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    「ナイトメアハンター桐野(二次創作長編小説シリーズ)」
    1 ナイトメア・ハンターの掟(完結)

    ナイトメア・ハンターの掟 4-5

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    第四章 遅れてきた男(承前)

    「え?」
     是蔵忠道の驚きは、真実のもののように見えた。
    「あなたは、その若さで『レジェンド』だと速水さんから聞いています。それなのに……」
    「ええ。その『レジェンド』がなんだかわからない」
    「『レジェンド』がわからないとは……どうやってあの『アントライオン』の一夜を生き延びたのですか!?」
    「『アントライオン』? それはなんですか?」
    「あなたは……まったく、無知とはある意味で幸いなのかもしれません。おととし、二〇〇一年の十一月、あなたは何をしていましたか?」
    「二〇〇一年の十一月? わたしは研修医をしていましたが」
    「ナイトメア・ハンターとしてです」
    「そのころは、わたしは自分にこんな能力があるなんて知りませんでした」
    「なんてこった。ナイトメア・ハンターとしての能力が抑圧されていたため『アントライオン』に気付かずにやり過ごせたとは」
     是蔵忠道は額に手をやり、速水鈴音は目を伏せた。
    「教えてください。いったい『アントライオン』とはなんなのです」
     わたしが身を乗り出したときに、ウェイトレスが料理を持ってやってきた。
    「お待たせしましたあ。チキンドリアのお客様……はい、はい。ミックスフライセットはこちらですね。そちらのかた、コーヒーおかわりは? はい。こぼさないでくださいね。では、ごゆっくりどうぞ」
     話の腰を折られてしまった。
    「食事にしましょう、桐野さん。料理は、できるならおいしく食べたいですからね。これから話すことを、不運だと思うか幸運だと思うかはわかりませんが、もしかしたらあなたの自尊心を傷つけることになることかもしれませんので」
     是蔵忠道はそういうと、ミックスフライに取りかかった。わたしは困惑しながら速水鈴音に目を向けたが、首を左右に振られただけだった。
     チキンドリアはさすがにうまかった。しかし、頭の中には大きな疑問符が巣食っていたため、味も三割減くらいになっていた。
    「で」
     是蔵忠道がメンチカツの最後のひとかけらを口に入れたところで、わたしは再び問い直した。
    「『アントライオン』とは?」
    「『神々の夢』です」
    「神々の……夢?」
    「ナイトメア・ハンターたちの、汚辱と受難の物語です……」
    「受難?」
    「『ユニオン』はご存知ですか」
    「『ユニオン・ジャッカー』と名乗る集団には心当たりがありますが」
    「『ユニオン・ジャッカー』?」
     是蔵忠道は不思議そうに首をかしげた。
    「聞いたことがないですね。速水さん、あなたは?」
    「いえ。あたしも」
    「ナイトメア・ハンターについてなにやらやっているようでしたが。うさんくさくて腹立たしいやつらでした」
    「桐野さん、後でそいつらについて教えてください。頼みます。おっと、今は、『ユニオン』のことでしたね。ユニオンは、もともと、ナイトメア・ハンターを束ねる協会でした」
    「ナイトメア・ハンターを? そんな組織ができるほど、ナイトメア・ハンターがいたのですか?」
    「いた、といっても、世界の人口に比べれば、微々たるものですよ。だいたい十五年ほど前がピークだったかな? それはさておき、ナイトメア・ハンターはその協会を通してゆるいつながりを持っていたのですが、数年前、ひとりの男が協会に現れたときから、おかしくなりました。わたしたちは、そいつを『金と銀の瞳の男』と呼んでいます。この男は、協会を『ユニオン』にした」
    「……」
    「桐野さんは、人間以外の存在に『ドリームダイブ』したことがありますか?」
    「ドリームダイブ?」
    「夢に入ることです」
     速水鈴音が横から説明してくれた。
    「夢に入ることを、『ドリームダイブ』、夢の中でものを作ることを『ドリームメーカー』というんですよ」
    「わたしは、『物象化』と呼んでいました」
    「廣松渉みたいですね」
    「まあ、一般教養でかじりましたから。それはそうと、人間以外の存在の夢に入ったことは二度ほどあります。一度はカメラ、もう一度はコンピュータで作られた擬似人格でした」
    「短い期間内にそうとうな体験を積まれたようですね。後で、差し支えない範囲で教えてはいただけませんか? ……話を戻します。『金と銀の瞳の男』は、自らの目的のために、人間以外のとあるものにドリームダイブを繰り返した……なんだと思います?」
