出した愛すべき名探偵、「思考機械」については、創元推理文庫の全三巻の作品集を参照されたい。もっとも、このヴァン・ドゥーゼン教授のもっとも特筆すべき冒険譚、「十三号独房の問題」は別なアンソロジーに入っているのだが。筆者は短編集を入手しそこねたので、図書館から借りてきたアンソロジーに入っていた「13号独房の問題」のみを参考に書いた。ジャック・フットレルはおそらくミステリ作家の中で、もっともドラマチックな最期を遂げた人物であろう。彼はあのタイタニック号の一九一二年四月の処女航海に乗り合わせ、沈没の際に救命ボートの席を他人に譲り、笑って死んでいった真の紳士である。タイタニック号とともに、海の底に沈んでしまった「思考機械」ものの未発表原稿のいくつかが読めるのなら、悪魔にだって魂を売ってやろうというミステリマニアは多いのではないだろうか。
シャーロック・ホームズの「最後の挨拶」事件が起こったのは、作中では一九一三年のことである。だから一九一二年に生きていても問題はないはずだ。まあ、死んでいても、なんとか理由をつけて書いただろうが。
ホームズの推理は、ホームズらしい論理を考えるのに骨を折った。穴だらけの論理だが、一番悩んだところでもある。こんなネタを何十も考えたら死ぬぞ!(笑)
もしもモリアーティーが「ゲーム理論」を使えば、ホームズがかなりの高率で死ぬ運命にあったとは、現代的コンピュータの生みの親の一人、フォン・ノイマンらの分析によるものである。あの天才数学者、こんな分析までやっていたのか。もちろん、「ゲーム理論」は、現代の数学に実在する。思考機械も天才だから、そのくらいの計算と分析はやってのけたであろう。そこのところは、筆者のお遊びである。
モリアーティーの論文の内容については、アイザック・アシモフが「黒後家蜘蛛の会」の一編で展開していた説を面白いので借用した。
ホームズが水晶の卵をひっさらったというのは、マンリー・ウェイド・ウェルマンがホームズ・パスティーシュの歴史に残る傑作「シャーロック・ホームズの宇宙戦争」で展開していたアイデアを借用。この本、ホームズが同じドイルの傑作冒険SF「ロスト・ワールド」の主人公チャレンジャー教授と共同して、ウェルズの「宇宙戦争」の火星人と戦うというぶっとんだ作品である。未読のかたはぜひ入手して読んで欲しいのだが、今は入手困難である。筆者は中学のころ学校の図書館で読んでぶったまげた。
アイリーン・アドラーなどのネタについては、ホームズ譚を読めばいいので詳述しない。
チェスタトンが「ブラウン神父の童心」を発表したのは一九一一年。「見えない男」とは……自分で読んで確かめてほしい。
気がむいたら、また別なパロディを書くかもしれないな。
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~ Comment ~
初めまして。
たびたび拙ブログにお越し頂きありがとうございます。
今回、「小さな勝利」及び「ノート」を拝見させて頂きました。同年代に活躍した虚実の登場人物を巧みに描いていてとても読み応えがありました。恥ずかしい限りですが、「ノート」に記された事柄は殆ど初耳で大変勉強になりました。それから「タクテクス」懐かしいでね。私はシミュレーション・ゲームではなく、ロールプレイング・ゲームの記事を愛読してました。
長くなってすみません。なかなか時間取れませんが、ホームズ物から読み進めたいと思います。
たびたび拙ブログにお越し頂きありがとうございます。
今回、「小さな勝利」及び「ノート」を拝見させて頂きました。同年代に活躍した虚実の登場人物を巧みに描いていてとても読み応えがありました。恥ずかしい限りですが、「ノート」に記された事柄は殆ど初耳で大変勉強になりました。それから「タクテクス」懐かしいでね。私はシミュレーション・ゲームではなく、ロールプレイング・ゲームの記事を愛読してました。
長くなってすみません。なかなか時間取れませんが、ホームズ物から読み進めたいと思います。
Re: 面白半分さん
たいへんでしたが……。
書いていてむちゃくちゃ楽しかったのも事実です(^^)
ゲームでミステリで大好きな名探偵をふたりも出して、有名人まで出したんだから楽しくないわけがありません。
これでミステリにしていたら鮎川賞に……(枚数が足りません)
書いていてむちゃくちゃ楽しかったのも事実です(^^)
ゲームでミステリで大好きな名探偵をふたりも出して、有名人まで出したんだから楽しくないわけがありません。
これでミステリにしていたら鮎川賞に……(枚数が足りません)
NoTitle
いろんなネタを消化した上で書かれているんですね。
生みの苦しみは当然あるのでしょうが
なにやらこのノートからは
楽しい雰囲気が伝わってきました。
生みの苦しみは当然あるのでしょうが
なにやらこのノートからは
楽しい雰囲気が伝わってきました。
- #4463 面白半分
- URL
- 2011.06/29 21:07
- ▲EntryTop
NoTitle
「小さな勝利」とこちらの記事と、あわせて読みました。
二次創作の分野には手を出したことも、手を出す予定もないのですが、こうして拝読すると元の作品世界の良さを引き出しつつ、ポールさん流の味付けによって豪華な料理となっていますね!
ラスト一行に至るまでとても楽しめました^^
二次創作の分野には手を出したことも、手を出す予定もないのですが、こうして拝読すると元の作品世界の良さを引き出しつつ、ポールさん流の味付けによって豪華な料理となっていますね!