    「是蔵先生、わたしは神様じゃないですよ。わかるわけがないじゃないですか」
     是蔵忠道は乾いた声で笑った。
    「桐野さん、惜しいですね。いいところまでいったのですが。答を教えましょう。そいつは、『神』にドリームダイブしたのです」
     なにをいっているのだかわからなかった。
    「神?」
    「正確には、『神々の遺骨』と呼ばれる謎の物質へのドリームダイブです。やつの登場以来、協会は、神の見ている夢に入ることを専一の目的とする、選民思想もいいところの集団、『ユニオン』へと変わってしまった。やつの目的、それは、人間が神と化すこと、それも、悪意ある神と化すことに他なりませんでした」
    「誰も止めようとはしなかったのですか」
    「協会が『ユニオン』へと変わり始めた頃から、心あるナイトメア・ハンターたちは、その暴走を止めるために活動を開始しました。しかし、組織されていないわたしたちはあまりに非力だった……。『金と銀の瞳の男』の傑出したカリスマ性と統率力の前に、斃れて行くばかりでした」
    「……」
    「二〇〇一年、『ユニオン』の本部があるジュネーブに、ナイトメア・ハンターたちが集結しました。一方は『ユニオン』を守るべく、もう一方は『ユニオン』を倒すべく。二派にわかれたナイトメア・ハンター同士により、血で血を洗う恐るべき戦いが繰り広げられました。そしてあの夜を迎えたのです。しし座流星群が降りそそいだ日、『金と銀の瞳の男』は、神々と同じ夢を見ることに、人間が神となることに、成功してしまったのです!」
    「それが……」
    「『アントライオン』の夜です。アントライオンとは上半身がライオン、下半身がアリの、想像上の怪物を指します。しし座流星群の夜だったからこう呼んでいるのですが。そのとき以来、ほとんど全てのナイトメア・ハンターは、夢の力を失ってしまった」
    「ほとんど?」
    「桐野さん、あなたがいるからです」
    「わたしが?」
    「わたしの知っている限りにおいて、昔ながらのナイトメア・ハンターそのままの姿で能力を使えるのは、桐野さんを含めても片手で足りない数だけなんです。会ったことがあるのは桐野さんだけだ」
    「ちょっと待ってください。そこの鈴音さんもナイトメア・ハンターとしての能力をお持ちではないんですか」
    「ああ」
     是蔵忠道は首を振った。
    「彼女は『ディープルート』です。桐野さんとは違います」
    「『ディープルート』とはなんですか?」
    「アントライオン後に、隔世遺伝のようにして目覚めたナイトメア・ハンターのことです。わたしたちはそう呼んでいます」
    「それじゃ、わたしもそうじゃないですか」
    「いえ。あなたは夢の中に入ったときに、ご自分の姿をとどめておられる。彼女は、自分以外の身体に自分を投影しないと夢の中で活動できない。あの、赤いスーツの肉感的な美女です。また、超能力を使うこと以外は、専門的な知識を使うこともできません」
    「どうして他人のことをそこまでご存知なんですか」
    「彼女に夢に入ってもらったことがあったからです」是蔵忠道はきっぱりといった。「わたしの命の恩人ですよ」
    「鈴音さんが『ディープルート』で、わたしが、『レジェンド』ですか」
    「そうです。『レジェンド』とは、『ディープルート』と対になる概念で、『アントライオン』の一夜の前からナイトメア・ハンターだった人間のうち、未だにその能力を失わなかった、半ば伝説と化したナイトメア・ハンターを指します。桐野さんは、本来ならばもっと早くナイトメア・ハンターとして覚醒していたはずだった。だが、あなたは、亀のように自分の中に身を潜め、ただひとり太平楽にカタストロフを乗り切ったんです。あの『アントライオン』の一夜に、ナイトメア・ハンターとしての能力を全て失ってしまい、速水さんと逢うまで悪夢に悩まされていたわたしには、あなたのその太平楽さが……」
     是蔵忠道は、そこまで一息にしゃべると、ふいに言葉を切り、背もたれにもたれて力なく笑った。
    「いや、いいでしょう。あなたにいっても、仕方がない。これだけは覚えていてください。あなたは、『レジェンド』、遅れてきた『レジェンド』なのだということを」
    「……」
    「桐野さん、今度はあなたがしゃべる番です」
     守秘義務を説いても無駄だろう。
     わたしは、隠すところは隠しながら、自分の体験を手短に語った。
    「桐野さん、これまでずっとひとりで戦ってこられたのですか?」
    「ひとりです」
    「あなたは実に運がいい、としかいいようがないです。たいしたことのない相手にばかり当たっているようで」
     わたしはぬるくなったコーヒーを口に含んだ。なぜか、やたらと苦かった。

    第四章 了
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    ~ Comment ~

    Re: 有村司さん

    それについてはゲームのほうを(^^)

    好き勝手やってますけど二次創作なもので(^^)

    是蔵さん!!レジェンド、レジェンド言いながら、ちっとも褒めてないし!!(苦笑)

    とにかくナイトメアハンターの世界が、とんでもない広がりを持っていることは、おぼろげながら分かってきました。

    夢は無限ですねえ…(ため息)

    Re: lime さん

    元ネタのTRPGは、設定そのものがポーンと置いてあるようなもので、小説になってはいません。

    その設定の一部のみを拝借して使っているので、別に内容を知らないからといって支障がでるようなことはないはずであります。この小説で生きた人間として出てくる登場人物は、全員わたしの創作ですし……。

    冒頭の記事がうまく伏線回収できたらおなぐさみ。
    回収できていなかったらどんどんツッコんでください(^^)

    NoTitle

    こんばんは。4章読みました。
    新しい、知らない名称がいっぱい増えて、桐野さんと同じく、戸惑っています。
    このお話は元になっているお話の2次創作なんですね?
    もとの話を知らなくても大丈夫でしょうか。

    冒頭に出てくる事件記事が、今後どう関わってくるか、楽しみです。

    Re:NoTitle

    >れもんさん

    ここらへんからは、元ネタのゲームのルールブックがリメイクと同時に改訂されてしまったので、もうやけくそで書いてます(^^;)

    5章はもっとやけくそで書いてます(^^;)

    そういう作者の苦闘ぶりも見ていただければ面白いかと(笑)。

    NoTitle

    なかなか、これなくてすいません;

    なんか色々明らかになっていて、心臓どっきどきです;
    桐野さんが、レジェンドだとか・・・

    にしても、鈴音ちゃんの夢の中と現実の見た目が違ったのは、ディープルートだったからなんですね((納得

    5章、また読みに来ます!

    >佐槻勇斗さん

    桐野くんに対するこの言葉は、是蔵先生の内心の苛立ちの表れです。なんでおれは能力を失ってしまったのにこんなやつが、というあれですね。

    是蔵先生は大人ですから表立っては出しませんが、言葉の端からこういう思いがつい噴出してしまったのでしょう。

    是蔵先生も是蔵先生で、自分の失言はわかっているはずです。

    ……というつもりで書きました。(^^)

    難しいな小説。

    訪問が遅くなってしまい申し訳ありませんっ><、

    えー、こほん。
    想像力を深めるため、佐槻はアントライオンを頭の中で作ってみました♪
    すごくバランス悪い感じのが出来上がって指先が冷たいです(^ω^;)

    なんだか軽く桐野さんバカにされてるみたいでかわいそう。でも、レジェンドは貴重な存在なんですよね。うーん;;;

    また読みに参ります。それでは。

    >神田夏美さん

    先にネタをばらしてしまいますが、ここで書かれた要素の大半は、この小説では明かされません。
    なぜなら、ここで書かれているネタは、ほとんどが元のルールブックで「世界設定」として与えられているもので、ユーザーがどうこうできるものではないからです。
    ルールの原作者がなんらかの形で「新たな事実」とか「真相」とかを発表してくれたら別ですが、そうでなければ、わたしのような一ファンは、その周りをぐるぐる回りながら当たり障りのないことを書くしかないのであります。
    二次創作のつらいところであります(汗)。

    これに対して、クリスと「ユニオン・ジャッカー」はわたしのオリジナルですから、こっちのほうはきちんと真相を書いてケリをつけていますので、そちらのほうでお楽しみください。というかなにこの敗北宣言(汗汗)。

    おおお……何だかナイトメア・ハンターについて色々なことが明かされていく上、「神」とは……どんどん話が大規模になってゆきますねー^^
    とりあえず、『神々の遺骨』と呼ばれる謎の物質の正体(?)が気になります。神は一体どんな夢を見るのやら。
    そして四章はこれで終わりらしいですが、終わりというよりまだ続いているような感じの終わり方ですので、五章も楽しみに読ませて頂きます。
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