ラスト一行に至るまでとても楽しめました^^
Re: ローガン渡久地さん
うわー、拙作を読んでいただいてありがとうございます。
わたしが大のボードゲームファンなもので、ああいう話になってしまいましたが、そうですね「好きではない人」にとってはつらいだけですよね(^^;)
品格があるどころか、前に小説を投稿した雑誌の編集部からは「あなたの小説は小説になっていません」という講評をちょうだいしてしまったトホホなやつですが、どうかよろしくお願いいたします~。
ちなみにわたしが好きなホームズ譚は、「まだらの紐」「赤髪組合」「踊る人形」です。定番ですね(^^)
ぜひともローガン渡久地さんの二次小説も読みたいのですが、あいにくとイラストに惹かれてブログを読んでいるものの、わたしあのアニメ見たことないんですよ。
それでもわかるかなあ。
ちょっと不安ですが、またいろいろと覗きに来てください~。「探偵エドさん」「ショートショート」「昔話シリーズ」の中からどれかを選べば、まあだいたい楽しめると思います~(^^)
わたしが大のボードゲームファンなもので、ああいう話になってしまいましたが、そうですね「好きではない人」にとってはつらいだけですよね(^^;)
品格があるどころか、前に小説を投稿した雑誌の編集部からは「あなたの小説は小説になっていません」という講評をちょうだいしてしまったトホホなやつですが、どうかよろしくお願いいたします~。
ちなみにわたしが好きなホームズ譚は、「まだらの紐」「赤髪組合」「踊る人形」です。定番ですね(^^)
ぜひともローガン渡久地さんの二次小説も読みたいのですが、あいにくとイラストに惹かれてブログを読んでいるものの、わたしあのアニメ見たことないんですよ。
それでもわかるかなあ。
ちょっと不安ですが、またいろいろと覗きに来てください~。「探偵エドさん」「ショートショート」「昔話シリーズ」の中からどれかを選べば、まあだいたい楽しめると思います~(^^)
「ホームズ」と聞いて・・・
初めてコメントを差し上げます。
ポールさん、「母の日」を如何お過ごしですか?
私も多くの日本人と同様、子どものときに挿絵付きのホームズ本(アイリーン・アドラーが出るあのお話やヴァスカビルの魔の犬のお話)を繰り返し読んだクチです♪♪♪
ですから「小さな勝利」も興味深々で読み始めました。
文体も会話も「ホームズ風」で雰囲気を楽しめましたよ。
ただ題材が、おバカな私には難しすぎて、というかボードゲームに興味がないもので、後半は眉間にしわを寄せながらついていくのに必死でした。
失礼な事を述べて申し訳ありません。
手前みそですが、私も数日前から「分水嶺」で二次創作の短編を書き始めました。
ですから今回、ポールさんの作品を教科書にするつもりで読ませて頂きました。
「小さな勝利」では、品格がありながら平易な言葉を選び、またリズムのある文章に大変惹かれました。
御迷惑でなければ、またこっそり覗かせて下さい。
ポールさんの作品をお手本に少しでも私も向上していけたら・・・と思っています。
長々と失礼しました。
ポールさん、「母の日」を如何お過ごしですか?
私も多くの日本人と同様、子どものときに挿絵付きのホームズ本(アイリーン・アドラーが出るあのお話やヴァスカビルの魔の犬のお話)を繰り返し読んだクチです♪♪♪
ですから「小さな勝利」も興味深々で読み始めました。
文体も会話も「ホームズ風」で雰囲気を楽しめましたよ。
ただ題材が、おバカな私には難しすぎて、というかボードゲームに興味がないもので、後半は眉間にしわを寄せながらついていくのに必死でした。
失礼な事を述べて申し訳ありません。
手前みそですが、私も数日前から「分水嶺」で二次創作の短編を書き始めました。
ですから今回、ポールさんの作品を教科書にするつもりで読ませて頂きました。
「小さな勝利」では、品格がありながら平易な言葉を選び、またリズムのある文章に大変惹かれました。
御迷惑でなければ、またこっそり覗かせて下さい。
ポールさんの作品をお手本に少しでも私も向上していけたら・・・と思っています。
長々と失礼しました。
- #1191 ローガン渡久地
- URL
- 2010.05/09 18:18
- ▲EntryTop
いらっしゃいませ!
>Thomerthさん
ありがとうございます。
パスティーシュというにしてはおふざけが過ぎたかとも思ったのですが。
これからもよろしくお願いします。
ありがとうございます。
パスティーシュというにしてはおふざけが過ぎたかとも思ったのですが。
これからもよろしくお願いします。
No title
別途感想をお知らせしたような気もするのですが、
これは良いパスティーシュですねぇ☆
結構、難しいンですよねー具合の調整が。
やり過ぎるとホームズじゃなくなるし。
面白かったです。
しかも戦略シミュになっているところ、流石ポールどの。
ちゃんと作家色も出ていますね-。
これは良いパスティーシュですねぇ☆
結構、難しいンですよねー具合の調整が。
やり過ぎるとホームズじゃなくなるし。
面白かったです。
しかも戦略シミュになっているところ、流石ポールどの。
ちゃんと作家色も出ていますね-。
- #14 Thomerth
- URL
- 2009.02/28 21:28
- ▲EntryTop
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Re: シャオティエンさん
恥ずかしい過去ですが、わたしは「まの部屋」の常連投稿者だったことがあります。
しかしあのころのホビージャパンは気前がよかった! 投稿してシミュレーションゲームいっぱいもらった!(^^)
特撮のお話、面白いです。もっと読みたいです(^^)